第169話 極限のエンチャンターよ

風流変動ウィンド・ミサイル・プロテクション!!」


 目の前に半球レンズの風の幕を作り出す。

 シャルからのボウガンの射出が一番早いと予測出来たからだ。


「しねぇぇええええ!!」


 案の定怒り狂った彼女は矢を放とうと構える。俺はすぐさま構えていたもう一つ魔法を起動し二本指を、放った。


電磁力弾サンダー・マグネット・ブラスト!!」


 刹那、指先から光の線が射出され狙い通りボウガンに当たる。

 それと同時に矢が射出された。

 弦が空を切る音と共に矢がこちらに来ることを感覚で認識した。

 だが、事前に張っておいた風の盾で不自然に軌道が曲がり真上へ飛ばされ、ようやく矢を視認した。


「……ッ!?」


 あっちでシャルは動揺したような声を上げた。俺の魔法が当たったボウガンが電気を帯びたように光っている。


「ソマリ! そこから離れろ!」


 俺はシャルの元へ近づく可能性があるソマリへ指示する。

 尻餅をついていたソマリは、俺の声を聞き入れ、戸惑いながらも彼女達から離れる。次にシャルに忠告する。


「シャル! そのボウガンを手放せ!」

「何をしたんですか? そんなことするわけ――ッ!?」


 言葉の途中で気配を察したのか、ボウガンを前に投げ捨てた。

 宙に放り投げられた瞬間、勢いよく上空から、ボウガンを貫き破壊する。

 それだけではない。


「な、なにが!?」

「ちょっとワタクシの剣が勝手に!!」


 シャルのスカートの中や懐の中から隠していたのであろうナイフやクナイがわんさかと飛び出し、光るボウガンへとくっついてく。

 近くに居たルドも、腰に差していたレイピアが幽霊の仕業かの如く鞘から勝手に引き抜かれ吸い寄せられるようにくっついてしまった。

 そう、この魔法が当たった金属を一時的に強力な磁石に変える。

 生身の生物には効果が無いが、鎧などを着た対人に向いて使い所が難しい力だ。


「くぅッ!」


 魔法の性質に気付いたのか、ルドは盾を抱えるように、更に引っ張られ重くなった装備のまま全力で離れるようにこちらへ駆けてくる。

 遠距離武器を軒並み失ったであろうシャルと、剣を失ったルドを分断出来た。

 俺は後ろのアンジュにこの場から離れるよう指示した。


「アンジュ、林の方へ走れ!」

「わ、わかったわ!」


 彼女は頷き、後ろの林へ身を潜めた。

 それに反応したルドが声を上げる。


「シャル! あのドワーフを追いなさい!」


 その指示にシャルは体制を立て直しながら近くの林に隠れようと走り出す。


「させるか! 氷壁アイス・ウォール!」


 俺はすぐさま魔法を展開し彼女の進行方向へ氷の障壁を作り出す。

 シャルは氷を蹴り壊そうとするが、ワーウルフ並の怪力がないと不可能だ。

 逃がさないよう彼女を覆う囲いを形成しようとするが、


「貴方のお相手はこちらよ!」


 重装を脱ぎ捨ていつの間にか近づいてきたルドが盾で殴りかかってくる。


「うわっ!?」


 とっさに俺は回避する。

 しかし、彼女の狙いは俺ではなく展開しかけていた魔法元素キューブだったらしく、刃物のように横へ薙ぎ払い盾を叩き付けガラスの如く魔法元素キューブは砕け散った。

 展開阻止をされ、更に彼女の猛攻は続く。

 

「わざわざワタクシ達が来てやったというのに、謝罪しろですって? 冗談じゃないわ!」

「……」

「貴方を上手く利用して、ロイスを連れ戻す手はずだったってだけよ! ロイスの友人ってだけの貴方をね!」


 盾を縁を斧のように何度も振り回してくる。切断はされないだろうが、鉄が当たれば骨折しかねない。

 俺は彼女の動きを見極め、紙一重で凶器となった盾を交わし自身の懐を漁り、作業用の手袋をそっと取り出した。


「貴方みたいななり損ないにお願いしなくても、ワタクシ達でロイスの正気を取り戻させますわ! ロイスも周りの皆も、貴方を……買い被り過ぎなのよ!」

「……」

「過大評価された貴方をボコボコにして証明してさしあげますわ! ワタクシが盾一族の落ちこぼれじゃないこと――」


 刹那、俺は避けると同時に遠心力で彼女のみぞおちにブーツのかかとを打ち込む。


「――ッ!?」


 余計なことを喋っていたせいか、息の詰まった叫びを上げるルド。

 胸を押さえ背中を丸める彼女の隙を見て俺は作業用手袋を装着し展開する。


炎付加ファイアー・エンチャント

「――ウソ!? 貴方正気なの!?」

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