第87話 ゴブリンの巣よ
俺達は子供達を連れてゴブリンが住み着いた洞穴にたどり着いた。
崖下出来た洞窟、まるで熊でも住んでいそうだ。
「ここにゴブリン達が居るんだね?」
ロイスが訪ねると連れてきた子供達が頷く。それを確認した俺は入り口の壁に手を当て
「
光の線が宙を走ると立体的な地図が作られる。入る前に洞窟の地図を作製しておこうと思う。
「イット君、もしかしてそれは地図かい?」
「ああ、地形を把握しておいた方がいいだろう」
「良い考えだ! さすがイット君だね!」
「……」
褒めてくれるロイスの後ろで、シャルは面白くなさそうにこちらを睨んできたが気にしない。
改めて地図を見ながら解析していくと洞窟は一本道となっており迷うことはないだろう。周囲を警戒しながら声を潜め、俺は指状況を確認する。
「隠れる場所は無さそうだ。出入り口が一つしかないということは、中に入っている間にゴブリン達が戻ってきたら袋の鼠だろうな」
「そうだね……でも時間を掛ける訳にはいけないだろうし、離れた所に様子を窺うの無理そうだね。すぐ潜入するのなら子供を連れて行く訳にもいかないみたいだ」
と言うことでここでも、また分担することにした。シャルが子供達と共に草むらへ隠れ、様子を窺う。そして、俺とロイスが中へ潜入する。
外からゴブリンが入って来た場合に備えて合図を送りたいのだが、その手段が見つからない。1、2匹ならシャルが仕留めることが出来るが数が多く別の魔物が含まれている場合は即座に子供達を連れて逃げてもらうことにした。
中の俺達が危険な状態に陥るが、そうなったら……もう俺達勇者として選ばれた力を信じるしかない。
俺達勇者は単品としての強さはあるかもしれないが、戦えない者を庇いながら戦う話になればどれだけ強くても全員が無傷では済まされない。
ならいっそのこと守る対象が居ない方が集中して戦えるという考えに至った。
シャルは不服そうな返事をしたが、考えには同意してくれたようで「ロイス様、どうかお気を付けて」と言って子供達と共に草陰に隠れた。
それを確認したロイスは頷く。
「よし、行こうイット君!」
「ああ!」
俺達は薄暗い洞窟へと進んだ。
薄暗くジメジメして息苦しさを感じる。
すぐに光量が押さえられ出し入れがしやすい
慎重かつ急いで進んでいく。
少し進んだ所で……
「待ってイット君……あそこで誰かがしゃがみ込んでる」
ロイスが指差す方へ向くと子供の様な存在が壁際に体育座りをしていた。
ゴブリンの可能性もあるので武器を握りしめながら近づく。
ゆっくり明かりで確認する。
すると、それは破れた服を着た幼い女の子がすすり泣いていた。
「おい君! 大丈夫か!」
なるだけ声を抑えて俺達が近づくと、女の子が驚き叫ぼうとした。
「大丈夫! 僕達は君達を助けに来た冒険者だ!」
咄嗟にロイスが落ち着かせ、泣いている女の子から事情を聞き取る。
どうやら男の子達と一緒に来た女の子で間違いないらしく、例の見習いシスターのソマリと一緒にここへ連れ去られたらしい。
この洞窟の奥にゴブリン達が複数おり、二人は囲まれていたが、ソマリはゴブリン達の隙を突いて女の子を逃がしたらしい。
その時に、なんとソマリは自ら服を脱ぎ囮になったそうだ。
「ソマリお姉ちゃんが……ゴブリンから助けてくれて……」
「そうか、もう大丈夫だよ! 僕達がお姉ちゃんを助けに行く。イット君、この子はすぐ外に逃がそう」
状況は一刻を争うみたいだ。
リスクはあるが、入り口はそう遠くはないから、ゴブリンと鉢合わせになる確率は低いはず。
「そうだな。君、この洞窟の先に君の友達と俺の仲間が待っているからそっちに逃げるんだ」
「心配だから僕が送っていくよ」
「ロイスが?」
「そう。だからイット君はちょっと待っててくれないか? すぐに戻るから」
確かにそちらの方が安全だ。
しかし、そうするとシスターが……
「……俺は先行する」
「そんな、それは危ないって! それならイット君が女の子を送ってくれ!」
「大丈夫、無理はしないさ。ロイスの方が足が速いだろ? ゴブリン如きに遅れは取らないさ」
ロイスは難しい顔をするが、考える時間も惜しいことは理解しているみたいだ。
「……わかった。すぐに追いつくよ」
彼は女の子を抱え、急いで来た道を戻っていく。一人になった俺は一つ息を整え奥へと進んでいく。
薄暗い洞窟の中、俺は冷静になっていく。
本当は、前衛のロイスではなく後衛の俺が女の子を外へ送っていくのが最も安全な選択だったと思う。
考えを誤ったのか?
……。
いや、違う。
また記憶がフラッシュバックした。
・どれを取ってもロイスの劣化じゃない?
ルドに言われた言葉が頭の中に響いた。
わかってはいるがその通りだ。
どれをとってもロイスの劣化。
だが、劣化であっても決して何も出来ない訳ではない。
俺は選ばれし勇者だ。
昔の俺とは違う。
今まで誰も救えないまま中途半端な存在だった。
それを自覚し精進してきた。
それを証明したい。
頭の中に巡る思考を振り捨て、奥に進んでいく。すると、奥からいくつもの鳴き声が聞こえてきた。
「……そこか」
近づくに連れキーキーと騒ぐ鳴きが大きくなり、そして……少女のような、苦しそうな唸り声も混ざっていた。
嫌な予感が徐々に迫り、一段と大きくなった洞窟奥までたどり着いた。
ここまでゴブリンが居なかった分更に警戒を強め、俺は身を潜めながら最深部に目をやった。
奥は広く大人が何人も入れそうな空洞だった。人族と思わしきボロボロの荷物が立てかけられている。
土の地面には、裸で汚れた姿の女性が二人程力なく倒れているの分かる。
そして、その女達に覆い被さる小柄だが筋肉質な身体のゴブリン達が覆い被さり荒い息づかいで動いていた。
凄惨な光景だが、それより気になってしまい空洞の中央へと目をやってしまった。
そこには聖堂女が着ているはずの服がビリビリに破かれた半裸の少女。
少女はゴブリンに跨がり腰を振っていた。 更にゴブリン達が少女を囲っており、嬲り楽しんでいるのが分かる。
「もう……ちょっと待っててねゴブリンさん。順番にして上げるからね~」
俺は理解が追いつかなかった。
少女は泣き叫んでいない。
寧ろ少女もゆっくりと堪能し、楽しんでいるように見えた。
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