第165話 謝りに来ましたよ
「……何なんですの貴方?」
「アンジュ……どうしてここに?」
突然ドスの利いた声でアンジュに問いかけるルド。
それに負けない眼力でアンジュは睨む。
不穏な空気が流れつつ、アンジュが口を開いた。
「心配でこっそり着いてきたのよ! それよりアンタ達がイットとコハルが居たロイスパーティーの女どもね。話は聞いてるわ」
挑発的な言葉遣いに、ルドは昔と同じように不機嫌な態度応対する。
「何なんですのこの娘は? 迷子なら引っ込んでいてくださらない?」
「そういうアンタは確か盾の貴族の落ちこぼれ娘でしょ?」
「……なんですって?」
言葉の一撃で、噛みしめるほど怒りの声が漏れたルド。
それに全く動揺しないアンジュは、彼女を無視して続ける。
「そんなことよりイット。まず、優先順位を考えなさいよ。世界よりも守るべきものがあるでしょ」
その一言で、ウィムとサニー、そしてコハルが浮かんだ。
「……そうだな」
そう。
今の俺には大切な家族が居る。
「俺がいなくなったら、家族が困るんだ」
今、俺は一家の大黒柱になっている。
俺が収入を稼ぎ、彼女達を支えている。
ロイスを止めに行くと言うことは、収入も無く、命の危機に瀕することになる。あの子達に親の居ない辛さを味わせたくない。
もう、俺一人の命と言えないのだ。
「悪いが皆……俺は勇者じゃない」
アンジュにほだされた訳じゃ無い。
だが、彼女の言うとおり世界の危機より大事なものが俺にはある。
「ロイスには悪いが、俺は止めることに参加しない。今、俺は家族を支えないといけないんだ」
「何を抜かしてますの!?」
ルドが食ってかかる。
「貴方、友人を見捨てると言うの! 何て薄情な!」
「ああ、わかってる。だが、俺はもう俺だけの命じゃ無いんだ」
そう言うと、今度はソマリが話す。
「でも、今回の話はイット君にも凄く関係があるとウチは思うんだよね」
「と言うと?」
「理由は詳しくわかっていないけど、ロイス君が襲っているのは魔法使いなんだ。つまり、イット君を狙う確率は高いと思わない」
確かにそうだ。
情報が少なくて判断しきれないが、俺も魔法使いでありロイスに襲われる可能性だって十分にある。
ソマリは続ける。
「それならウチらと行動を共にする方が、一人より安全じゃない?」
「何言ってるのよ。アンタ達じゃ全く信用出来ないでしょ。ワタシが責任持ってイット達を逃がすの」
ソマリの言葉を打ち消すアンジュ。
それに対してルドは怒りを表す。
「さっきから何ですのこのチビは!? ワタクシ達の邪魔はしないでくださらない?」
「チビですって!? アンタドワーフのことも知らないわけ!? ここの騎士育成教育機関出身の奴は種族の教養も習ってない底辺教育ってことなのかしらー!?」
ルドの言葉に身体をねじ切らんばかりに見下した姿勢で挑発するアンジュ。
それにしても、さっきからアンジュがルドの身辺を知りすぎている気が……
そうこうしていると、女性二人は勝手にヒートアップしていく。
「貴方さっきから本当何なんですの!? 今大切な話をしていると言っているでしょ!? 一般庶民の分際で軽々しくワタクシ達の話の輪に入ってこないでくださらない!?」
「人を身分でしか語れないから敵ばっかり作るんじゃないの落ちこぼれお嬢様?」
「このガキ……言わせておけば……」
「アンタの噂はかねがね耳に入って来てたわよ! 自分の周りに取り巻き作って騎士生時代に散々市民級出身生徒をこけ落としてたんでしょ? この性悪女!」
「……!?」
何やらルドの過去のような話が何なんだ?
「ア、アンジュ。もしかしてルドと知り合いなのか?」
「知り合いな訳ないでしょ! この女の噂はウチの客から聞いてるのよ! 教育機関出身で! この女と取り巻きに中退させられた冒険者の子達がね!」
それはつまりあれだ。
ルドはいわゆる学校に良く居る虐めの主犯格みたいな奴か。
学校のように中退する学生がいて、彼等は王国騎士の道を諦め冒険者へなる者も居ると聞いたことがある。
アンジュの言っていることが本当ならルドのせいで中退した元生徒が不憫でならない。
ますますこの女に嫌悪感が沸き起こる。
アンジュの言葉に全員が凍り付いたように押し黙る。
沈黙中しばらくすると、「フン」と嘲笑うようにルドが口を開く。
「だからなんですの? 今はそんなこと関係ありませんわ」
「アタシは、アンタじゃなくて元からイットに話しかけてるのよ。ちょっと黙っててくれる?」
「はぁ?」
アンジュが俺の所へ、ゆっくりと近づいてくる。
「イット! アンタもこの女達に虐められてたんだって、想像出来るわ。だから、途中で離脱したんでしょ?」
彼女にその話をしたことはなかったが、もしかしたらコハルがいつの間にか話したのか? 答えられずにいるとアンジュが続く。
「また、こんな奴らに利用されるのよ。アンタを盾にして暴走したロイスを止めようとしてるのよ。よく考えて、イットにメリットなんて何にも無い。コイツらがあわよくばといいとこ取りしようとしてるのが見え見えでしょ?」
そこへ遮るように、
「シャル達は謝りに来ました」
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