第135話 再度天国よ

 どこかで見た白い空間。

 また俺は、席に座らされており天使と向かい合っていた。


「まったくもう! 危うく死にかけてましたよ! イット! ほら起きて下さい!」


 天使サナエルが俺に向かって話しかけてくるのが徐々に認識出来るようになった。


「……サナエル!? ここは?」

「ようやく気づきましたか? ここはイデア……久しぶりの天国ですよ」


 いつぞやのロイスと居た謎空間だ。


「何でここに? もしかして……俺は死んだのか?」

「死にかけました。吸血鬼を倒した後、イットの身体は本当にボロボロで、周りの人達の処置で何とか蘇生出来たんですよ。意識を取り戻したら、ちゃんとお礼を言わないと」


 そうサナエルに言われ俺は頷く。

 更に彼女は続ける。


「あの世界へ送り込んだ身として言うのもおかしいのですが、今回の様に禁術を使うことは推奨しませんよ。元々魔法は魔神達が持ち込んだ力、理を歪める強大過ぎる力なのです。理にそわないと身体が持ちませんよ」

「その力を使わなければ魔神に勝てないし、その適性を厳選して呼んだのはお前等じゃないのか?」

「それは……そうですけど……」


 シュンと縮こまるサナエル。

 あまり噛みついてもしょうがない。

 確かにあの世界の決まり事を破ったのは俺だ。大元をたどった所で、それを実行したのが俺だ。

 今回の件は全て俺に責任がある。


「……とにかく、わかった。今後禁術は乱発しない」

「出来れば今後禁止にしてほしいのですが……」

「万が一の時だけでも使わせてもらわなけば、今回みたいな敵にかなわないかもしれない。だから禁止にはしないでくれ」

「……」


 今回のように誰かの命がかかっている。

 そんな状況でのみ使用すると誓った。

 まあ、こんなものの数分使用しただけで天国に顔を突っ込んでしまう魔法なんて使い物にならないのと一緒だ。

 それこそ周りに仲間が居てフォローしてくれたからだ。俺の言葉に納得してくれた。

 サナエルは頷く。


「……わかったのです! イットのことを信用するのですよ!」

「……ありがとうサナエル」

「それはそうと、残り時間が短いからささっと用件を言うのですよ」


 サナエルは改まって話し始める。


「まず、本当はイットに神官としての教えを受けてほしかったのです」

「何か、そんなことをあの戦いの後言っていたな」


 サナエルは頷く。


「すでに知っていると思うのですが、あの世界の神官という立ち位置は我々天使達と交信を行う人々のことなのです。我々天使達とのであればあるほど、天使の力を貸すことが出来るのです」


 その仕組みはソマリから聞いていた内容と大体同じだが、より具体的で確信的だった。何せ大元がそう言っているのだから。

 サナエルが続ける。


「天使と関わりの深い勇者……イットとロイスですが、すでに神官としての力を宿しているのです。だから、今度からイットもサナエルに直接話をすることができるのです。教会か聖印を通してですが……」

「……なあ」


 彼女の話を聞いて俺は疑問に思う。


「元から神官の適正があったって話は、最初に話していたか? 今まで知らなかったんだが?」


 知らなかったなんて通じない。

 なんて言葉が頭に過ったが、今までの経緯でこのことに気付くの正直無理だ。

 生まれた時から親に捨てられ世間を知らずに牢屋暮らし。

 脱獄してからしばらくして経営支援でめまぐるしい日々。

 勇者パーティーになってから薄々気付き始めた程度で、今ようやく確信が取れた。

 気付くタイミングとしては、教会でお世話になった時か?

 いや、そもそも彼所はサナエル信仰ではなくガブリエル信仰だった。そこにあった本も読み漁ったつもりだが、勇者と天使に関しての繋がりの本はありそうでなかった。なら王都ネバの有料図書館を探せばあったのか?

 教会にもなかったのに有りそうとは思えないが、ロイスがすでに知っていたのだからもしかしたらあったのかもしれない。

 いや、でもの冒険者ギルドで行った職業適性で付加魔法使いエンチャンターと示されたのだから、その時点で神官の道は無いものだと思わざるおえないと思う。

 とにかくだ。

 最初からそれを教えてもらえていたら、牢屋に居たあの幼い頃、あの時にもっと上手く出来ていたのではないか?

 もっと違うやり方が出来たんじゃないのか?

 俺の心の狭さが出てきているのか、後付けのように出てきた自身の設定に憤りを覚えてしかない。

 俺の思いが口から出かかっていると、先にサナエルが頭を下げ謝ってくれた。


「それについては……ごめんなさい。あの時、二人が勇者にならない選択をしそうで、少し焦って送り込んでしまったのです」


 サナエルは語る。

 あの時は死んだ俺達の意思を尊重させているように見せていたが、彼女の内心としては勇者になってほしいという意志が強かったらしい。

 その焦りで、後で教えられると言ったが、神官としての能力を行使しなければならないことを伝え忘れる痛恨のミスを犯してあの世界へ送り込んでしまったのだと白状した。信仰対象の神にも等しい存在の天使が、まさかのヒューマンエラーを犯したのだという。

 ……

 いろいろと言いたいことや突っ込みたいことがあるし、その説明で納得は出来ない。

 正直、このサナエルに不信感を抱いてはいるが、それでももうここまで来たら納得するしかないのだ。

 過ぎたこと。

 もう一度、神官の能力を知った上で人生をやり直させてほしいとは言いたくないし思いたくも無い。

 その能力が無かったから今の自分があるのだと思える。

 自分の力で、何とか道を切り開いてきた。

 失敗を重ねてきたが、何だかんだ前に進めた自分。

 ……

 俺は、今のイットいう人生が嫌いじゃないのだと思う。


「……ああ、わかったよ。言い忘れたってことなら誰もがあることだ」

「……ありがとうイット! 本当にごめんなさいなのです!」


 サナエルは涙目になりながらも天使の微笑みを見せた。


「とりあえず、いきなり神官になれって言うのも酷な話だと思うので、緊急処置としてコハルさんに天使の羽の聖印を渡しておいたのです」

「天使の羽?」


 謎の物品の名を聞き返すと、彼女は答えてくれる。


「普通の聖印としての役割もあり、短時間ですが天使である私サナエルと会話が出来る代物なのです。信仰心があればあるほど長くお話が出来る特別な奇跡のアイテムなのですよ!」


 アイテムねぇ……

 ゲームっぽく言われると、何だか安っぽく聞こえてしまうがとりあえずその件は認識した。そして、サナエルは更に続けた。


「それともう一つ、イットはをもらってないのですよ」

「……はぁ?」


 意味がわからない単語が出てきて思わず声を出してしまった。

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