第213話 第3のフォビトン

「……」


 空中で弓矢に囲まれたロイスは無言のままホウキに跨がり、刀を逆手に持ち替え電動ノコギリの様に縦回転をし始める。

 凄まじい回転で矢の包囲網を一瞬で叩き切り突破してしまう。


『こっちだ……』


 ロジャースさん達に庇われながら草陰に隠れるよう指示され彼等の後ろをついて行く。草陰を抜けると、数人の冒険者と傭兵達。皆どこかで見たような……ガンテツ屋を今もひいきしてくれている人達が居た。

 皆俺を見るなり笑みを浮かべ無言で挨拶してくれる。


「皆さん……こんなに……」

『ここに居るのはほんの一部だ。この地域に他の組が潜んでいる。代表は現状俺だ。統率を取り魔具のイヤリングでそれぞれのチームに指示を出している』


 ロジャースさんは現状を説明してくれる。


『今、王都ネバは混乱が起きている。大規模魔法の痕跡が王都まで及んだこと、そして大きな爆発。一般人の混乱を抑えることに国が対応している。憲兵がほぼこちらに回せない状況だ。つまり、このクエストに国の兵達が加わることはまだ難しいということ。我々冒険者や傭兵の力で奴を食い止める必要がある』


 大規模魔法は恐らく俺とコハルが発動させてしまった地球の魔法元素キューブのことで、爆発はロイスの魔法のことだ。

 昨日の今日と考えると市民が混乱を起こしても仕方が無い。


「そこで、ガンテツさん達が動いてくれたのか……」

『ああ、きっと……君が関わっているということは状況を見て彼等も動いてくれたのだろう。だが、報酬配分も相場以上でまともな思考なら怖じ気づきそうな金額だった。それだけ少し気になっている』


 報酬がいくらなのかは聞かなくても、なんとなくわかる。ガンテツやアンジュ達の計らいもあるが、この迅速な行動力は斥候スカウトギルドも関わっているに違いない。

 ガンテツさんの看板をかかげれば熟練の冒険者達が動いてくれる踏んだんだろう。


『イット君、とりあえず状況を把握したい。今、俺達が倒す敵の情報を』

「……はい!」


 俺は俺達の相手、ロイスについて隠さず簡易的に話した。

 魔王討伐したロイスが瘴気にやられ魔王に人格を乗っ取られていること。

 魔法で魔王を引き剥がそうとしたが失敗したこと。

 主力の魔道具を破壊したが、異空収納具マジックボックスから次々と新しい魔道具を使い戦闘能力は衰えない。

 魔法も、持っている道具も、身体能力も、剣技も、頭の良さも、

 能力は全て俺の上位互換……いや、もはや比べものにならない力の差がある。


「すみません……俺の出来る限りのことはしました。でも、俺の力では解決方法が見つからなかったんです」


 数人の冒険者の前で謝る。

 先ほどロジャースさんが俺の指示がほしいっと言っていたが打つ手がない。

 俺に期待していたのかもしれないが、俺の実力はこんなものだ。

 申し訳ない気持ちで、彼等の顔が見れなかった。


『そうか、有益な情報をありがとう。よく生き残ってくれた』


 俺は優しく肩を叩かれた。


「いや、それでも解決法は見つかってないんですよ。相当な被害を受けて振り出しに戻ったってだけで、打つ手が無くて……」

『打つ手が無いなんて、我々からしたらしょっちゅうだ。それがわかっただけでも前進している』


 ロジャースさんの言葉に皆は半笑いで頷いた。


『イット君、ブランクが空いて忘れてしまったのか? 冒険者はいつだって手探りだ。上手くいくことなんてそうそう無い』


 落ち着いた穏やかな口調で表情のわからないドラゴンフェイスの甲冑の彼は語る。そして、徐に背中に背負った大剣を握った。


『わからなくてもやるべきことは変わらない。俺達が出来ることは何とか物理的に倒す手段のみ。死んでも神官や薬があれば蘇生できる。臆することは無い』

「倒す……」


 つまり、ロイスを殺すということ。

 当然だ。今はもうその手段しかない。

 全力で……ぶつかりにいくしか……




・私の案に乗らないか?


