第176話 狙うは命、毒の奇跡
夜空が急に明るくなり上を見あえげる。
黒い空の真ん中に白い光球が突如現れ、大きくなっていく。
いや、大きくなっているのでは無い。
こちらへ凄まじい熱量で俺達に向かってきている。
俺は即座に判断する。
あれは上位魔法だ。
俺達を狙い殺すための魔法だ。
コハルを引き寄せ片足の靴から魔法元素を急いで展開する。
「
片足に小さな竜巻が起こり、足裏から凄まじい風圧が渦巻き始める。
「コハル! しっかり俺に掴まれ!」
「う、うん!」
片足の底で爆風が破裂し、コハルを抱えながらロケット花火のようにその場から飛び出した。草原へ方向を何とか定めながら、俺達は低空飛行で勢いよく飛び、地面へ着地する。
コハルを庇い背中がずる剥けになるも、痛みを叫ぶより先に光の元を見る。
光の正体は隕石のような火球であり、地面へ到達と同時に爆発する。
「
自分達の目の前に分厚い土の壁を作る。
俺達が壁に隠れ伏せると、爆風が押し寄せてくる。
熱風が壁の外側へ流れていき徐々に土が削られていく。
徐々に小さくなっていく壁を見て、俺達は抱き合い小さく縮こまる。
しばらくして爆風は収まり、周りは焼け野原になっていた。
立ち上がり、小さくなって土盛り程度になった壁の向こうを覗く。
すると、地面がへこみ熱を帯びたクレーターとなり残った林は燃え山火事の様に広がっていた。
「うそ……何が起こって――ッ!?」
泣きそうになるコハル。
それに答えられず俺も呆然とする中、コハルは気づく。
「ウィル! サニー!」
彼女はすぐさま狼の姿へ変わり、服を脱ぎ捨てて林へと駆けだして行った。
「コハル!」
俺は彼女の服を拾い上げ、
風があった影響で燃え広がっている。
炎で焼かれる木々を縫うように進み家に到着する。
まだ家の中は無事、倉の中で馬が怯えたようにいなないているぐらいだ。
幸い家まで火の手が伸びていなかったが周囲は災害レベルの大火事となっている。
燃え移るのも時間の問題だ。
「ウィル!! サニー!!」
俺とコハルは同時に到着する。
俺は地面に着地しコハルは獣の姿のまま家へと扉を開けようとしたその時だった。
ダンッ!!
っと、音と共に内側から扉が吹き飛んだ。
「ッ!?」
とっさに俺はコハルを抱えて飛んでくるドアをかわした。
アンジュやソマリではない?
ということは俺達の家に誰か居る?
誰だ?
ウィルもサニーも無事なのか?
冷静でいられなくなってくる。
『あ……ごめん、ドア壊しちゃった』
家の中からくぐもった声が聞こえる。
身体に緊張が走り、ドアの外れた出入り口からローブと久しぶりに見たガスマスクを付けた人物が立っていた。
その風貌で誰か一瞬でわかった。
「ベノム……さん?」
『久しぶり二人とも、元気にしてた?』
「いや、ベノム。何でアンタが俺達の家に……というか子供達は! いったいどういう状況で――」
いきなりの登場に俺達は驚きを隠せず疑問を投げかけていると、返答もせずベノムが行動する。
『偉大なる祖よ。穢れ無き地へ我らを誘え』
「「え……」」
ベノムはまさかの奇跡のような台詞を唱える。すると、コハルの足下に黒い空間が開き瞬く間に彼女は飲み込まれて消えた。
「コハル!?」
『大丈夫だ。安全な所に移動させただけだ。全員無事だよ』
「どういうことなんだ! 今のは奇跡なのか?」
『あーもー、今詳しく話している暇は……まあ、一言で言うならロイスに見つかったのさ』
「ロイス……」
『ここに居たら殺されるよ』
淡々と告げるベノム。
炎が徐々に近づいてきているの後ろで感じつつ、彼女は足下の空間を指さした。
『君も入りな。もうすぐその入り口は閉まる』
そう言うとベノムはコハルがいた空間に近づく。
ふと、本当に家が空なのか目を向ける。
すると、馬小屋で周りの異変に気づいてか馬が怯えたようにいなないていた。
俺は馬の元へと駆け寄った。
『おい! 早くはいりなイット!』
「家を確認する! あと馬も逃がす」
『その馬は諦めな、早くし――』
「コイツも家族だ」
そう言うとベノムは溜息を吐く。
『スカウトギルド……下層階で待ってる』
そう言って彼女は黒い空間の中に入り水の中に落ちるように沈んでいった。
俺は、火の気を見ながら急いで家の中に入る。
ベノムの話通り中には誰もおらず、俺とコハルの貴重品を鞄に詰め込み、スタッフを腰に差す。
「……」
棚の上にサナエルからもらい、そのままコハルに渡してしまった羽の聖印が目に入る。最後にそれをポケットにしまい外へ出た。
「……ッ!?」
家から視認できるところまで火が近づいていた。急いで馬小屋に駆け込み、馬を宥めつつ準備が整った所で跨がり街に向かって走り出す。
ふと後ろを見ると、数年だったが慣れ親しんだ我が家に火が燃え移ったのを確認する。前を向き、もう振り返らず全力で走らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます