第168話 因縁を断ち切るよ

 俺は彼女達に頭を下げる。


「わざわざここまで来てすまないが、ロイスを助けるために協力できない。俺はもう勇者を止めたんだ」


 そう言うと、二人の表情からぼーっとしたものに変わる様子が見えた。

 本当に申し訳ないと思っている。

 特にロイス本人が今大変な状況になっているのに見殺しにしようとしているのだ。

 本当は協力したい。

 だが……ウィムとサニー、そして頑張ってくれたコハルのことを思うと、無茶をしたくない。

 今、俺の存在意義は家族だ。

 家族を失いたくないし、彼女達を悲しませたくない。

 だから……俺はいけない。


「ゴメン二人とも、たぶん新しい転生者が現れると思うんだ。その時まで耐えるしかない……」


 そこまで言った時、アンジュが手を引っ張ってくる。


「そういうことだから、アンタ達残念だったわね。それじゃあ、ちゃんと本の訂正しておきなさいよ!」

「お、おいアンジュ!」


 アンジュは俺の手を引き、家の方向へと向かっていく。

 ドワーフだけあって力が強く、体格差があっても俺は無理矢理引っ張られる。


「アンジュ! さっきから話に割り込んだり強引だろ!」

「うるさいわね。あんなアホ女共に考慮しなくて良いのよ。そんなことより、これからいろいろ大変かもしれないわ。アンタ、あのロイスに命を狙われるかもしれないのよ!」


 ああ……そういうことだ。

 ロイスは今何故か魔法使いを襲っている状態らしい。

 つまり、付加魔法使いエンチャンターである俺もその対象である可能性が高い。そうなると、家族を連れて逃げるしかないのだ。


「当分の間アタシがアンタ達をかくまうわ。そこから他の国に逃亡するか考えましょ」

「アンジュ……そんな、そこまで……」

「何言ってるの! アンタ達が死なれたらアタシ達が困るわ! 早く戻るわよ!」


 何ともありがたい申し出だった。

 甘えるわけにもと思う気持ちはあるが、今度ばかりそう言ってられない。

 これから赤子を抱えてロイスから逃走することになるかもしれない……

 そんなことを思っていた刹那。


「……ッ!?」


 耳元を何かがかすめ、前方の木に突き刺さった。

 何が飛んできたのか感覚的に察し、目の前の物を視認して確信に変わる。

 後ろから、矢を一発撃ち込まれたのだ。


「シャルちゃん何やってるの!」


 後ろから聞こえるソマリの声で俺達は振り向く。

 すると、いつの間にかボウガンを構えていたシャルと、銃身を掴み俺達に向けないようにおさえているソマリの姿があった。


「殺してやる!!」


 シャルは瞳孔を開き獣のような表情で俺達に殺意にも近い圧を放っていた。


「謝ったのに! 謝ったのにぃ!! 言うことを聞けないなら殺してやる!!」

「シャルちゃん止めて! 自分が何やってるかわかって……きゃ!?」


 制止するソマリを横からルドが体当たりし転倒させる。

 フラリと生気の籠もっていないような猫背顔元が見えないルド。


「……殺してしまえばいいわ」


 彼女は何かボソッと呟いたと思いきや、がばっと顔を上げる。

 その目は鋭く、視線だけで刺し殺されそうな憎悪をヒリヒリと感じる。


「そもそも、ワタクシより弱い奴に何故頭を下げなければいけませんの?」


 盾を構え剣を抜き、切っ先を俺へ向ける。


「所詮貴方は雑魚。平民以下の孤児の分際で、使えない付加魔法使いエンチャンターを名乗っている出来損ないに……高貴な血筋のワタクシが! 負けるわけがありませんわ!! ぶっ殺して差し上げますの!」


 いつか見た、攻撃の構えを取るルド。

 そしてボウガンを俺達へ構え直したシャル。俺はアンジュを守る為前に立つ。


「何なのよアイツら! やっぱり頭どうかしてるんじゃないの!」


 ああ、本当にそう思う。

 自分の思い通りにならないと、力でねじ伏せ人をふるい落とす。

 俺は……そういう奴が昔から大嫌いだ。

 そして、何より俺の友人を傷つけようとしてきた。

 奴らの成長のしなささに、呆れを通り越して怒りが沸き起こってくる。


「ああ、言ってもわからないなら……」


 ここで、あの女達との過去の因縁を断ち切る。俺は両手で2つの魔法元素キューブを取り出し構えた。


「決着をつけるしかない!」

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