第108話 提案よ
話によると、俺が寝ている間にコハルを抜いたパーティーで即日受けられたAランクの任務を肩慣らしにロイス達はこなしてきたそうだ。
「実はさっき帰ってきたばっかりなんだけど、ちょっと手間取っただけでたいしたことはなかったよ」
と、笑顔でロイスは答えた。
手応えとしても問題なさそうということで、最高であるSランク任務であっても今度は俺とコハルを含めた6人に望めば簡単だろうと断言する。
武具屋で働いていた経験からしてAランク任務を簡単だったなんて言えるのはロイスあってこそだとは思う。
着いていったであろう3人女集も疲労の苛立ちは多少あれど見たところ無傷。それどころか叫き散らす程の元気が残っているということである。
そのランク帯の任務ではあり得ない光景だが、彼が見栄で嘘を吐く方があり得ないのを考えると、本当にSランク任務もいけそうな気がしてくる不思議だ。
まあ、ロイス程の規格外が出来ない任務を一般冒険者が受けることが出来ないことになるのだけれど。
「どうだろう? 今日はさすがに休息を取って明日Sランク任務を皆で受けたいんだ」
俺も汚名返上で話に乗っかっても良いかもしれない。
「わかった、やらせてくれ」
「ありがとうイット君! コハルちゃんもそれで良いかな?」
「う……うん」
言葉が詰まるコハルだが着いていく意思を見せた。
という訳で皆は朝食を済ませ解散する。
ロイスとルドは2人で話し合いながらSランク任務の受注をする為、冒険者ギルドへ向かう。俺、コハル、シャル、ソマリは各々で休暇を取ることになり騒いだことを店に謝りつつ解散となった。
俺は一人宿舎に戻りベッドに横たわる。
テレビもゲーム機も漫画も無い。
改めて娯楽が少ない世界だと溜め息を漏らしつつ、
ここに来ても、人とのコミュニケーションはあまり好きになれない。
こうして、立体パズルに触れて一人の時間を過ごす方が俺には向いている。
「……疲れた」
朝からいろいろめんどくさかった。
質問攻めにあい、土下座までさせられ、精神的な疲労が大きい。
こうも上手くいかないのは結局前世の世界と何も変わらない。もっと魔物を倒してレベルアップして、仲間と楽しく過ごせるシンプルな世界が良かった。
しかし、人がいる以上はこうして仲違いも起こるし辛いことも多い。ふと、サナエルとロイスに会ったあの白い空間の時を思い出す。俺がまだ社畜のサラリーマンだった時の俺でロイスは世界最速のキューバーだった。
「俺は……あの時そのまま死んでた方が良かったのかもな」
結局、死なない道を選んだとしても結果はこうして悪い方向に傾いてしまう。
「そうすれば、俺に関わった人達に迷惑かけずに済んだ……」
思わず鼻で笑ってしまう。
ここでも、俺は必要とされていない。
自分の価値を見出すことは出来なかったと言うわけだ。
大きな溜め息を吐くと、徐にガチャリとドアノブを回す音がする。しかし、部屋は施錠してあり中には入れない。
続けて軽いノックを外のやつがしてきた。
「誰だ」
「……」
聞いても返事がなかった。
一応ベッドから起き上がり向かい入れる体制を整えていると遅れて返事がくる。
「……シャルでございます」
今度は俺が硬直する。
ロイスのメイドであるシャルが何故ココに? 会いたくない相手が訪れて来たので中に入れたくない。
「何のようだ」
「お話があって伺いました」
「その場で話してくれ」
「いえ、内密なお話の為中でお願いします」
「後で良いだろ。皆がいるところで」
「いえ、今しかないのです」
またも大きな溜め息を漏らしてしまう。
会いたくないがしかたない。
一応聞き耳を立てるが扉の向こう側に一人しか気配がないので、本当に内密な話なのだろうと扉を開けた。
「……」
「……」
お互いに向かい合うとやはり嫌悪感で言葉が出なくなる。整った顔立ちと身なりの小柄で可愛らしいメイドだが、今はそんな顔も嘔吐が出るほど嫌いだ。
「中へ入れてください」
キッと睨み付けてくる彼女に、やはり俺に敵意を未だ持ち合わせてここに来たのだと察する。
俺は冗談ではなくドアを閉めようとすると反対のドアノブを持たれ制止させられる。
「中へ入れてください」
「嫌だと言ったら」
「何故ですか? 何かやましいことでも?」
「そんなもの無いが、君が俺の部屋に来たこと自体が嫌なんだが」
「……」
そう言うと、シャルは俺の肩を押し部屋の中へ押し込む。
「お、おいちょっと!」
そのまま俺の部屋へ侵入するシャルはドアの鍵を閉めた。
「いったい何のようなんだ!」
「本日はご相談があって参りました」
「俺はお前の顔も見たくないんだが」
「シャルも同じ気持ちです。貴方様がいると虫唾が走ります」
コイツは嫌みを言いに来たのか?
もはや一緒にいることが嫌悪で吐き気を催してくるのだが、我慢して彼女の話を聞く。
「単刀直入に申しますが、このパーティーから抜けてもらえませんか?」
「……は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます