第107話 禁止よ

「……俺の身体の情報ステータスは、何を比べてもロイスの劣化だ」

「え……」

「何を取っても……何を頑張っても、俺はロイスの劣化になる。それに魔王を倒す為に集まる優秀な仲間達の中で俺の必要性は何なのかをずっと考えていた。そう……ロイスからパーティーに誘われた、あの時からな」


 黙って皆が俺に注目する。

 俺も続ける。


「完璧なロイスに、それを補う仲間……正直俺の付加魔法使いエンチャンターとしての役割は必要ないんじゃないかって思っていた。まあ、案の定そうなったけどな」

「そ、そんな……イット君、君はそんなことない!」

「いいやロイス。これは隠してもしょうがない事実だ。たぶん皆もそう思ってる」


 そんなことないよ!

 っと、コハル一人が叫ぶが、他は誰も声を出さなかった。

 思わず笑いそうになる。

 実際、悪条件では無い限り道中現れた障害はごり押しで何とかなっていた。ほとんど俺の出る幕は無いのは事実である。


「残りの俺が出来ることは、万が一パーティーが壊滅の危機に瀕した時のカバー要員だ」

「それって……」

「ああ、俺はどんな状況でもフリーになりやすい。だからこそ危機的状況を察知しやすく、敵の奇襲に対応しやすい」


 俺は自分の手をわざとらしく見つめる。


「今まで付加魔法使いエンチャンターとして、必要の無い近接戦闘の特訓をコハルとしてたのもそれを見越しての理由だった。俺とコハルは魔神に遭遇したことがある。生半可な魔法では太刀打ちできないのを知っている。だから、俺は情報拡張の魔法を研究し続けた。自分の身体が壊れてでも皆を守り、役に立てるようにな」


 もっともらしくかつ、同情を誘うような決意を見せた。半分以上は本心だが、本当の目的ではないんだけどな。

 ……俺はふと、コハルを見た。

 驚きの表情で俺を見つめる彼女。

 それを見て、脳裏に刻まれた映像が映る。




・<寿命:――――




 カチッ――


 とっさに記憶を封じ込めた。

 ここで皆に心から謝罪する姿勢を見せた方が良いだろう。

 許されるとは思っていないが、情報拡張の研究はもっと続けなければいけない。

 豚箱に入れられコハルと離れることになるのはだけは避けたい。

 俺が呆れられても、罵倒されても構わない。それでも、憲兵に突き出されるよりかはマシだ。

 コハルの為にも……俺は……

 俺は立ち上がり頭を下げた。


「……本当に……申し訳なかった」

「……え?」


 俺は頭を下げ続ける。


「ようやく、自分の愚かで浅はかだった理解できたよ。皆どうか許してくれ。頼む」


 皆が、いや食堂に居る人達全員が静まり返る中、一人の女が声を上げた。


「土下座」


 ルドだった。

 冷淡でかつ高圧的に言い放つ。

 そして、少しの間を置いたと思ったら机をバンッと叩いた。


「土下座をしなさい!!」


 呆気に取られているのか誰も声を出さない。俺は奥歯を噛みしめながら膝を突く、ふと誰かが立ち上がり俺の前に立つ。

 俺が顔を上げようとすると……


「うっ!?」


 頭を上から手で押さえつけられる。

 もう一度額が地面に当たった。


「そうですわ、アナタは法律を犯してまで格好付けようとした浅はかな道化。アナタはただの犯罪者ですわ」


 声はルドだった。いつもより凍り付くように冷淡な声色が続く。


「所詮アナタみたいな凡人以下のクズはそこまでしないとまともにワタクシ達に着いていけないの。ようやくわかったかしら?」


 片耳から憎しみの籠もる声で囁かれる。


「アナタがどれだけ頑張っても、ロイス様は……いえ」


 俺にしか聞こえないであろう声で……


「誰も、アナタを認める人はいないのよ」


 ……

 もう言われ馴れた言葉。

 自分にも言い聞かせている言葉。

 それでも、今は悔しかった。

 何故だ。

 この女に言われる事で、こんなにも心が掻きむしられることに、俺は自分の理性を抑えるので精一杯だった。

 今は堪えろ。

 唇を巻き込まんと言うほど奥歯を噛みしめる。その刹那――


「ルドちゃん!」

「――ッ!?」


 突然ソマリの声と共にピシャッと、はたく音が聞こえた。それと同時にルドの手も俺の頭から退かされた。


「イット君の懺悔はウチが聞く。ルドちゃんは退いて」

「なんなのソマリ? その男に味方して何様ですの?」

「ウチは皆の味方だよ。ルドちゃんも、そしてイット君もね」


 そう言い切ると、俺の背中を優しくさする。すると、ロイスが机をまわってきたらしく横から声を掛けてきた。


「顔を上げてくれイット君! 反省したならそれでいい!」


 言われたとおり顔を上げると、ロイスは複雑な表情を浮かべていた。


「その代わり……情報拡張魔法は禁止だ」

「禁止……」

「そう、元々使用事態が世界のほとんどで禁止になっているものだけど、身内の中だとしても使用は禁止だ。これも人目を避ける理由と何よりイット君、君の身体の為にもだ」

「……」

「それを約束してくれないか、イット君。これは絶対だ!」


 しばらく思考を巡らせ、俺は頷く。


「……わかった」


 そう言うと、ロイスはホッとしたように頷いた。


「ありがとうイット君。たとえ道を踏み外したとしても、反省し報い改めれば、きっとサナエル様も許してくれるよ。それに、僕も君が考えていた万が一の状況にはしない。全力でこのパーティーを守るよ!」


 笑顔見せる彼は、店の中の人達に謝りつつしばらくしてからまた席について話し始めた。俺等も席に戻される。


「さあ、この事は皆忘れよう。今後の話なんだけど、このイダンセにもう数日滞在する予定なんだけど、イット君も居るから改めてちゃんと話すよ」


 どうやら、俺が居ない時に何かを話していたそうでそれを発表する。


「この街は実力主義で冒険者ランクが高い程尊敬され、低い程馬鹿にされる序列化があるみたいなんだ。そこで、僕達も冒険者ランクを上げようと思う」


 単純な話だが、どうやら冒険ギルドで依頼を受けるということらしい。

 女性陣達は事前に聞いていたのか、重い空気が流れているのか反応は薄い。めげずにロイスが気合いを込めて言い放つ。


「もちろん、受ける任務はSランクを!」

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