第188話 ロイスの過去
カチッ――
まずどこから彼のことを調べようかと考え連想すると、ふと思い出したのがこの言葉だった。
「……夏の立体パズル世界大会」
彼の存在を知ったのは、前世で世界大会の動画を見てからだった。
あの動画は忘れもしない。
あの動画で俺が俺を繋ぎ止める切っ掛けを作ったものの一つだ。
その大会の日程は未だに覚えている。
もちろん開催地と場所もだ。
「アメリカの……」
俺は魔法の球体をイジりながら調整していく。やがて世界大会の会場まで辿り着くと、そこにはあの動画で見た場面そのものが立体的に映された。
丁度、世界記録を出した彼に音声はないが歓声が上がっているシーンである。
「イット、これは何を映しているの?」
「前世のロイスだよ。この喜んでる少年がいるだろ? この子が前世のロイスだ」
「そうなの!? あ、見た目は違うけど、でも雰囲気は似てるかも」
コハルは驚きながらも前世のロイスの姿をまじまじと見ている。
立体映像を少し進めると、表彰式が行われ恐らく映し出されていないであろう会場のギャラリーへと手を振るロイスの姿が見えた。
「……ん?」
よく見ると、拍手をしている参加者の中に涙を流しながらロイスを睨む一人の少年の姿があった。
昔視聴した動画では気づかなかったしもしかしたら映っていなかったのかもしれない。明らかに少年は、ロイスに向けて憎悪を抱いているのがわかったが、恐らく優勝できなかった事が悔しかったのだと思う。
気持ちは理解できる。
優勝出来なかった気持ちを抑えられず、勝者に賛美を送れないへそ曲がりな気持ちは卑屈な俺にはわかる。
だから、その少年に目が行ってしまったのかもしれない。
「何か気になるところでもあったか?」
「……いや、大丈夫」
ベノムに尋ねられるが、特に気にする必要が無いと思い時間を早送りする。
時間を進めていき、ロイスを追いかけていく。
ロイスの家らしき所へ辿り着き、その一軒家に入っていく。
映像を映すと家の中は空き巣が入ったのかと思ってしまう程物が散乱しており、足の踏み場もないような状況だった。
思わず口を開いたのはコハルだった。
「ここって……ロイスの家なんだよね?」
「ああ、たぶん……」
「なんか……凄く散らかってるね……」
違う世代の人から見てもこの家が散らかっているのが明確だった。
映像を進めて行くと、ロイスは気にする様子なくリビングと思わしきソファーとテレビのある空間へ向かう。
そこにはロイスの親らしき人物がぼーっとソファーに座りテレビを眺めていた。
ロイスがその人物に嬉しそうに何かを話し大会のトロフィーを見せる。
次の瞬間だった。
「「――ッ!?」」
ロイスの親が突然彼の顔を殴り飛ばした。転げうずくまる彼に何度も何度も足蹴りを食らわす。
「や、止めて!!」
コハルがロイスを庇おうと覆い被さろうとするが、当然映像は彼女を通り抜け止めることは出来なかった。
「コハル! これは映像だ!」
「そうだった……でも、こんなの酷い……どうして、ロイスはこんなことされているの?」
わからない。
ただ、前にロイスが言っていたことを思い出す。
・今思うと、僕の母親はネグレクトだったんだ
これはネグレクトじゃない。
体罰の次元を超えた虐待だった。
映像は流れ、泣きじゃくりうずくまるロイスへ、親は何と落ちていたトロフィーを掴み上げ彼へ振りかざした。
「――ッ!!」
俺も思わず映像の再生を止め、彼に降りかかる寸前で停止させた。子が居る立場だからか過去の映像とはいえいたたまれず、これ以上は見れなかった。
「早く先に進めろ」
冷徹な声でベノムが言い放つ。
しかし、俺も親というものに嫌な側面を持っており見ていて辛い。俺は拒否した。
「これ以上はロイスが傷つくだけの場面だ。もうこれ以上は良いだろ」
「何を言ってんだ貴重な彼の情報だ。生前の彼の心境を知るには必要なんだよ」
真顔で言い放つベノム。
それでも俺は代替案を出す。
「ならこのシーンは飛ばして時間を進める。殴られている時の心境は考えなくてもわかるだろ」
「……はいはい、わかったよ。時間も無いしな」
溜息交じりにベノムは了承。
すぐさま時間を進め彼の足取りを追う。
彼はあれだけのことをされても、次の日には学校へ向かっていた。
アメリカはバス通学と何処かで聞いたことが彼は徒歩で向かっていた。
腹や背中を中心に殴り蹴られたからか、足を引きずりながらも外傷が無いように見える。その彼の状況を見て奥歯を噛みしめてしまう。
学校へ到着し彼は教室の席に着くが誰も近寄らない。確か友達がいなかったと言っていた。だが、しばらくすると彼の周りにやんちゃそうな男の子数人がロイスを囲んでいく。
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