第170話 実力の差よ
燃え上がる拳を見たルドは、息を無理矢理整え盾を構え守りの姿勢に入った。
彼女がここまで驚くのは、魔法属性への理解があるからだと思う。
六面体の正方形一面ずつの光、炎、氷、雷、風、土の6属性、プラス全面完成状態の
混沌系が最も強いとサナエルは言っていたが、それは対魔神魔法であるためであり、実際は炎系列の魔法が一番厄介で扱いにくい。
仲間を巻き込むことが考えられる程範囲が広く加減が出来ない為、相手へ確実に負傷させ殺傷力が高い。
草木や町中で使えば大火事になり、洞窟で使い続ければ当たらなくても二酸化炭素中毒で周囲の生き物は危険な状況になる場合もある。
そして自分も熱い。
今、鍛冶で使っている作業手袋の表面を燃やしているが炎が近くにあるだけでヒリヒリと肌が焼かれそうだ。
そんな危険度の高い魔法を俺が出してくるとは彼女も思っていなかったらしく、思い通りに盾を掲げてくれた。
早々に終わらせる為、俺はルドの喉元目掛けて燃える手を伸ばした。
「くぅっ!!」
掴まれれば一生直らない傷となる可能性がある一撃を彼女は自慢の盾で防ぐ。
冷たい金属板に手が付くと、ジュッと音が鳴る。
そのまま盾を掴み、盾から
「な、何を!?」
「
ルドの盾に
盾の硬度を上げる魔法だが、表面を覆うようにこびり付いていき、徐々に重量も増していく。
「お、重……い」
ルドが盾の重みを感じ始めた所で手を放す。
「こんなもの!!」
そのまま自身の盾を前蹴りして俺へ押しつけてきた。受け流しつつ燃えた手袋を付着した土で鎮火させ、新たに付加魔法を付ける。
「
対人で最も使い勝手の良い雷の魔法を手袋に付加させる。バチバチと走る閃光を片手にまとう。
重装のみになったルドは、腕を腰に回す。
カチッと音が鳴ると、着ていた重装が収納され軽装化された。
両手で握りこぶしを作り彼女はファイティングポーズを取る。ここまで身ぐるみを剥がされても戦う姿勢を崩さないルドへ、もはや感心してしまう。
「ルド、もういい加減にしろ。こんな戦い不毛だ」
「黙りなさい! 貴方よりワタクシが強いことを証明してやりますわ!」
彼女はすかさず俺の顔に右ストレートを打ち込んで来るが難なくかわす。視界の下から蹴り上げをする動作が見えたので横に回避。更に彼女は身体を捻った為、俺はしゃがむと案の定回転蹴りが頭上を通過する。
「な、何で当たらないのよ!?」
「うーん……」
なんかこのシチュエーション、どっかで同じ体験をした気がして言葉に詰まった。
そりゃ、本業の格闘家で人間以上の身体能力を持った嫁と訓練していれば、並の攻撃を避けられる反射神経は身につく。
と、長々説明する間は無く、大振りの攻撃だった彼女の懐に潜り込めた。
俺は帯電した手袋を彼女の腹に押しつけた。
「努力っていう魔法だ」
「があッ!?」
バチンと火花が散るような音と共にルドの小さな悲鳴が聞こえ、彼女はゆっくりと地面へ崩れ落ちた。
「後は、シャルを……」
アンジュの後を追ったであろうシャルを止めなければならない。
戦いには勝ったが足止めには見事に引っかかってしまい急がねばならない。
奴の武器は根こそぎ没収したはずだが、何をしでかすかわからない女だ。
とにかく、アンジュが逃げた方向を走ろうとしたその時だった――
『――を押しのけよ!』
独特の響き渡る音と同時に草むらから強大な光り輝く掌が飛び出してきた。
「うおっ!?」
手に巻き込まれない距離だが思わず俺は足を止める。
よく見ると、言葉通り手に押しのけられたようにメイド姿のシャルが吹っ飛んでいた。彼女は地面に転がり鼻血を流しながら意識を失っていた。
「イット君大丈夫だった?」
草むらから顔が少し腫れているソマリと、その後ろへ子供のように隠れているアンジュの二人が姿を現した。
「アンジュ! ソマリも……というかソマリこそ大丈夫か!? 顔が……」
「うん、ちょっと殴られただけだから平気だよ」
「殴られたって……アンジュを庇ってくれたのか。すまない無茶をさせてしまって」
「ううん。元はと言えばウチ等が二人を此処へ連れてきちゃったのが原因だからね。むしろ謝るのはこっちの方だよ」
そう言いながら、傷ついたソマリが俺達に頭を下げようとする。
が、それを制止するようにアンジュが彼女の前に手を出し制止させた。
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