第105話 情報拡張よ
勝手に俺の座っていた席を中心に机を集め皆で食事を始めた。
いろいろ体調を聞かれた後に、ロイスから酒場の後の話を聞かされる。
「あの後、例の男が賠償だぁーって騒ぎ初めて大騒ぎだしてさ。確かに騒いで汚したしで憲兵を呼ぶことになって大変だったんだ」
「……」
「ただ、元々アイツは素行が悪いことで有名だったみたい。周りの証言もあって僕達にお咎めは無し。まあ、やり過ぎですって注意は受けたけどね。彼の粉々になった手の怪我も治してあげたし」
「……そうか」
あれだけ騒ぎを起こして酒場の経営者の人に申し訳ない気持ちになった。
ロイスの次は、ソマリが話す。
「因みに手を治したのはウチね。一応見た目は元に戻したけど、神経までは繋ぎ止め切れてないかもしれないね。後は自然治癒に任せてリハビリした方が良いよって伝えた。問題はイット君」
「俺?」
「うんそう、君の腕も完治したけど急にその場で寝始めたのはビックリしたよ。おそらく疲労が原因のように思えるけど……本当に今も大丈夫なの?」
心配そうに尋ねるソマリ。
「ああ……少しダルいけど問題ない」
「そう、それなら良いんだけど、やっぱり出血しすぎたのかな?」
おそらく疲労と出血多量だ。
腹が減っていること以外問題ない。俺は無言で持ってきてもらった朝食を食べていると今度は聞きたくない声が入ってくる。
「問題ないじゃ、ありませんわ!」
ルドが甲高い声を投げかけてくる。
「せっかくコハルとロイス様が穏便に片付けてくれるはずだったのに、アナタが余計な真似をするから余計な出費が出ましたのよ!」
「……」
「修繕費よ、修繕費! アナタが血で汚した床の請求をされましたわ! アナタがしゃしゃり出たおかげで!」
「……」
「ちょっと、アナタ聞いていますの!」
するとロイスが彼女を落ち着かせるように話す。
「まあまあルドも落ち着いて、言うほどの費用は掛からなかったから大丈夫だったじゃないか」
「いいえ、旅の経費をこんな無駄なことで割いたのよ! アナタどうしてくれますの!」
「……払えば良いのか?」
「はぁ!?」
俺の言葉にルドは怒りを表す。
「いくらだったんだ? 俺の持ち金で払えるなら払うよ。誰に払えばいいんだ?」
「何なのアナタの態度。信じられませんわ」
「俺がやらかして誰かが立て替えてくれたんだから当然だろ。もちろん謝る。皆に迷惑かけたしな」
「そうよ! まずこの場にいる皆に謝罪しなさい! そんな礼儀も知らないのかしら! 本当に常識を疑うわ! こんな人がパーティーにいるなんて恥ずかしくて耐えられませんわ!」
思わず溜め息が漏れそうになる。
ピーチクとうるさい女を見ないように皆に向き直り立ち上がる。
「……皆すまない。俺が余計なことをしたばっかりに」
俺は頭を下げた。
正直、心の中はからっぽだった。
俺自身が全く納得していないのだと思う。
ロイスが慌てた様子で、
「頭を上げてくれイット君! そんなことは良いんだ! そこは問題じゃない!」
「何を言っていますのロイス様! ワタクシ達にこの男は損失を与えたのよ! 損失!」
「ルド! そんなものたかがしれているだろ。僕達は金銭面に余裕はある。それよりもイット君に聞きたいことがある」
顔を上げる俺をロイスは真剣な表情で見つめていた。
「イット君……君はあの酒場で自分の
「……」
「もっと言うよ。君は違法行為の禁術……情報拡張をしたんじゃないか?」
俺は思わず視線を逸らした。
分かってはいたが、こうもあっさりばれてしまうとは……
皆は静まり返っていた。
俺が行った事の重大さよりも、そもそも情報拡張という言葉に疑問符が浮かんでいるようだった。
その言葉に反応したのは、またしてもうるさいルドだった。
「あ、ああ、アナタ! あの酒場でまさかそんなのを使っていたの!?」
「……」
「さっきから何を黙ってますの! 貴方が行ったことは……もうどうしてくれますの!」
唾を飛ばしながらルドは俺を罵倒する。
彼女の剣幕を遮って、おろおろとコハルが割って入る。
「ま、待ってよルドちゃん! イットが何をしたの! じょうほう……かくちょう? それって何なの?」
周りが混乱してきた。
俺が行った不逞。
そもそもの理由。
徐々に収拾が着かなくなってきた。
何より、不安そうなコハルを見ていられなかった。
「……わかった。それは俺が話す」
「イット……」
「俺がやったことをな」
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