 突然、昨日の夜ベノムに言われたことを思い出した。


・作戦ってほどでもない内容さ。

・正直ロイス相手に作戦を立てて上手くいく保証がない。


 ……そうだ。

 そもそもこんな巨大な相手に小細工なんか通じない。


・だが、君が一番輝ける舞台は整えられる。


 輝ける……


・君の力が出し切って、ロイスを倒す為の戦況は今すでに準備中だ。


 結局その作戦は勿体ぶって教えてはくれなかった。行けばわかると言うだけ。





 カチッ――




 もしかして、ガンテツ屋の依頼で集められた冒険者達のことなのか?

 いや、ワーウルフ達もそうなのだろう。

 俺の力を発揮する為に呼びかけたのか?

 でも、彼等が集まって俺が出来ること?

 俺が輝けることっていったい……


「……」

『……もしかしたら、また良い考えが浮かぶかもしれない。君ならそれが出来るだろ? コハルちゃんがいつも言っていたぞ』


 そうだ……ロジャースさんは初めて会った時からコハルと仲良くしてくれたお得意さんだった。

 コハルが俺のことについて何を話していたのかはわからないけど、きっとそれで期待してくれてるのかもしれない。

 そして、冒険者歴なら俺よりも圧倒的に長い。


「……ありがとうございます。今のところ良い案が確かにありません。ロジャースさんの言葉通り真っ正面からぶつかるしか……今は勝機が無い」


 俺の言葉に周りの冒険者も「そうこなくっちゃ!」っとこんな状況をどこか楽しむように同意した。


『よし、そうとなったら正面から勝つ陣形と行動ルーチンを――』

「それは、考えがあります」


 ロジャースさんの言葉を遮ってしまったが、俺が出来ることを中心で考えた時

、俺の役目はこれしかなかった。


「皆さんはなるだけ一斉に攻撃せず一人一人が波状攻撃をしかけてください。ロイスは囲まれた時も簡単に対応してしまう。長期戦でかつ足止めをするならそれが最善です」

『ふむ、了解した。言うて相手は一人だからな』

「そしてすみません……俺では無く、引き続きロジャースさんが冒険者達の指揮をお願いします」

『……それは良いが、君はどうする?』


 俺は、言葉を強める。


「俺もにでます。付加魔法使いエンチャンターである俺が、死ぬ気でサポートします」


 そう、俺の職業は付加魔法使いエンチャンター

 使えないと言われ続ける不遇職。

 だが、その力は数の暴力になればなるほどその効果は大きくなっていく。

 そして、何より俺は世界を救いに来た勇者だった。

 世界は救えなかった。

 でも、友達は救えるかもしれない。


「おいおい、正気かよ?」


 中々の装備を身につけた冒険者の一人が呆れたように聞いてくる。


「話は聞いているが、アンタ付加魔法使いエンチャンターだろ? 嫌みじゃないが本当に最前線で大丈夫なのか?」

「はい、寧ろやらせてください」


 皆が困惑する中、俺は息を整える。


「これから禁術を使いますので、他言無用でお願いします」

「禁術!?」


 俺は自身の身体から魔法元素キューブを取り出し身体の情報ステータスを大きくイジり始める。


「ま、まじかよコイツ……禁術って、大丈夫なのかよ……」

『イット君は勇者パーティーの一人だ。そして、もう一人の勇者でもある。信じようじゃないか』


 冒険者を宥めてくれるロジャースさんに感謝しつつ身体の情報を改造し終わる。


「ロイスを倒す。その為に俺の身体を特化させる」


 俺は意を決して呪文を唱える。


「第3の禁術、人体自動化改造オートマトン・カスタマイズ


 俺の周囲に青い光の線が纏わり付く。

 そして頭上に、青白い天使の輪っかが形成された。

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