第187話 地球シミュレーター
宙に浮かぶ青白い球へおもむろに手を伸ばす。俺の手が触れた瞬間、光の球体が反応し光の線が伸び始め空間の文字と絵を表すように浮かび上がっていた。
「これは!?」
「イット、大丈夫!?」
「あ、ああ、大丈夫だ。これは……多分制御出来ているんだと思う」
直感であり根拠がないが、一番最初の時は勝手に魔法が広がっていったが、今回はそうならない。
魔法の反応が全然違うのだ。
着いてきたスカウトギルド員達を見ると周りを見渡し俺達にも聞こえるトーンでベノムに話しかける。
「ボス、特に人影や魔法の気配も感じません」
「……わかった。引き続き周囲の警戒をしろ」
ベノムが返事を返すと、彼女はこちらへ話しかける。
「どうだ調子は? ソイツは操作できそうかい?」
俺は球体を持つ手を少し捻ったり触れたりして感覚を確かめる。
「少しイジってみるよ。たぶん仕組みが理解できるかもしれない」
「頼んだよ」
しばらく球体を触り、いろいろと調べていくと操作性がわかってきた。
本を読んで魔法が使えていったのと同じで、自分の思ったように動いてくれる感覚が面白いとさえ思えてくる。
自分でも不思議なぐらいだ。恐らく魔法適正によるものなんだと思うが、一般の人にはわかりにくいよなとは考えつく。
やはり、魔法が扱えるというのは本当に才能で、俺にそれが備わっているのだと今更実感する。
こんなもの俺が元いた世界には全くない物なのに才能があったなんて不思議な感覚がする。たまたま、この世界の魔法に対しての才能があり、天使がここへ連れてきてくれたからこそ俺の才能は開花した。
俺が住んでいた時代の人間達も、きっと違う世界へ行くことで、自分の気づかなかった才能が芽生えるのかもしれない。
俺はこの世界……この未来の世界に来れたことを心から感謝している。
俺にしか出来ない事がここにある。
俺はそれを誇りに思う。
「要領が掴めた」
俺は浮かび上がる魔法に集中しながら皆に話す。
「この球体は話していた通り今の地球を表しているみたいだ。そしてこの惑星で起きた過去なら遡っていけるみたいだ」
「おお……やはりそこまでわかるんだな」
「ああ、さっきこの地球の過去を出来る限り遡っていくと……浮き上がっていた大陸みたいな模様が形を変えていったのを確認できた。たぶん、時代の流れで大陸が形を変えて移動していたんだと思う」
光の球を高速に回転させ、ある場所で止める。
「数万年前まで遡ってわかった。俺の知る世界地図の世界へとこの球体は変わった」
この場の誰に見せてもわからないであろう。その球体の一部の模様、そこには懐かしささえ感じる日本列島の姿が見られた。
俺はその球体を操作し、とある地域を拡大化させる。
「「「……!?」」」
地面から光の線が浮かび上がり立体的な映像を作り出す。
かなり鮮明な映像で、そこはとあるの日本の住宅地の一角、カーブミラーのある十字路を映した。
「これは……」
「イット、これは何をしているの?」」
ベノムとコハルが困惑する。
俺は立体映像内の時間を早送りする。
「地球の一部の場面を切り抜き時間調整している。本当に俺のいた世界なのかの確証の為に」
多くの車や生き物達が十字路を行き交い、ある場面が見つかり停止させる。
そこに映し出されたのは、トラックの前へ犬を抱えて宙へ飛び出す一人の男性の姿だった。
このシーンで俺は昔の出来事を鮮明に思い出す。
「何か男の人が飛んでる……あと狼みたいな生き物も抱えてるね」
「俺の……前世の最後だ……」
「え?」
あまり、コハル達の前では見せたくなかったが、これで納得せざるを得ない。
「確証は得た……間違いなくここは俺のいた地球だ。そして、地球の解析もこれで出来る」
俺はベノムを見ると彼女は不適な笑みを浮かべる。
「そうか……そしたら調べてほしいことがある。ロイスの過去を知りたい」
「……」
想定通りの話だが、彼のことを詮索しなければならないという罪悪感に近い気持ちが沸き押し黙ってしまう。
ベノムは続ける。
「正直、私達が束になって勝てるかは微妙だ。戦力も今集約させる手筈だが、死者はまのがれないかもしれない」
そこで彼女は一つ間おき俺を見る。
「そこで、君にロイスのことを調べてほしい。彼の弱点や動機を知り、行動パターンを探る」
「……別にこれから過去を調べることは出来る。だけど、ロイスの過去がわかったからと言って弱点がわかるのか?」
「奴の心を砕く為だよ」
真剣な表情でそんな返事をしてくるベノム。
「簡単に殺せればすでに実行している。だがロイスを力尽くで止めることは不可能に近い。そこで、先ほどの君みたいに戦意喪失を狙う」
「そんなこと……狙って出来るものなのか?」
ベノムと戦った時だって、彼女を殺したくないが故に即興で作戦を立てたが運が良かったとしか言い様がない。
「それにベノム、実力の差が無ければ引き分けに出来ないと言っていたじゃないか。相手がロイスである以上そんなの……」
「戦意喪失が狙えなければ、何とか隙を作って殺せば良い。どちらにしろ、物質的な……ほぼ最強生物と化した相手に物理的な封じ込めがほぼ不可能な状況なんだ。だが、生憎相手は心を持っていた人間だ。心理的な穴は必ずある。完璧な人間ーー特に完璧な心なんて存在しない」
ベノムは笑みを浮かべる。
「それが出来るのは今、君だけなんだよ。さあ早くやってくれ、徹夜になるぞ」
正直彼の過去を探りたいかと言われるとどうしても抵抗がある。
だが、他に具体的な解決案が無い。
ロイスに殺されかけているというのウソではないし現に家も燃やされている。
今更だが彼との話し合いで解決出来そうにも無いのは明白だ。
「わかった……やるよ。家族とロイスの為にも」
俺は頷き操作を始めた。
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