ファイナルステージ:後半オールイグジスタンス
第212話 大規模クエスト
大きな木々が立ち並ぶ林。多くの植物を掻き分けながら俺達を運ぶタウ達ワーウルフは木陰の中を走り抜ける。
「どこへ向かっているんだタウ?」
俺はソマリが振り落とされないように抱えながらタウに話しかけると彼はすぐに返答してくれる。
「エルフに作戦地点を伝えられた。そこまでお前達を誘導する」
「作戦? ベノムが?」
「そこに協力者いる。人間達――」
タウがそう話している最中。
「きゃんッ!?」
後方から犬の悲鳴と共に爆発音が聞こえた。後ろを振り返ると、後方から着いてきたワーウルフが爆煙と共に吹き飛ばされていた。
更に後方へ目を細めると、宙に浮き絵に描いた様な魔法のホウキに跨がって木々を避けながら空を飛ぶロイスの姿だった。
「空飛ぶホウキもあるのかよ……」
ファンタジー世界だが見たこと無かった。あからさまな魔法のアイテムに苦笑を押さえられない。
そんな最中、ロイスはホウキの上にバランス良く立ち両手からそれぞれ
「
同じ魔法の同時展開呪文が響く。
ワーウルフの群れを挟むように土の壁が急激に盛り上がっていく。壁は俺達を追いかけるように生成され徐々に道を狭めていく。
「退路が断たれる!」
「大丈夫だ道は造る!」
俺は両手で
「
魔法元素が地面に溶け込む。
俺達に立ちはだかった土の壁に無理矢理何人分もが通り抜けられる程の大きな穴がこじ開けられるように開いた。ワーウルフ達は陣形を細めながらも勢いを止めずに走り続ける。
「――上だ!」
土のゲートをくぐり抜けた時、タウが頭上を指す。
「逃がさない!
足に風魔法を付加したロイスがホウキを手放し刀を向けて俺等を目掛けて突撃してくる。
『偉大なる祖よ。邪を写し汚れを祓う聖鏡を与えよ……』
息を切らせながら俺の隣でしがみつくソマリが奇跡の鏡を出現させる。鏡に刀が当たるとロイスは弾き飛ばされ後方へと離れていく。ホッとするの束の間だった。
「スティール!」
飛ばされるロイスのかけ声が響くと、無人で飛んでいた空飛ぶホウキが一瞬で彼の手元へと戻される。彼がホウキに跨がると、風の魔法の影響からか更に加速して近づいてくる。
「ソマリ大丈夫か!」
「う、うん……傷は浅いんだけど……」
明らかに冷や汗を垂らし指された肩を押さえ続けるソマリ。
明らかに様子が変だ。
「……まさか、あの刀には毒が仕込まれているのか」
「違う……あれもエレメンタルソードと同じ魔剣だよ……」
「やっぱりそうなのか……でも、毒じゃないって言うといったい……」
「イット君も戦ったあの剣だよ……」
息絶え絶えのソマリの言葉に、改めてロイスを見ると、すでに彼は刀を居合いのように腰に構え長い髪をなびかせ、大砲の弾のように空中からこちらへ向かってくる。
『偉大なる祖……ごめん、息が続かな――」
「無理するなソマリ!」
俺はエレメンタルスタッフを起動し先端から氷の刃を出現させ、ロイスの抜いた刃と打ち合わせる。
「うっ!?」
「ふふ……」
破片を飛び散らせながらも氷の刃でいなす。その時、彼の刀にデジャビュのように見たことのある既視感を覚えた。
「……その刀は」
「気づいたかいイット君? 君と冒険していた時、最初に受けたSランククエストの吸血鬼が持っていた剣を溶かして打ち直してもらったんだ!」
そのままロイスは振り抜いた刀の遠心力を殺さず回転して二撃目を繰り出す。
「僕がネームドした『ムラマサ』って言うんだよ! 日本刀の名前みたいで格好いいだろ!」
「クソ……」
それで俺は納得した。
ソマリはあの刀に
「イット伏せろ!」
足下のタウが指示し、俺は氷の剣を解除し姿勢を低くする。ロイスの二撃目の刀が刃であった氷柱にぶつかりキラキラと木漏れ日を反射させながら砕け散る。
彼が振り抜き隙が生じた所へ、
「ウォン!!」
狼の鳴き声に紛れて、一本の斧が回転しながらロイスへ向かっていく。きっと、陣形の外側にいるワーウルフがこちらへ支援攻撃をしてくれたんだと思う。
「……ッ」
ロイスは斧を避ける為、後ろへ飛ぶ。
斧はそのまま木に刺さり流れ去って行く。ロイス後方のワーウルフの上に着地するが、それを拒まれ振り落とされる。
「スティール!」
彼の声が響くと手元に空飛ぶホウキが戻り、空中で立て直される。
「ダメだ……これじゃあ堂々巡りになる」
「大丈夫だ。もう少しで着く!」
「大丈夫っていったい……」
タウも息を切らせながら走り続け――
そして、
「着いた! 前を向け、イットとねえちゃん!」
彼の掛け声に俺達は進行方向を向いた。
すると、その先は茂み。
「……え?」
茂みの隙間、左右から2本の腕が伸びてきた。
「ッ!!」
「へ!?」
タウの上に乗っていた俺とソマリはそのまま2本の腕に掴まれる。成人の体重にも関わらず勢いを殺して草陰に俺達を座らせた。
『……調子はどうだ?』
「え!?」
俺の横には覚えのある低い声に俺は顔を見る。大剣を背負いフルプレートアーマーにドラゴンフェイスの兜を被った大柄の男。
そして、ソマリを抱えるのは同じくフルプレート着た大盾を背負うリザードマン。
いや、リザードウーマンだった。
「ロジャースさん!?」
ガンテツ屋の常連。
たまに顔を合わす傭兵のロジャースさん……と、確か俺と同じ異種族間結婚した嫁さんだ。
『コハルちゃん、最近見ていないが元気か?』
「は、はい、元気ですけど……いや、そんな話はともかく。どうしてここに!?」
『ああ……今朝、ガンテツ屋から緊急のクエストが出たんだ』
ガンテツ屋……アンジュとガンテツさんが……
『イット君。君が今魔王になろうとしている友人と戦おうとしているな。だから助太刀にきたんだ』
そう言うとロジャースさんは、軽く手を上げる。すると木の陰や上から葉の擦れる音が聞こえる。
そこには、ガンテツ屋で見かける冒険者達の姿だった。
彼等は弓矢ボウガン、中には
『正直、我々の力が通じるかわからない。やれることはたかがしれているが、時間は稼げる』
ロジャースさんは上げた手を下げる。
『君が鍵だ。どうか指示をしてくれ』
追ってきたロイスの気配を感じた瞬間、冒険者達は彼に向かって一矢を放った。
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