第189話 そしてトラックに轢かれる

 何やら嫌な予感がしつつ男子達に連れられたロイスは人気のない場所へ連れられていた。

 ロイスは壁際に追いやられ、何やらリーダーらしき大柄な少年がスマホを見せながら何かを言っている。

 何を言っているのかわからないが穏やかでは無い。

 そう思っていたその時だった。


「うそ……」


 コハルが言葉を漏らす。

 ロイスの腹部にめがけて、大柄の少年は何度か殴りつける。うずくまるロイスを見て周りの少年達は笑い、彼の荷物を床にぶちまけた。

 ぶちまけた物は踏みつけられ、その中にあった六面立体パズルは衝撃でパーツがドンドンかけていった。


「……」


 生前の自分を思い出してしまい言葉を失う。



・僕のことを下に見ていた人達は、僕が世界一になった事が気にくわなかったんだと思う。


・口を開けば皆、玩具が少し上手いからって調子に乗るなって罵倒しか受けなかったからさ。



 ロイスが言っていたあの言葉。きっとこの時の言葉だったのかもしれない。

 ロイスが地面に這いつくばると、気が済んだのか子供達は笑いながらその場を立ち去っていく。彼等が過ぎ去ったあと、ゆっくり腹を抱えながらロイスは自分の荷物を回収し始めた。


「酷い! どうして皆、ロイスの事を虐めるの!」


 怒りをあらわにするコハル。

 俺もこれが映像じゃ無ければ、この場の子供達やあの親全員を魔法で吊し上げたいぐらいだ。

 だが自分の気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと話す。


「前に……ロイスと生前について話し合ったことがあるんだ」

「そうだったの?」

「ああ、生前のロイスの家庭環境や生活環境……特に周りの人達が酷くて、病弱だったロイスのことを見下す人達が多かったみたいなんだ」


 それにしたって、こんなのやり過ぎだと思う。どうしてここまでされるのか理解は出来ない。


「アイツが言っていたが……多分、周りはロイスの偉業に嫉妬していたんじゃないかって」

「嫉妬ね……」


 それにベノムが反応する。

 俺は続けて、


「本当かどうかは……もっと経緯を辿って調べてみないとわからない。でも、少なからず、ロイスは周りの人達が自分を嫌い、見下し、そして世界一のキューバーになってから酷くなったと言っていた。もしかしたらこの時のことだったのかもしれない」


 と、思わず溜息をもらしてしまった。

 ただただ悲しい気持ちを抑えながら時間を進める。

 その後数日時間を飛ばし、ずっとロイスへの虐待や虐めが続いた。彼が周りに助けを求めないのも問題があるが、俺の時も助けを求める相手の存在がわからないことがあった。

 十代には見えるからそれなり自身で物事を判断できると言われるかもしれないが、もし幼少期から周りに敵しか居ないと思わざるえない環境なら、助けを求める選択しは出てこなくなる。助けを求めても無駄と一種の自己暗示をかけてしまうのだろう。

 何となく俺はそう解釈してる。

 ……というか、俺は彼に親近感を覚えている。

 今の彼と、自分の前世が凄く重なるのだ。

 ロイスは終始うつろな表情で学校から帰宅する。

 本当にいたたまれない。

 この場にいたら、手を差し伸べられるのにと胸が締め付けられる。

 と、その時だった。


「……なんだ?」


 突然、ロイスは振り向き逃げ出すように走り出す。次の瞬間。


「え……」


 彼の後ろからはしってきたトラックが現れ、小学生ほどの彼の身体を鉄の塊が勢いよくぶつかった。

 この場の誰もが何が起こったのか理解できずただただ唖然としてしまう。見るのが怖いがゆっくりと、ロイスの方へ映像を移動する。そこにはボロボロに力なく倒れ伏す少年の姿だった。


「もういい、イット止めて!」

「止めるな。まだロイスは死んでない。見届けるぞ」


 コハルが止めるが、ベノムが続けるように言う。確かによく見るとロイスはまだ動いていた。そこへトラックから降りてくる人影を確認する。


「アイツは……」


 映像に入ってきたのは一人の少年だった。

 見覚えがある。

 世界大会でだった。ロイスに近づき彼の顔を覗き込むと、ニヤニヤしながら瀕死の彼に何か話しかけている。それが終わると、嬉しそうに少年はトラックを呼ぶように手招きをしている。彼の指示通りトラックがゆっくりと近づいていき、運転手をみると少年と同じくヘラヘラしながらハンドルを握るオヤジだった。

 その状況に虫の息であるロイスの目は虚ろで、全身血だらけで何もかもを諦めたように近づいてくるタイヤを見つめていた。


「……」


 あまりの悪意に俺は怒りが込み上げてくる。何もすることが出来ないが、ここで映像を止めた。

 俺はベノムを見る。


「後は、彼が死んで俺と天国で落ち合った。そういう流れでいいだろ?」


 彼女を見ると何故か溜息を漏らし返事する。


「はいはい了解。十分だよ」


 最後に俺は生前最後のロイスを目に焼き付け映像を急速に進めた。

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