第179話 旧ガブリエル教団
日本語と英語、また違う言語が入り交じる由来。
物理法則が通じる理由。
世界が丸いこと。
そして、綺麗な月が一つある。
俺がいた世界とこのファンタジー世界が共通している所はいくつかあった。
だが違うとことも沢山ある。
世界地図の形が全然違う。
魔王や魔神、そして魔物がおり人類を脅かしている。
魔法が存在する。
天使がいて、奇跡が存在すること。
こんなもの俺達の世界にはなかった。
似ているところ違うところもある世界だとは思っていた。
こうして古代遺跡……廃墟として目の前にある赤羽橋の地下鉄ホームを見るまでは……
俺はどうにか息を整え手の震えを押さえる。
「……俺はタイムトラベルでもして来たっていうのか?」
何とかベノムに問いかける。
すると彼女は質問を返してくる。
「タイムトラベル? 時間……旅行……ああ、なるほど。いいや、もっと原始的に君ら転生者はこの世界に来たんだ。それは自分でもわかってるだろ?」
彼女は目を閉じ語る。
「君は大天使サナエルの……いや、元は天使が取り決めたイデア論の規律により、過去の世界から輪廻転生してきた皆と同じ存在に過ぎない。魂の洗礼の名の下に
目を開く。
口元に笑みを浮かべているが、目は笑っていない。
「本来、輪廻転生により記憶と自我は薄れ、新たな存在となる教えだ。だが大天使から特殊な扱いを受けて産まれる者が希に現れる。生前の記憶を持って生まれる者、それが我々の呼ぶ転生者だ」
ずっと、現世とは違う異世界に来たと思っていたが、それは俺の思い込みだった。
異世界に飛ばされたのでは無い。
俺のいた現実が滅び、新しい文明が出来ていた。
その文明がこの世界……ということだ。
「……確証は?」
「ん?」
「この世界の過去が 俺の居た世界であるという確証がほしい」
「それは、私じゃなくて君が出来るだろ? お得意の魔法で」
ベノムは持っていた銃で俺の手をさし示す。
「君はさっき世界を解析しようとした。見たんじゃないかい? 過去の景色を」
この世界に
ベノムが続ける。
「あれをされれば、もう隠し通すことは出来ない。遅かれ早かれ君はどういうことなのか気づく。この大地の……君達の言葉で言うと地球の歴史を辿れてしまうんだよ」
確かに……そうだろう。
もっと展開速度を速めれば解析精度は増す。もっと効率良くコハルに手伝ってもらえてればベノムが言ったこの世界……この惑星……恐らく地球であるここのことは解析出来るはずだ。
「スカウトギルドが隠していたのはこれか? 何故? 何のために?」
「自分で考えてみな。君ら転生者が、ここが地球であると知った時どうなるのか。ヒントはコレだよ」
そう言うと、彼女はクルクルと拳銃を見せる。それを見せられすぐに想像ついた。
「……この世界にあってはならない技術が産まれる」
「そうだ。君等の時代に魔法や魔物などなかった。だが、それが無い分物理的に物事を考える力に優れていた。正直今の世界よりも技術力は発展していたのはこの遺跡が証明してくれている。何億年経ってもこの空間を残して居られ、魔法で代用すれば照明ぐらいは起動できるなんてここを作った奴は頭がおかしいとしか言い様がない。あまりにも出来過ぎている」
フフフとベノムが笑う。
「だがその発展しすぎた技術によって、一度文明は滅びているんだ」
「……え」
「人類は一度ほぼ全滅しているみたいだよ。そこから再起したのが今この文明なんだよ」
そう言いながら彼女は自分の握った銃を見つめる。
「君等の化学と技術、私達の魔法と奇跡、もし組み合わせることが出来たらいったい何が出来るのだろうね」
「……」
「お姉さんは想像したくないよ。きっと悪いことに使われるのが目に見えている。間違いなくこの世界を壊されてしまう」
ベノムは俺を見つめる。
「私はね。この世界を守る役職でもあるが、なんだかんだこの世界に愛着もある。それを何も知らずに土足で踏み荒らされるのは腹が立つのだよ」
「……」
「まあ、昔と全く違う世界になっているからな。大陸の形もきっと違っていただろ? 転生者の誰もがここを自分達の故郷である地球だと気付きもしなかった。私達が隠していたのもあるが、思慮深く無い奴らで扱い安かった。お前を除いてな」
俺は感じていた。
明らかに彼女から嫌な雰囲気を感じてたまらない。
「お前が今、一番近づいてしまったんだよイット。化学と技術、魔法と奇跡、全てを可能にしてしまう存在に」
「そんな! 俺はそんなことしない! この世界を壊したくなんか無い!」
俺の身体に力が入る。
「俺もこの世界が好きだ。俺の……生きていた時代よりも好きだ! 俺はそんなこと……そんなこと」
「……お姉さんも信用したいよ。君のこと」
そう言いながら、彼女は銃を構えた。
そして指をかける所まで視認しとっさに俺は柱の後ろに隠れる。
バンッ――!!
っと、火薬の爆発音が空間に響き火薬の臭いが立ちこめた。
撃った。
ついにベノムの攻撃が始まった。
「信じたい……けど、無理なんだ。君等転生者を見てきた私……スカウトギルドに来た奴らは、我らの愛すべき世界を破壊し、大切な人々を失った怒りを……無かったことにする訳にはいかないのだよ」
柱の陰から覗こうとするが、すぐに発砲される。
彼女の動きを見るために落ちていたガラスの破片を手に取り、反射させて彼女の姿を見る。
「何故ここに連れてきたかわかるかイット?」
「……何故?」
「簡単さ、ここで君を終わりにするためだよ」
髪を軽く整えた様子を見せるベノム。
そして告げてくる。
「スカウトギルドは表の名。初代勇者により結成した対悪魔討伐、そしてこの世界を自分達の手で取り戻す信念を掲げた者達の集まり。ガブリエル教上層により世界に残る古代遺跡……過去を隠しこの世界に住む住民達を来訪者達から守る秘密組織。それが私達と亡くなった者達の意思、旧ガブリエル教団だ」
すると、ベノムの声が空気に響き始める。
『偉大なる祖よ。邪を写し汚れを祓う聖鏡を与えよ』
すると、突如として地下鉄ホームの地面から無数の大きな鏡が床から現れる。
その鏡で退路を断たれ柱の陰に隠れた俺と柱の向こうに写るベノムの姿が見えた。
「君と出会った時の約束を果たそう。全てを知った転生者よ! ガブリエル教団大司教のこの私、貴様等の世界を食らった名、ベノムが今ここでお前を殺す! 今度は本気だ! 立てイット!」
ベノムはガスマスクを取り付け二丁の拳銃を構える。
『最後の任務だ。教団の規則によりお前の抹殺は決まった。私を殺せなければ先は無い』
「そんな……ベノム正気なのか!?」
『正気さ。それに期待している。私が殺される未来が全く想像出来ない、期待感で胸が張り裂けそうだ!』
楽しげにベノムは笑い叫んだ。
『さあ、本気でかかってこい! 禁術でもなんでも使え! そうしなければ本当に死ぬぞ! お前の強さと存在価値、お姉さんに証明してみせてくれ!』
めちゃくちゃだ。
本当に何もかも……
そして、また銃声が響き渡る。
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