第138話 追い打ちよ
疲労やまだ身体が修復していないのがすぐにわかり、コハルが食事を持ってきてくれる。俺はその間、部屋で簡単なストレッチをしようとするが身体が痛くて上手く出来ない。すると、お盆を抱えたコハル、ソマリが訪れた。室内で立っていた俺と彼女らは目が合いいたわりの言葉より彼女らは俺の異変に気付く。
「何かイット君、背が高くなった?」
「え、わっ! どうしたのイット!?」
少し前まではコハルの視線の方が高かったのだが、向かい合うと明らかに顔の位置が変わっている。
ソマリに対しては更に大差が付いた身長差となった。
「……さあな、俺も成長期だからか」
確実に
「そ、そうなのかな? そうだイット。朝食をもらってきたよ! 胃が荒れるかもしれないからスープをって食堂の人が作ってくれたんだ!」
コハルが机に持ってきたお盆を置き、俺はありがたく頂くことにする。
スープを啜りながら、ソマリから容体を聞かされる。
俺が二日間寝込んでおり、状態としては全身に骨折箇所複数、内出血多数、器官系も複数損傷……イダンセまで運ばれた期間も踏まえて三日間意識を失い、俺の現世なら死んでいてもおかしくない状況だった。
これもソマリの奇跡のお陰だ。
そんなソマリから伝えられた。
「一命は取り留めたし、ちゃんと歩けるようになってるのは正直凄いよ。けど、しばらくは冒険には出れないかな」
「え……そ、それはどれくらいなんだ?」
「うーん……一ヶ月ぐらいは休んだ方が良いと思う」
「休むって……これから魔王を倒しに――」
「だから、無理したら本当にダメだってば。相当身体に負担がかかっているみたいだし……それに……」
ソマリは続けて、
「これから、めんどくさいかもだから気をつけて」
「めんどくさい?」
聞き返すと、彼女の後ろの扉からまたも来訪者達が訪れる。ロイス、ルド、シャルの三人が入ってきた。
三人とも険しい表情をしながら、背の高くなった俺を見る。
ふいにロイスが俺の手を握る。
すると俺の腕から魔法元素が浮かぶ。
「
「お、おい!?」
突然の事に驚くが、すぐに俺の情報が目の前に開示される。
腕だからたいした内容は書かれていないはずだがそれを見たロイスは目を細めた。
「イット君……年齢が上がってるよね?」
「……」
「これも、情報拡張の効果なんだね?」
一瞬で見破られてしまった。
そして、俺の腕を放したロイスは大きな声を上げる。
「どうして使ったんだ!! あれだけ使っちゃダメだって言ったじゃないか!!」
数日前の約束を破ったことに対して猛烈に怒られる。
ロイスには申し訳ないなという気持ちで彼の言葉を聞いていると理由を問われる。
「どうして情報拡張を使ったんだ!」
俺はあの時の状況を思い出しながら話す。
「……あの時、コハルが相手に操られていた。原因がわからないまま、そこのルドとシャルが戦線離脱。残ったのは俺と近接戦が出来ないソマリ。前衛のかなめであるコハルが戦力としてそがれてしまった以上使わなければならなかった」
俺はロイスの後ろに居るルドとシャルを睨み付ける。
すると、彼女等はフンと鼻で笑う。そしてルドが話し始める。
「それ以前の問題で、あの時ワタクシ達は敵に囲まれていましたのよ? 包囲網から抜け出し体勢を立て直すのが先決でしたわ。そんなこともあの場で判断できないなんて冷静さが足りていなかったとしか言えませんわね」
「いや! だけどあの時――」
俺が反論しようとする。
しかし、それに彼女は被せてくる。
「貴方は思い出せますの? あの時、ワタクシは包囲網を抜け出す提案をした後に、貴方が魔神を倒す算段を話していた。ワタクシの指示に従ってあの場から離れていれば、コハルさんも魔神に操られることはなかったのではなくって?」
つまりは俺の判断ミス。
彼女はそう言いたいのだろう。
