第147話 怒られるよ
「ねえ、イット君」
「何だよソマリ?」
「もしかして……イット君が抜けたのって、ウチが余計なこと言ったからだったりする?」
ロイス達が今日出発の為、早朝から手分けして積み荷を手伝っているとソマリが話しかけてきた。
俺達が離脱することになって以降、あまり話をしていなかったが……
俺は安心するように答えた。
「いいや、確かにソマリから切っ掛けはもらったかもしれないけど、これは俺が決めたんだ。気にしてたのか?」
「当然だよ! もしかしたらウチがイット君の運命を変えちゃったのかなっておもってたんだ……一緒に魔王を倒しに行くはずだったのに」
真剣そうな顔を見せるソマリ。
俺はなるだけ穏やかに伝える。
「気にしなくて良い。ソマリのせいじゃ無いからな。寧ろ本当に世話になった。ベノムに報告することがあったら全部俺のわがままってことにしておいてくれ」
「もう報告はしてあるよ。応答はまだないけどね」
と、上司に怒られる社員の様に彼女は溜め息を漏らす。
最後の最後で申し訳ないなと思いつつ俺はフォローする。
「大丈夫だって、今回の件はベノムならたぶんソマリよりも俺の方を殺しに来る」
「殺しに? どうして?」
「勇者である俺が斥候ギルド……いや、ベノムの指示に従わなかったら危険因子と見なされ排除される。ソマリの監視下から外れる訳だ。この後斥候ギルドの奴等が俺を取り押さえに来るんじゃないかと思ってるよ」
「……」
「奴らが来たら、俺は抵抗せず拘束されるよ。そうなればソマリがもし問い詰められても被害は最小限で済むと思うし、お前にはロイスを監視する役目も残ってる分けだしな」
ソマリは無言になる。
安心させるつもりだったが上手く伝わらなかったのだろうか。
と、思っていたが……
「あはは、ウチはちょっとは怒られるかもしれないけど、ベノムさんはイット君のことを殺しには来ないよ。きっとね」
彼女は笑いながら答えた。
「な、なんでだよ……」
「ウチもイット君が抜けるって言った後、いろいろ調べたんだ~」
「いろいろってなんだよ?」
「それは内緒! でも、ベノムさんには怒られないのは確かだってことはわかった。と言うか、最初からこうなることも想定されてたのかもって思ったんだ」
「……はぁ?」
「イット君もたぶん追っ手とか来ないと思うから気にしなくて良いと思うよ。ゆっくり休んでね」
「どういう意味かわからないんだが?」
「後でコハルちゃんと話してみると良いよ」
コハルと話す?
言っている意味がよく分からないが、彼女の中で何か解決しているのだろう。そんな話をしつつ積み荷の準備は出来た。
準備がほとんど整いイダンセの検問所の付近まで俺とコハルは見送る事になる。馬車から降りたロイスが俺に話しかけてくる。
「イット君……やっぱり気持ちは変わらなかったんだね」
悲しそうにロイスは呟く。
それを見ると俺も辛くなるがそれでも俺は抜けると決めたのだ。
「すまないなロイス。一緒に行くって約束だったのに……」
昔交わした、ロイスとの約束を破ることを今ハッキリと宣言し謝罪する。
俺の心の中で、一番つっかえていたことだった。それに対してロイスは笑顔で返してくれる。
「良いんだよ。僕も君にプレッシャーを与えていた。仲間を多くして冒険すれば楽しいって思った僕が浅はかだった」
彼も頭を下げるが止めてくれと伝える。
「ロイスのせいじゃない。俺の心の弱さが原因だ。本当にすまなかった」
「違うよ。寧ろ僕のわがままに今まで付き合ってくれてありがとう」
彼に感謝の言葉をもらうが、より一層申し訳ない気持ちになる。
彼は続ける。
「本当は、イット君達と一緒にいたい気持ちではあるんだけどね……でも、僕はサナエル様と交わした約束を果たす……魔王を倒すこと最優先にする」
「ああ……わかってる……すまない」
「そんなに謝らないでよイット君。君と居たこの数ヶ月は凄く楽しかった」
そこまで言うと、しまったと言うような表情になるロイス。
「……ゴメン、君は辛かったんだよね」
「……」
この旅はただ俺が辛いだけだったのだろうか。きっと最初の方は世界を救う為だとやる気に満ちていたに違いない。
少し気持ちが落ち着いた俺は、やり直そうと言えるのかと言うと言えない。俺は彼に伝える言葉を必死に考えた。
「少し……休ませてもらうよ」
振り絞った答えはこれだった。
「俺は……少し休ませてもらう。俺の実力じゃロイス達の足手まといになる」
「そんなことは……ないと思うんだけど」
「そう言ってくれるのはありがたいんだが、実際俺は必要なかった。これは紛れもない事実だ」
いろいろと心苦しいが、俺は彼の前で断言し自分自身を否定した。
ロイスが溜め息を吐き少しの間を置いた後、優しく言ってくる。
「もし、君がまだ諦めていないなら……後からでも良いから、また一緒に冒険してくれないか?」
もっと文句を言いたいはずなのに、彼は笑っていた。俺にとってとても優しい提案に、改めて胸が苦しくなった。
俺は言葉を絞り出す。
「……良いのか?」
「ああ、もちろん! 僕は君の帰りを待ってるよ!」
ロイスは俺に手を差し向ける。
俺は迷わずその手を握った。
「ありがとう……ロイス」
彼には感謝の気持ちしか浮かばなかった。
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