第145話 止めるよ

 俺とコハルは食堂へ向かう。

 するとロイス達がすでに揃い、席に座っていた。

 皆はこちらに気付き、第一声はルドの言葉だった。


「いつまで寝ているつもりでしたの? 本当にやる気がありませんわね。そんな感じでは、いつまで経ってもワタクシ達の足を引っ張るだけですわ」


 早々に早口もイビリを聞き入れつつ、次にロイスが口を開いた。


「ルド、朝からイット君に突っかかるのは止めるんだ。だけどイット君、昨日話した吸血鬼戦に関して、もう一度考えてみたんだけど、僕にもイット君に思うところがあるんだ。それについてちゃんと話し合おう。とにかくそこに座って」


 席に座るように促されるが、俺とコハルはテーブルの近くまで行き立ち尽くす。

 ロイス達は俺達の様子に気付いたのかこちらへ注目し、俺は口を開いた。


「皆に話したいことがある」


 俺は無視して二人の言葉を制止させる。ロイス達は呆気にとられた様子を見せるが構わず、単刀直入に意思を伝えた。


「俺とコハルはパーティーから離脱しようと思う」


 言い放った言葉に一同固まった。

 誰も何も言わないのは逆に困るのだが、唯一ソマリは反応が早く、笑顔の口元が歪みこめかみを押さえていた。

 静かな間が開き、俺は続ける。


「誰も何も言わないってことは受け入れたってことだよな? それじゃ――」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


 俺とコハルがその場から離れようとした時、ロイスが立ち上がった。


「冗談だよねイット君! 離脱って……」

「ロイス、悪いが冗談じゃ無い。俺とコハルは昨日話し合って決めた」

「い、いや決めたって……そんな急に言われても……」

「いろいろ話し合って、コハルと考えあったんだが、俺はこのパーティーに必要ではないっていうことがわかったんだよ」


 俺が彼に説明していると、ルドが座りながら呆れた物言いと言わんばかり話してくる。


「はあ~……そんな弱音を吐く根性無し、こちらから願い下げですわ。コハルが抜けるのは、まあ少し痛手ではありそうですけど、良いんじゃなくって?」


 俺に対して勝ち誇ったような笑みを浮かべるルド。終始無言のシャルもニヤリとほくそ笑んでいるように見える。ルドはシッシッと追い払うように手を振り、


「さあ、とっとと消えて下さらない? 腰抜けの勇者さん」


 と、彼女が生意気なこと口走った。

 その時だった――


「黙れェッ!!」


 突然、怒りを吐き捨てるようにロイスが叫んだ。俺達はいつもと違うロイスの反応に固まる。

 食堂の人々も静まり返るが、俺達を見るなり呆れた様子で元の位置に戻っていく。

 この食堂ではすでに俺達の痴情のもつれがダダ漏れで「またかよ」と言うような白い目線を向けられていた。誰もが押し黙る中、ロイスが俺に問いかける。


「イット君正気なのか? 僕達は勇者なんだ! 僕達の手でこの世界を救わなくてはいけないんだよ?」

「それは話し合った。別に必ずしも一緒に居なくてはいけない訳ではないんじゃないか」

「え?」

「俺達は別行動するが、世界を救わない訳ではないって言うことだ」


 ロイスは震えながら返す。


「だ、だけど! イット君とコハルちゃんが居なくなった後、このパーティーはどうするのさ!」

「まず、コハルが抜けるのはここのパーティーに対して痛手であるのは間違いないと思う。前衛が一人居なくなれば負担が増える。だから、後釜を俺達がこのイダンセで探す。もちろん優秀な奴をな」


 俺はロイス達を冷めた目で見つめる。


「俺の後釜は正直いらないだろ? そもそも6人パーティーっていうものが、一般冒険者からしたら多い方だったと今更ながら思う。Sランク級のクエストでない限り少数精鋭の方が出費が浮く。実際俺が必要とされる場面は少なかった。そうだよな? !」


 俺はずっと置物のように黙っていたメイドのシャルに話を振った。

 まさか自分に話しかけられると思っていなかったのか、彼女は俯き押し黙る。皆の視線を集める中、気にせず俺は続けた。


「中衛にいたお前なら、俺のこのパーティーに対しての貢献度の低さが分かるだろ?」

「……」

「暴行の冤罪をかけたくなるような人間がパーティーから出て行ってくれて清々するんじゃないか?」

「……」


 彼女は何も答えない。

 答えたいのは死ぬほど分かる。

 俺をいち早く追放したい気持ちが絶対にあるはずだ。

 しかし、言えないのだろう。

 今、俺が抜けることを全力で拒み怒りを抑えた最愛のロイスの前で、手を叩いて喜ぶわけにもいかないのだろう。

 きっとこれ以上コイツを問い詰めても無言を貫くだろう。俺もこの虚言女と会話をしたくはない。

 ロイスは慌てふためく。


「も、もしかして……あれが原因なのかい? シャルがイット君に襲われたって嘘を吐いていた時の」

「まあ……それも多少はある。俺を陥れるためにでっち上げようとしていたからな。ルドとシャルの策略で」

「な、何を言ってますの!?」


 俺の発言にルドが声を上げる。

 あの件の出来事はすでにロイスに伝えている故、今更蒸し返すことはないが最後だし再発させた。

 ルドは、あーしかないこーでもないと俺が悪いとのたまっているが、そんなことはどうでも良かった。

 俺は彼女の話を断ち切ってどうして抜けたいのかを言う。


「一番確信的だったことは、吸血鬼戦の時に俺とソマリ、操られているコハルを置いて逃げたことだ」

「逃げてませんわ! あれは貴方達がワタクシの指示を無視した代償ですわ!」


 俺は彼女の言葉に斬り掛かる。


「あの状況で意見の相違があったとしても、仲間を見捨てる選択し、考えつくお前の神経を疑うよ」

「お前……ですって!」


 初めて見下した口調で軽い煽りを入れたがルドは反応する。

 俺は何となく分かっていた。

 彼女は論理的に最もらしい言いぐさに持ち込むのが上手いがプライドが高い。

 一度一呼吸を置いて冷静にルドは言う。


「……だとしたら、ワタクシの判断ミスですわ。あの切羽詰まった状況で、ワタクシも必死で――」

「違うな。お前はあの時後衛の俺にコハルの対処を全て押しつけて逃走している。判断ミスにしても前衛のお前の立場としては悪意があり過ぎる」

「悪意なんて誤解ですわ。ワタクシはただ――」

「あわよくば、俺を事故死させようとしたんだろ?」

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