第171話 見限るのよ

「謝らないで、アナタが悪い訳じゃないでしょ僧侶さん」

「いえ、もうちょっと大人数で来ればこの子達を止められたかもしれないし、今回のは完全にこちらの不手際です」

「アタシのこと助けてくれたでしょ。だから僧侶さんが謝る必要ないわよ。謝るのはこの女達」


 アンジュは倒れるルドとシャルを指さす。シャルは生きているようだが、恐らく先ほどのソマリが出したであろう奇跡の類いでのびており。ルドも感電したショックで気絶している。

 その様子を改めて確認し、俺は溜息を吐く。


「さて、コイツ等をどうするか……」

「ここに寝かしておけば良いんじゃ無いの?」

「そういう訳にはいかないだろ」


 俺とアンジュが話していると、ソマリが懐から見覚えのある薬瓶を取り出した。

 中に入った液体の色でそれが、懐かしの解眠薬アンチスリープ・ポーションであることがわかった。

 その様子を見た俺とアンジュは思わず彼女を止める。


「ちょっと待て! そいつら起こすの?」

「うん、だって二人を担ぐのは重いし、十分懲りたと思うよ」


 確かにこのまましておくわけにも行かないので起こすことにする。「くっさ!!」っと臭いで、もがきながら意識を取り戻した二人を俺達が見下ろす形になる。

 ソマリは昔通りおっとりと這いつくばる二人に語りかける。


「それじゃあ二人とも、自分たちの実家に帰ろう。そしたら、もう一度皆の所に戻って作戦を考えよ」

「ちょっと待ちなさい! イットは! そいつはどうするのよ!」

「イット君達はしょうがないよ。だって子供が産まれたばかりで大変な時だし、コハルちゃん達の為にも死ぬわけにはいかないのもわかるし」

「何甘いこと言ってますの!? ロイスは! ロイスはどうしますの!」

「それはウチ等で考えるしかないよ。何とか仲間になってくれる人達を募って、協力してロイス君を止めなきゃ……」

「ロイスを止めるなんて人類総出でも無理ですわ! それこそ対等な――」


 刹那、ルドが俺を見上げる。

 身包みを剥がされ地面に手を突く自分と、泥が少し付いた程度で済んでいる俺との差を実感しているのかもしれない。

 悔しそうな表情で土を握りしめ、絞り出すように彼女は言葉を続ける。


「ロイスと……対等に渡り合えそうな奴を見つけなければ……ロイスが魔王になってしまう……」


 言葉の途中で、ルドの目から涙がこぼれ落ちてくる。

 こんなルド、初めて見たが彼女の言っている流れはこの世界の流れそのものだ。

 勇者が魔王となり、そしてまた新しい転生者が現れ勇者となり、魔王を倒す。

 今、ロイスはその道を進んでいる。

 これを止めなければ、また新たな転生者が現れ、そして……

 そんなこと容易に想像できる。

 このままでは、ロイスが……殺される。

 沢山の被害者も出る。

 わかりきっている。

 だが……


「……」


 俺は首を縦に振れない。

 ルドとシャルだからではない。

 ロイスが嫌いだからでもない。



・親友の頼みだから頑張るよ!



 ……

 寧ろ親友だ。

 掛け替えのない彼は俺の親友だ。

 そんなのわかってる。

 だが……

 ……すまない。

 この世界でコハルとウィム、そしてサニーのことが一番大切なんだ。

 俺の大切な家族の為に、リスクを負いたくない。


「……すまないが他をあたってくれ」


 俺は彼女達にそう伝える。


「……意気地無し」


 すると、いつも通りシャルが俺を貶してくる。そして、徐々に暴言を並べエスカレートする。


「臆病者! 役立たず! 転生者の恥知らず! だから一生ロイス様に勝てないんですよ!」


 真に迫るような表情で俺を罵倒する。

 今回は罵倒されて当然だ。

 親友を危機を見て見ぬふりをするんだ。

 最悪の決断をしているのはわかっている。

 すると、バチンと音がシャルから林に広がる。

 俺は思わずそちらに目を向けると、彼女の前にソマリがしゃがみ込んでいた。

 這いつくばるシャルの頬をなんとビンタをしていた。


「協力を得られなかったのは、五年前にウチ等がイット君を迫害したからだよ」


 諭すようにソマリが続ける。


「もしあの時、イット君とコハルちゃんが残り続けて、皆で魔王を倒していたら……ウチ等と一緒にロイス君の側に居てくれたなら、こんなことにはならなかったかもしれない」

「「……」」


 彼女の言葉に二人は沈黙する。

 二人の様子を見てソマリは、少し口元を緩め声を和らげる。


「……これはウチ等が撒いた種。ウチ等でちゃんと責任を取ろう……ね、二人とも」


 しばらくの沈黙の後、二人は項垂れるように立ち上がる。

 ソマリは彼女等を屋敷へ送ると暗い空気の中帰らせることにした。

 消耗した彼女等を見送るのはさすがに心苦しい為、馬車を用意して王都まで俺が送ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る