第86話 ディレイ時間よ

 助けを呼ぶ声に導かれ俺達が向かう。

 草むらを掻き分けた先に男の子三人が逃げ惑う様が目に入った。

 傷だらけな彼等の後ろから、人間よりも長い舌を垂らし武器を掲げた緑色の肌をした3匹のゴブリンが追い掛けていた。

 ゴブリン等は自身と同じ体格の子供達を追い回し一目で殺意を感じ取れた。


「助けて!!」


 一人の少年と目が合うとこちらへ全員が駆けてくる。

 俺は息を整える。


「作戦は練れそうにないな」


 俺は魔法元素キューブを手の中へ産み出し構築を始める。

 こちらへ駆けてくる少年等、そしてその後ろから追い掛けてくるゴブリン達。

 ゴブリンへ攻撃するには、少年達が壁になってしまっている状況ということ……

 直進する魔法は撃てない。

 なら……


「土の魔法で!!」


 土の魔法なら一度地面を伝って魔法を放つ。子供を飛び越えた先に攻撃が出来る。

 魔法元素キューブが完成し始めた所で――


「せいっ!!」

「ぐぎゃ!?」

「ぐぎゃあ!?」


 一目散に駆けだしたロイスは子供達を飛び越え、2匹のゴブリンを切り捨てた。


「早い!?」


 俺達が臨戦態勢に入って3秒程度しか経っていないが残り1匹。

 最後の1匹に狙いを定めた時、


「……」


 無言のシャルが俺の前に出る。

 背中に背負っていたボウガンを構え、迷わず撃ち込む。

 放たれた矢は子供の間を通り抜けゴブリンの眉間を捕らえた。

 叫び声を上がらず最後の一体は吹っ飛び息の根を止めた。


「シャル!? 良くやった!」


 ロイスが親指を立ててシャルを褒める。


「このぐらい、どうということはありません。ただ……」


 彼女は片目で俺に視線を向けながら、


「イット様がぼーっとしていましたので、いてもたってもいられなかったのです」

「い、いや……俺はぼーっとしてないが」

「そうですか? 魔法を放つ気配がなかったのでつい……」


 何を言っているんだ。

 魔法には展開にかける時間が掛かる。

 そう言いかけた時だった。


「ロイス様より遅い……」


 ロイスに届かない小声でシャルは言い放った。コイツ……今ので嫌みを言いたいのだとハッキリわかった。

 突発的に怒りが込み上げてくるがそれを飲み込み、俺は聞かなかったことにした。

 とにかく、俺はゴブリンの亡骸から何かを持っていないか確認し、ロイスとシャルは子供達を落ち着かせて事情を聞いた。


「君達は教会から来たんだね?」


 ロイスがそう聞くと三人の子供達が頷き、各々伝いたい気持ちが先行してか同時に話し始めた。

 話をまとめると、神父が話していた通りゴブリン達の巣の捜索に子供達が向かったそうだ。子供の人数は四人でここにいる三人の他にもう一人女の子がいたそうだがはぐれてしまった。

 実は神父シスター達には秘密にしていたらしいが、子供達で森の中を隠れて探検していたそうで森の立地はある程度把握していたらしい。

 教会から少し離れた所に小さな洞窟があるとのことで子供達は目星を付けて向かい、到着するもゴブリン達に見つかってしまったそうだ。


「その時、丁度良く姉ちゃんが助けに来てくれたんだ!」

「ソマリって誰だい?」

「ちょっと変なだけど優しい姉ちゃん。昔から教会に住んでてシスターをしてるんだ!」


 詳しく聞くと、彼等と同じ孤児で俺等と同い年程のシスターである。

 教会で神父が言っていた若いシスターのことだろう。

 話を進めると、そのソマリというシスターが子供達を庇うもゴブリン達から返り討ちに遭う。

 ソマリと彼等と同伴していた女の子は捕まり、それを救出しようとしたが自分達のことは殺さんばかりの勢いで迫って来たため逃げるしかなかったとのこと。

 亡骸に軽く土をかけ作業を終えた俺は、自分に付いた土を払いながら振り向く。


「それじゃあ、その場所まで案内してくれないか?」

「案内って……子供達にかい?」

「そうだ」

「それは大丈夫かな? ここの子供達だけでも教会に帰してあげた方が……」


 俺の提案に反対するロイス。

 ロイスならすぐに探しに行くと言うと思ったが、少し難しい選択にはなるから迷っているのかもしれない。

 子供達を守りながら向かうのにリスクが伴うし、近くにこの子達を追うゴブリンがまだいる可能性もあるので俺等から離れることにもリスクがある。だが、女の子達が危険な状況なのは確かだ。


「俺も安全を取るならそうしたいが、女の子二人の身が危ない。一刻も早く救いに行く方が――」

「……」


 言い切ろうとした時、ふとシャルが横目に映る。彼女は俺のことを冷めた目で見つめる……いや睨んでいることに気付いた。

 それに気付いていないロイスは悩んだ後に、笑みを浮かべて頷く。


「そうだね、イット言う通りだ。それじゃあ一緒に着いてきてもらおうか!」


 子供達も助けに行きたい様子で闘志が沸いている。そんな中で俺を睨み続けたシャルがようやく目線を反らした。

 ああ……命が掛かっているのに、別のことがめんどくさい……

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