第139話 言い争いよ

「貴方、魔物ですよね? ワタクシ達より身体能力が高いのにどうして中に入った魔神に抗えなかったのかしら?」

「……ごめんなさい」

「おい、ルド! コハルちゃんに関してはもう状況は聞いただろ! 何で今更……」


 コハルを攻めるルドをロイスは止める。

 だが、彼女は止まらない。


「改めて、この方々には覚悟が足りないと思いますわ。ワタクシ達はあくまで勇者であるロイスを支援する為に結成されたパーティー。自分のことは自分でやってもらわないと困りますわ」

「い、いや、僕はそこまでのことは皆に望んでない! 仲間同士助け合って困難を乗り越えていくのが――」

「そんなことありませんわ! ロイス! この方はすで一ヶ月の大怪我を負う失態をして自業自得ですわよ! もう、お守りは無理ですわ! パーティーの離脱を――」


 何やらあちらで口論が始まった。

 それを見て俺の気持ちも冷め上がり、冷静になってきた。

 項垂れるコハルの肩を叩き、後ろへ行かせた。俺は痛む節々を押さえながらルド達の前に出た。


「何ですの? 貴方も頭を下げる気になったのかしら?」


 明らかに馬鹿にした目をこちらに向けるルド。気にせず俺は彼女を含めたロイス達に向けて訪ねる。


「話を戻させてもらうが、ロイスやルド達は、吸血鬼達と対峙した当時の状況に置いて、ルドの言っていた『包囲網を抜けるのが正解』と言っていたな? 魔神は包囲網の中央に居た。その状況も皆に伝えているんだよな? ルド?」

「何を言っていますの? 当然じゃない」

「なら、包囲網を抜けるメリットってなんだ?」

「はぁ? そんなこともわかりませんの? 八方からの攻撃されれば、いくらワタクシでも貴方たちを庇いきれませんわ」

「奴らは室内の暗がりから沸いて出続けていた。あの時の包囲網から抜け出しても、相手の戦力は未知数だ。あの空間に居る限り状況は変わらなかった」


 そこまで話すとルドは顔を歪める。


「何かと思えば仮定の話? 何を今更? そんなもの意味は無いわ」

「お前と……いや幼稚なお前達の考えが間違っているって教えてやるんだよ」

「はぁ!?」


 俺の言葉に彼女は怒りの声を上げる。


「貴方……今なんておっしゃったかわかってますの?」

「まとめると、あの空間に居る限り状況は変わらなかった。包囲網からの離脱は無意味。やはり、ロイスが吸血鬼の足止めをしている隙に魔神を倒すしか勝機がなかったんだ」

「何様なの貴方!?」


 話にならないルドを差し置いてロイスが言い返す。


「なら、僕らが入れられた出入り口まで逃げれば良かったのでは? そうすればせめて囲まれずに済まし、通路も狭くなって敵が視認しやすくなる」

「逆に狭い道は、俺達も敵の攻撃を避けきれない可能性があった。特にあの糸を操る魔神の攻撃をな」


 奴の白い糸は、本体がこちらを視認できない環境でも正確に狙いを定めてくる精度があった。

 そして射程も恐ろしく長い。

 実際、城の入り口から奇襲され俺達の陣形が崩壊したのだから。


「それを踏まえて、魔神から距離を取るのは得策ではなかった。魔法の撃ち合いになっていたが形成速度は俺に軍配が上がっていた。あの状況を維持できていれば数十秒後に魔神を完全に追い詰めれることが出来た」

「何を勘違いしていますの? その判断を下す前にコハルが洗脳されたんじゃない。結局どんなことをしたって防ぎきれない、コハルの失態よ!」


 コハルに言葉を浴びせる。

 ビクッと肩を揺らす彼女を庇うように俺は退かない。


「ああ、結局コハルは魔神に操られていてた。恐らくどんな状況でもそうなっていたかもしれないな」


 俺はルドを睨み付ける。


「だが、その後お前等はどうした? 状況が変わったのにお前は、俺達を置いて逃げ出したよな?」

「……はぁ? 逃げ出していませんわ! 立て直すために後ろに下がっただけですわ!」

「後衛である俺達を置いて、盾職のお前はよくそそくさと抜け出して行けるよな? まるで、俺達を見捨ててあわよくば事故死させようと思ったんじゃないのか?」

「……!?」


 ルドとロイスは言葉に詰まる。

 シャルはそっぽを向きソマリは笑顔を取り繕っているが俺達から一歩引いている。


「ルド……イット君が言っているのは本当なのか?」

「……そんな訳ありませんわ! そんなことワタクシがする訳がありません! ロイスは、ワタクシのこと信じられませんの!」


 必死に取り繕うルド。

 そして、彼女は俺を睨む。


「よくも自分の無能な失態をワタクシになすりつけてくれますわね! 器の小さい男! 第一そんな状況じゃありませんでしたし証拠はありますの?」


 焦りを滲ませるその姿こそ証拠になり得ると思うが、確固たるものではない。


「証拠はないが、ソマリやコハル、それにそこでそっぽを向いているシャルが聞いているだろ。皆から聞いてみればお前がどれだけ冷徹なことを言ったかわかるだろう。まあ、全員が嘘を吐かなければだけどな」


 そして、俺はルドを程々にロイスを見る。


「ロイス。今回はお前にも問題がある」

「え?」


 まさか自分に言われるとは思っていなかったという表情を見せるロイス。


「何故吸血鬼を一人で請け負った?」

「な、なんだい、いきなり?」

「途中まで連携が取れていたから、アイツを追い詰められた。魔神が加勢したとしても、主力であるお前が俺達から分離したからこういうことになったんじゃないのか?」


 俺の言葉に、ロイスは絶句する。

 彼にこんなことを言いたくなかったが、もう俺の気持ちが止められない。


「ロイス、お前はワンマンプレイで吸血鬼を引きつけていたのだから凄いのは認める。だが勝手な判断でパーティーが崩壊しかかったんだ」

「い、いや、僕は皆を守ろうとして……」

「守ろうとしたなら、離れることはなかっただろ?」

「その……」


 ロイスは口ごもる。

 俺は、更に問う。


「それに守ろうとしたって言ったが、あの時ロイスは俺達に魔神を任せると言っていなかったか?」

「えっと……」

「とにかく、あの時分断するのは悪手だ。もう一度皆で連携を取っていれば、被害はもっと最小限で済んだと俺は思っている」


 俺は、ロイスとルドついでにシャルへ向けて問う。


「お前達、俺のことを馬鹿にするのは一向に構わない。だが、お前等の無責任な行動でコハルの命がなくなるかもしれなかったこと……そして、それを見捨てようとした行為は絶対に許さない」


 皆が黙っている中、俺は握りこぶしを作ってしまう。


「あの時、もしコハルから離れたらきっと殺されていた。アイツに人質を取るという考えは全くなかっただろう。離れた瞬間に首をへし折られ確実にこちらの戦力を削ぐ動きをしてくるはずだ。俺が情報拡張しなければ……全滅の未来が見えたんだ」


 俺は皆を一瞥し言葉を投げつける。


「そんなことになったら、お前達の……俺達の誰が、責任を持てるんだ?」


 皆、言葉に詰まる。

 ルド辺りが噛みついてくるかと思ったが、俺が反撃したことやロイスを攻撃したことにどうようしてたじろいだのかもしれない。押し黙る皆に、俺は疲れとまだ身体の痛みもあるから出て行ってくれと伝え解散させた。

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