ステージ6:救う者
第175話 開示された世界
「……」
コハルとの思い出を話を終えた。
事細かなことも、まるで昨日の出来事のように思い出した。
「うーん……何か久しぶりに二人で沢山話しちゃったね。ウィムとサニーをアンジュちゃん達に任せちゃったから早く戻らないと」
自身の服に付いた草や土埃を払うコハルを止める。
「……コハル」
俺の言葉に彼女は優しく返事をする。
「なに?」
「少しだけ待ってくれないか」
「え? でも、ちょっとウィムとサニーが心配だし……」
「確認したいことがあるんだ。頼む……すぐ終わるはず」
そう言うと返事を待たず俺はしゃがみ込み、衝動的に手を地面に付けた。
「……何をするの?」
頭を捻るコハルを尻目に俺は意識を集中する。今、俺は
魔法適正の高さは大前提であるが、他の条件は感覚的にわかるもので、いろいろある内の一つの条件として取り出す物の形を認識すると言うことだ。
魔法を放つ時に魔法元素を取り出しているのは、あれは自分の身体から取り出すとほぼ無意識に考えている。また、
これはこの世界の魔法を扱う仮定において基礎的に本で記載された概念の説明だ。
俺もさほど気にせず魔法を使っていたが、これは無意識に陥りやすい落とし穴だったのかもしれない。
これはつまり、物の形を認識していなければ魔法元素を取り出すことが出来ないのだ。だかこの判定は結構アバウトで、大まかな形を想像することでその認識を持つ判定を得ることが出来る。
屋敷やトンネルの構造を入る前に解析し、知らない鍵を開けたりする魔法の仕組みがこれである。
逆に、大きく形が違う認識を持っていると魔法元素を呼び出すこと自体が不発で終わることがある。
「……」
今は俺は地面に手を付けているが一向に魔法元素が出てこない。
「……イット、もういい?」
早く戻りたいであろうコハルから催促がくるが俺は気にせず問いかける。
「なあコハル……昔、二人で世界地図を見たよな? アサバスカ山に行こうって時だ」
「う、うん、確かそうだったね」
「その時調べてもわからなかったことがあったよな。地図の外側、海の向こう側に行くとどうなるのかって」
「うん? そう言えばそんな話してたような……」
結局その話の結果は出なかった。それを証明出来る所まで辿り着いていたが海を越える直前で俺達の冒険は終わった。
「今、この世界が平面であると仮定して魔法元素を取り出そうとしたんだ。でも上手くいかなかった」
「え? それってどういう……」
「この世界、俺達が立っているこの大地の正体を探ろうとしてるんだよ」
「え……ええええええ!?」
コハルが驚いている間に、俺はまた手に意識を集中させる。
「今度は世界が球体であると仮定する」
意識を研ぎ澄まし取り出してみた。
すると――
目の前に、人間よりも大きな正六面体が浮かぶように出現してしまった。
「うわ!? イ、イット!?」
「……ウソだろ」
今まで見たことの無い人の三倍ほどの大きさ、更にいつもなら一面が3×3、多くて6×6のブロックに分かれているはずなのだが、なんと今回のは12×12の明らかに難易度の高い
唖然としつつコハルから話す。
「これって……もしかして、この世界の
「……おそらく」
この世界と考えると比較的に小さいような気もするが、明らかに見たことの無い異質な魔法元素を出してしまったのは確か。
だが、こうも簡単に出てしまったというのも疑問がある。
こんな物文献に無かった。
そして俺が出せるぐらいなら他の人間も出せる。
こんなこと子供だって考えつくことだ。
なんなら、ロイスや歴代の転生者達も皆……
「……だから気づけなかったのか?」
ここまでの魔法元素を出す条件をまとめると簡単だ。
①魔法適性が高い。
②この世界が平面でなく球体であると信じている。
③この世界を解析しようと疑問を持てる。
この三つの条件を高確率で達成出来るのは歴代数人いた勇者達だと思う。
球体仮説に気づくかどうかも、俺達の世界では少数派の調べから仮定され宇宙に出て確定したようなもの。
この世界で気づく者がいたとしても、魔物や魔王の戦いが激しい世界で宇宙まで行こうという発想は出てこないのは何となく想像できる。魔法適正の高さも個人差があり、転生者レベルなんて希な例だ。
そして、世界の解析をしようとする者が、いつの間にかすり込まれていた平面説と違う球体説の考えを持つ者がいると考えた場合、グッと少なくなる。今までの勇者達も話を聞く限り、私利私欲に魔法適性を持て余していたように思える。
とにかく、②と③を上手くかみ合わせるのが難しく、わかれば簡単な条件なのにこの魔法元素を出す条件までに至る人間が少ない。
特に平面説か球体説かどうかがいろいろな国の本を読んでも一切載っていなかったことに違和感がある。
・そして、もう一つは勇者の制御
・君達勇者が余計なことをして、世界のルールを変えさせない為のね
・制御の大本は、勇者に情報を与えすぎないこと。これが一番の理由だね
もしかして、これはスカウトギルドに情報統制されてたのか?
