第146話 根性無しよ
俺は淡々と彼女の言葉に繋げていく。
皆がそれを聞き凍り付く。
あらぬ風向きになっているルドは、俺を睨む。だが、すぐに人を小馬鹿にしたように彼女は鼻で笑う。
「フン、とんだ被害妄想ね。助けてもらえなかったと騒ぐ子供の戯言だわ」
「実際に被害にあっているし、それをお前は妄想だと鼻で笑うんだな?」
「あの状況ぐらい勇者の貴方なら簡単に打開できると思っていたのだけど、ワタクシが買い被りすぎたってことですわ」
「なら、俺達を置いていこうとした意思は認めるんだな?」
「そうね、貴方をロイス様と同格に見てしまった落ち度ね。ワタクシ反省しておりますわ! 貴方、ロイス様の劣化ですものね!」
彼女は絵に描いたような高笑いで言い切った。ここまで来ても俺を馬鹿にしたい心情は一種の尊敬すら感じる。
誰もが唖然としている中、俺はゆっくりと言葉が聞こえるように話す。
「俺のことを見下し、あざ笑うのは構わない。だが、俺はお前達が俺だけじゃ無くコハルとソマリを残して行ったことが最も許せないんだ」
「残したですって? 人聞きの悪い。ワタクシは逃げるように指示をしましたわ」
「指示をすれば良いって言ってるのか? それでお前は言い逃れしてるつもりなのか?」
「は? 意味が分かりませんわ? いい加減ウジウジと女々しいですわ!」
ルドは啖呵を切る。
「人のせいばかりにして、そんなに抜けたいのなら抜ければ良いでしょ! 根性無し!」
彼女が言い切った時だった。
「ふざけるな!!」
ルドの目の尋常じゃ無い速度でロイスが前に出た。
そして、あろうことかロイスは彼女の胸ぐらを掴み上げた。
「え……あ……ロイ……ス?」
「いい加減にしろ! NPCの分際で戦闘以外で僕達を不快にさせるなんてありえないだろう!」
「な、何をおっしゃってますの!? ワ、ワタクシはただ……」
「謝れ」
「……ッ!?」
「謝れよ!!」
「な、何を言って……」
「イット君に謝れよぉオオオ!!」
ルドに今まで見たこと無い般若の剣幕で怒鳴るロイス。
「ロ、ロイス様!?」
シャルは彼の行動に悲鳴にも似た声を上げる。俺は彼の姿がとても心苦しくなり、肩を掴む。
「ロイスそういう言い方は止めろ! 俺は言っただろ! ここの世界の人達は皆本物だ。同じ人間同士なんだ」
まさか抜ける宣言をした俺がロイスを制止することになってしまった。
彼は我に返ったのか静かに掴んだ襟首を話しこちらへ向き直る。
解放されたルドは口をポカンと開きながらその場にへたり込んだ。
ロイスが話す。
「ごめんイット君。僕が君を追い込んでしまった。本当にごめん」
彼は深々と皆の前で頭を下げた。
彼も床にへたり込んでしまう。
「頭を上げろ、ロイスは悪くない」
「いいや、僕は君に……親友の君が虐められているの見て見ぬふりをしていたのと一緒だ。僕も同罪だ」
ロイスが顔を上げると、彼は涙を浮かべていた。
「僕は僕を許せないよ。生前虐められていた弱い自分を忘れ、今の強くなって何でも上手くいくと勘違いして突き進んでいた。傲慢になっていたんだと思う」
そう言いながら、ロイスは後ろを振り向きルドとシャルを冷ややかな目で見つめ、
「僕の一番嫌いな虐めって奴をしている……身近な人に気付かなかったなんてね」
彼がそう言い放つと、今まで黙っていたシャルが慌てて前に出てくる。
「待って下さいロイス様! シャルはロイス様のことを思って――」
「……」
必死に弁明をするシャルを冷たい目で見続けるロイス。
何を言っても無駄だと悟ったのか彼女はその場で泣き崩れる。
いい加減食堂に迷惑が掛かりそうなので俺とコハルは立ち去ろうとする。
「イット君」
冷たい声色のままロイスが話す。
「少しだけ……考え直す時間を作ってくれないか?」
「時間?」
ロイスはこの場では俺が抜けることに対して、気持ちの整理が付けられないという。数日間検討したいのと、俺自身も時間が経つと意見が変わるかもしれないとのことだった。
「彼女等にはキツく言っておく」
ロイスは横目でルドとシャルを睨んだ。
彼女等はいつもの威勢は何処に行ったのやらシュンと縮こまっていた。
手間をかけさせてしまって申し訳ない気持ちになる。
それから三日間ぐらいの話になる。
俺は宿舎で休みつつ酒場で、コハルと共に彼女の代役を引き受けてくれそうな冒険者を探した。
結局俺の気持ちは変わらず、辞める意思は固かった。
ロイスとも極力話をせず……というか彼は例の小娘達を詰めて倫理観の確認と教育をしているのだとソマリから聞いた。
今回の件でロイスは今までに無い程カンカンに怒っている様子で、自身の責任感も相まって徹底的に彼女等と話し合いを行っているようだ。
とにかく俺達は俺達で協調性がありそうな前衛職の人物を探した。
すると数日経って、同い年ぐらいの
彼女のパーティーは解散となったらしく、独り身でどうしようかと悩んでいた所の様だ。冒険者となって日は浅い方だが、何度か依頼はこなしていると話し、受け答えがしっかりしている印象を強く受けた。
彼女に、俺達が元勇者パーティーに属しており内々の事情で脱退する上で代わりの冒険者を探していたこと伝える。
初めは格闘家少女も半信半疑の様子であったが、ロイスの話や借りておいたロイス家の家紋の書類を見せると驚いた様子で納得してくれた。
コハルとの組み手を行ってもらい実力を見せてもらったが、元々の身体能力的差はあるものの対応能力が高く何より勉強熱心でコハルの技術等を学び取ろうといろいろ質問もしてきた。
彼女は自分なんかが勇者パーティーに勧誘されて良いのかと謙遜していたが、真面目で勤勉、ワーウルフの猛攻を切り抜けられた状況判断能力は並の冒険者では持ち合わせていない光る所が見えた。
寧ろ俺達に着いてきてほしいと思えた程の原石だとも感じた。
まあ、そんな訳にもいかずロイスに緊張の面持ちの格闘家少女を紹介する。彼は、淡々と話を進める俺に戻る気が無いことを悟ったらしく、すんなりと格闘家少女を受け入れ皆にも紹介した。
こうして俺達の替え玉の準備も整った。ロイスはもう俺に何かを言いたげな様子だが、すでに俺の気持ちは全く変わらなかった。
俺とコハルは正式に、勇者パーティーから脱退したのだ。
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