第141話 ミドリムシよ
俺の反応を見て、ソマリはやっぱりとクスクス笑う。
「やっぱり、イット君気付いてなかったんだウチの耳。おもしろいな~まったく」
「ソマリ……お前エルフだったのか。今更だが衝撃だ」
「ううん、ウチはエルフじゃないよ」
俺は一瞬固まり、ソマリは続ける。
「ウチは、人間とエルフの間で生まれた中間の存在……どっちでもあってどっちでもない存在」
「……それって、ハーフエルフって奴か?」
「そういうこと! 寿命も耳の長さも人間とエルフの中間ってこと」
ウィンクして見せる彼女は、少し溜め息交じりに呟く。
「……そして、どんな人達とも分かり合えないし、生きる時間を共有出来ないんだ」
屈託の無い笑顔を見せる彼女は続ける。
「ウチも最初はそれで憧れてた。自分は劣っている。皆と、誰かと同じ種族に生まれたかったって」
「そう……なのか」
「そうだった。でもね。イット君達が来る前だったかな。ウチらが居たあの教会にサナエル教徒の人が訪れたことがあって……それでウチは自分の見方が変わったんだ」
ソマリは先ほどまでの表情から更に一変、目を輝かせてこちらを見つめる。
「聞いたことある? サナエル信仰やイデア論の世界構造の話?」
「イデア論? 世界構成?」
聞き慣れない言葉に、恐らく俺の頭にクエスチョンマークが浮いた様な顔をしてしまったのであろう。
ソマリはクスクスと笑いながら俺に問いかける。
「それじゃあ、ちょっとした問題です。天国と地獄って聞いたことはある?」
それはさすがに知っている。
曲の名前にもなっているし、人が死ぬまでに善行を行っていれば天国へ、悪行を尽くしていれば地獄に落ちるのだ。
それを聞かせるとソマリは更にニヤニヤしている。
「天国のことをイデアって、ウチら聖職者達は言っているんだけど、そこはサナエル様達天使様が住む場所と言われているんだ。天使様達は
「……つまり、どういうことだ?」
「イット君が善行を行う生き方をすれば、天使様達と同じ
前世のキリスト教に似た考え方だ。詳しいことはさすがに詳しくはないが善行を推奨する教えはどの世界でも一緒なのだろう。
「さて、ここからは問題。
「行けなったら?」
真剣に考える気がないからか何も思い浮かばず無言で居るとソマリが答えを出す。
「時間切れでーす。答えは魂が生まれ変わり、現世で違う存在に蘇るんだよ」
「……なるほど、輪廻転生か」
死後、人の魂は何処に行くかの問題でよく上がる考え方の一つだ。
人は新たな命に生まれ変わり世界に巡っていくのだという考え方。
ある意味死を恐れぬ心構えとして作った想像の産物だと思っていたが、この世界は魔法や天使が実在する以上本当に輪廻転生はあるのかもしれない。
この世界にも、やはりそういう教えみたいなものがあるのだなと関心する。
「イット君は輪廻転生を知ってるんだ」
「まあ、俺の居た世界でも有名な話だったし、そもそも俺も転生者だしな」
「あ! イット君の言う転生と輪廻転生は少し違うんだよ。本来の輪廻転生はこの世に住む生物へ生まれ変わること、ただ生まれ変わるのも人族だとは限らないよ」
「ああ、何となく想像がつくよ。動物とかもしかしたら植物に生まれ変わるかもしれないって話だろ?」
「そうそう! しかも魔物になる場合もあるらしいし、聖書だとミドリムシからやり直す場合も……」
「この世界にミドリムシなんていたのか」
池や水溜まりに居るような微生物だ。
このファンタジーな世界にもいるのは妙な違和感があるのだが、実際この世界に馬や狼、猫や鼠など前世の世界にいた生物もそのままの姿で存在している。
たまに思うのだが、この世界の生い立ちがどんな物なのか知りたい時が出てくる。
そして、笑顔でソマリが続ける。
「それでは第二問」
「二問目もあるのかよ」
「あるよ! それではまず
「ああ……」
「でも地獄は存在しています」
そう聞くとおかしい。
天国に行けなければ普通に考えると魂は地獄に落ちていくというのが、俺の価値観にあった。
だが、輪廻転生して現世を巡り続けているなら地獄というもの自体は必要ないはず。
「それではその地獄という所は、いったい何処のことでしょうか?」
ソマリの問題に今度は少しだけ考え適当な答えを提示する。
「そうだな……魔神は別の世界から来たって話だから魔神の住む世界か? 子供達にも『悪いことをしたら魔神の世界に連れて行かれるぞ!』って脅せばしつけにはうってつけな気がするしな」
「なにそれ、可愛い。でも答えは違うんだけどね」
すると、ソマリは座ったまま下を指さす。俺はその仕草に答える。
「ん? 地下か?」
「違うここだよ」
いつもと同じ口調と声色で、
「
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