第180話 期待を越える悪意
弾丸は目の前の鏡へ当たり、何と一瞬止まった。
嫌な予感だけで俺は空かさず柱から飛び出す。すると鏡から反射したように弾丸が俺の居た柱へと反射した。
やはりそうだ。この鏡は本来あり得ない物でも反射する奇跡だった。俺が
『どうしたイット? やはり魔法じゃかなわないか?』
ベノムは容赦なく両手の銃で俺に向けて発砲を繰り返す。運良く当たることなく魔法が完成した。
「
遮蔽を無理や作り狭い空間での銃撃を阻止することを試みる。
床が土で出来ていないため土の魔法を使うとコンクリートを破壊して飛び出てくる可能性がありここが崩壊する。
弾丸が氷の壁に当たりガラスのように砕け散っていく。
ダメだ、これでは防ぐことが出来ない。
「
風の気流で軌道を反らせるが、この魔法は確実では無い。
銃声の嵐の中、何とか被弾せず移動し柱の裏に隠れられる。だが正面に鏡が有り、その先でベノムが銃口を向けている。
『ほら、休む暇なんてないよ!』
「クッ!!」
破裂音と共に前の鏡に弾丸が直撃、割れること無く鏡に接触した弾丸が一瞬停止する。
「……!」
俺が姿勢を低くすると弾丸がこちらへ跳ね返り、頭のあった位置の壁に被弾。
本当にベノムは俺を殺しにきている。
立地もめちゃくちゃに悪く、意図しているのか魔法の条件にとにかく悪い場所だ。
そして拳銃という人間を殺す武器を用いたうえに、まさかの奇跡まで使える聖職者だったなんて……
『何? やる気無いの?』
ベノムが攻撃を停止し話しかけてくる。
「今……考えていた所だ」
『へーそう、逃げてるだけにしか見えないよ!』
言いながらまた銃弾を飛ばし、俺は柱から逃げる。
それを追うようにベノムは乱射する。
『さあ、どうするんだイット! 頭に風穴開いちゃうよ!』
息を入れ直し俺は走る。
もはや考える暇を作るしか無いと俺は魔法元素を展開する。
「
氷の弾をベノムに放つ。
彼女は少しを横へ移動した程度で交わしてしまう。
氷の弾は後ろの鏡に当たると、少しの制止と共に横へ反射。反射を繰り返しコンクリートの柱へ衝突し砕け散った。
「……」
銃弾をかわしつつ氷の魔法の挙動を観察しながら柱の裏に隠れ考えを整理する。
鏡に当たった物質は全て柱へ衝突していた。もしかしたらベノムが出した鏡の位置は全て柱の裏に当たる角度で配置されているのでは……
今までの弾達の反射場所を考えると、死角と魔法展開の時間を与えない構造だ。
そしてベノムが持っている拳銃は、先代の転生者が作った無限に弾が撃てるように改造されたチート武器のはず。
消耗するのは紛れもなく俺だ。
確信しても良い、俺をここに呼んだのは確実に魔法使いを殺しに来ている戦略をたてた場所だからだ。
今までに無いぐらい戦いづらい。
カチッ――
俺は思考を切り替える。
交渉の余地はきっとない。
魔法使いとして戦っても勝算は厳しい。
なら、彼女に勝てるかわからないが、奇襲をしかけるしかない。
そして短期決戦を……
「
完成した魔法元素がベノムの真上、天井へ付く。気づいたベノムはその場から大きく動き刹那、光瞬き彼女のいた場所へ複数の雷が落ちる。
彼女の一瞬の隙を作り、俺は空かさずホーム端のへこみ……つまり線路へと身を隠した。
彼女の様子が見えなくなり、どちらからも攻撃することが難しくなる。
だがそれでいい。
少しでも時間を稼げれば――
「
スタッフに雷をブーツに風をまとわせる。更に魔法元素を両手で一つずつ持ち展開を進めておく。
『偉大なる祖よ。万物の理を押しのけよ』
ベノムの声が響くと、ホームから巨大な光る大きな手が伸びてくる。線路に沿って俺へ拳を飛ばしてくる。
「クソッ!」
魔法のお陰で飛躍し、俺と同じサイズの拳を飛び越えるが――
『甘い!』
ベノムが視界に入る。
彼女が指示を出すように指で俺を指し示すと、拳がこちらへ方向転換し足を掴まれる。そのまま空中で振り回される中、俺は
魔法を一つ展開する。
「
片手にはめていたバックラーに魔法を付加する。
そのまま俺は地面へ叩き付けられるがバックラーを間に挟み空気圧でほんの少しだがクッションの役目を果たさせた。
前を見るとベノムが銃を構えている。
考える暇も無く俺はバックラーを彼女目掛けてフリスビーのように投げ、待機していた魔法を展開しバックラーを指さす。
「
指先を飛ばしたバックラーに照準を合わせ光の線を射出する。
見事命中し、バックラーは風で回転する磁石となった。
弾丸を空中で巻き取りつつ回転力を落とさないままベノムへと向かっていく。
俺は電気を帯びたスタッフを構え、足を踏ん張る。
ブーツに纏う風の出力が上がり、前へ踏み込むとミサイルのように身体を直進させ宙を浮かぶ。
何発も発砲音が響くが、投げたバックラーが防いでくれる。
俺は風圧を食いしばりながらベノムの腹を狙い突き刺した。
彼女は咄嗟にマント越しに腕でいなそうとするがスタッフと接触し同時にバチンと火花が飛び散る。
『……中々やるじゃないか』
「……!?」
布越しとはいえ感電するはずなのに、ベノムは平気な様子を見せる。
そのまま彼女は身を翻す。
蹴る動作と察し、俺は自然と身体が動きスタッフを前に構え横から飛んできた回し蹴りをいなす。
彼女のブーツが帯電したスタッフに接触しバチバチと音を立てるが彼女の動きは全く止まらない。
立て続けに蹴り込まれ、何発かをスタッフでいなしていくが、火花が散るだけで勢いが止まらない。
「……絶縁体か」
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