俺が寝ている間にもロイスにいろいろ言っていたのかもしれないな。
起きてからさっそくこんな話し合いをしないのかと頭が痛くなる。
俺は言い返す。
「あの状況から抜け出すのも正しい判断だ。だが、間違いなくチャンスでもあった。ロイスの足止めで魔神は孤立。囲んできた女達の動きは単調だった。ルドとコハルの二人が居れば捌けたはずだ」
「フン! 結局コハルが操られこの有様ではなくって?」
「お前……」
お前が途中で俺達を見限って、先に離脱したからだろう。
俺は感情にまかせて怒声を上げようとしてしまったが噛み殺した。
ここで声を上げても不毛だと思った。
感情が高ぶったって相手に伝わらなければ意味が無いし、今はあの戦いを振り返り情報拡張を使った理由を説明しなくては――
「……やっぱり、今回はイット君が間違っているよ」
俺とルドの間にロイスの横やりが入る。
「相手の力がわからない以上、包囲されたら抜け出し体勢を立て直すのが基本だ。相手の懐の中で戦うなんて無茶に決まっている」
「そうですわ! まったく、これだから学の無い平民上がりは……考える頭も無いのに偉そうに指示しないくれませんこと?」
ロイスの意見にルドは乗っかる。
そして、今まで黙っていたシャルも口を開き始める。
「イット様。貴方の間違った判断で、コハル様、そしてソマリ様も危険に晒したということです」
「え!? ウチも?」
いきなり降られソマリは困惑する。
「ええ、ルドラー様の離脱指示にソマリ様も反応しましたが、お優しいソマリ様は指示に従わないイット様達の身を案じてその場で硬直し置いて行かれてしまいました」
「えーっと……確かにそうだけど、あの時ルドちゃんとイット君達は置いてくよう言ってなかった? ウチはそれに引いてたんだけどなぁ……」
「置いていく?」
ソマリの言葉にロイスは反応する。
彼女の言っている状況を思い出すが、確かにコハルは俺に何とかさせよとして先に抜けていったのは間違いない。
自分に都合の悪いことは伝えていないことが想像できる。ロイスの言葉から被せるようにルドが言う。
「何言っていますのソマリ。あの時はワタクシ達の身の危険も迫っていた状況。一刻も早く逃げなければならなかったのですわ!」
「た、確かにそうだった気がするけどさ……ねぇ」
ソマリは顔を引きつらせながら一歩引く。何というかルドの必死さみたいな物が伝わってきたのだろう。
明らかに取り繕うような言い方だが……
「皆……ごめんなさい!」
険悪な空気の中、それを裂くようにコハルが頭を下げた。
俺は驚きコハルに問う。
「何でコハルが謝るんだ!?」
「元はと言えば、私がヘマして魔神に好き勝手させなければこんなことにはならなかったから……」
「それは違うだろ。コハルは俺を庇った。あんな変則攻撃そもそも防ぎようがない」
「ううん、たぶんあれは、冷静にいればいなせたと思うんだ」
コハルは俯く。
「イットが襲われそうだった時、私力んじゃって、踏み込みに力が入って自分が思っていた以上に前へ出過ぎちゃったんだ。それに手元が狂ったのもあるし……」
彼女のコンディションもメンタル面として良くなかったのはわかっていた。
その結果があの土壇場で出てしまったと言われればそうなのかもしれない。コハルは涙ぐみながら何度も頭を下げる。
「皆を危険に晒したのも、イットに危険な思いをさせたのも……全部、私が万全な状況じゃなかったから……本当にごめんなさい!」
涙と鼻水を垂らすコハル。
確かにコハルが操られ俺が情報拡張した切っ掛けかもしれない。
だがしかし、それは決して彼女のせいでは無いことは間違いない。
「そうね。やはり、元はと言えばコハルのせいですわね」
ルドがコハルの前に出る。
腕を組み頭を下げるコハルを見下ろす。
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