この世界の
「……ふぅ」
俺が固まっていると、コハルが溜息を吐く。
「イット、今コレを解きたいって思ってたでしょ」
「え!? あ、いや、まあ……」
「……わかった。イット、これに手が届かないでしょ? 一回だけ私も手伝うよ」
思わぬ嫁の申し出に俺は驚いてしまう。
「え、良いのか!?」
「やりたいって顔に出てるよ」
俺は思わず手で顔を触れてしまう。
それを見たコハルに笑われてしまう。
「これで、ロイス君のことも解決出来るんでしょ? それじゃあチャチャっとやっちゃおうよ!」
「いや……そういう訳ではないんだけど」
「え!? 違うの!?」
「い、いや! もしかしたら意味があるかもしれない! たぶん……」
口から出任せを思わず漏らしてしまう。
ロイスから逃げようかという状況でやってる場合ではない。
だが、どうしても気になる。
何か俺達が……騙されているような感覚が……。
このモヤモヤを払拭する為だと考え方を変え、せっかくのコハルからの申し出も喜んで受け、一回だけという制約で知的好奇心のままに世界の開示を始めた。
俺は手を地面から話せない為、コハルに指示を出しながら魔法元素を回してもらう。さすがの12×12のパズルで時間は少し掛かっている。
久しぶりに身体を動かすコハルも少し汗ばみながら俺の掛け声に的確な動きで答えてくれた。
何となく二人で冒険していた時の気持ちを思い出す。
二人で息を整え、思考がリンクしあうような心地よさを感じながら数十分の時間を経て――
「これで終わり!」
コハルが弾いたブロックが上手くハマりは魔法元素は完成した。
「やったぞコハル! 一発で出来た!」
「はぁ~あ、もう身体が鈍ってるって感じたよ。明日筋肉痛になるかも」
「ありがとうなコハル! 明日マッサージするから!」
そう言って、俺は意識を集中し唱えた。
「いくぞ!
魔法元素が地面に沈むと同時に解けるように青白い液体のように溶け青白い光り輝く無数の線が地面を這って四方八方に走って行く。
線達は走っては何も無い空間を登ったり下ったり、時に複雑に曲がりくねりながら立体的に何かの建築物のような複数の造形を作っていく。
「イ、イット!?」
「これ……は」
俺達は光に当たっても貫通していき、特に痛みは感じない。
何事も無く光の線は辺りに長方形の大きな建造物、はたまた木や謎の長い棒のような物を駆逐していく。
だが線が遠くへ進むごとに巨大魔法元素のあった地点から徐々に光が消え元の草原に戻っていく。
まるで、何かを描くように光が走って行くように思えた。
「何あれ……何か王都とか山に広がっていってるけど、家とか大丈夫かな?」
「あ、ああ……たぶん大丈夫だとは思うんだが……」
半ば俺達は抱き合うように成り行きを見守っていく。
少しして光は王都ネバに到着したのが遠目でわかった。
と言うのも、王都に近づくに連れて光の建築物の高さが高くなっていくのがわかるからだ。
「何か……こう見ると綺麗な景色だね」
「……まあ、そうだな。たぶん無害そうな感じだしな。だけど、もしかしたら今王都の人達はパニックになって――」
と、俺は自分がまた軽率な行動を取ってしまったかもしれないと頭を抱えようとした時だった。
「――えっ?」
王都を走る光達が大きな建築物を作り上げていく。それは長い三角形状の建物が現れた。
コハルが指さす。
「凄いねあの三角形のやつ。今までで一番高い。空までとどきそうだよ」
「……」
「イット?」
コハルに話しかける余裕がなかった。
そのまま光は消え、三角形の造形物も消えていく。
いつの間にか光も消え、辺りに静けさが戻った。
しばらく放心状態であったがコハルが俺に話しかけた。
「とりあえず戻ろうイット! 皆のこと心配だし! ね!」
「……」
「ねぇイット! 驚いたのはわかるけど、とりあえず家に戻ろうよ!」
「……たわ……」
「え?」
ありえない……
俺はあの光の形を知っている。
久しぶりに見たそれに、思わず言葉に出してしまう。
「東京……タワー」
色は付いていなかったがわかる。
何故だ。何故この世界にあの建物造形が?
頭の中が混乱し、どうしたら良いかわからなくなってしまった。
「……ッ!?」
今度は突然、空が明るくなった。
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