第75話 ルドラー・グ・フランチェスカよ
シャルに連れられ久しぶりに通された謁見の間。
「ロイス様、イット様とコハル様をお連れしました」
「ありがとうシャル」
そこには背の伸びた銀髪のロイスがいた。
シャルはロイスに一例すると部屋の外へと出て行く。
それを見計らってロイスは笑顔を向けた。
「やあイット君、それにコハルちゃんも! 二人とも来てくれてありがとう!」
「おう、久しぶりだなロイス」
「久しぶりロイス! 背が高くなったね!」
確かにコハルよりも少し高い位に背が伸びた。ハハと頬を搔き、ロイスは訪ねてくる。
「来てくれたということは僕のパーティーに参加してくれるってことで良いんだよね?」
「もちろん。それが俺達の使命だからな」
俺達を送り込んだサナエルから授かった使命。それこそまさに魔王を倒すこと。
俺とロイス、二人で協力してさっさと終わらしたい。
静かに意気込んでいるとコハルがロイスに質問する。
「ねぇロイスー、私も誘ってくれて嬉しいんだけど大丈夫?」
「大丈夫って?」
「ほら、私魔物だからさぁ」
「ああ……それなんだけど」
少し言いづらそうな微妙な表情のロイス。
「一応人族に味方する亜人や魔物の勧誘に問題はないっていうルールらしいんだけど、これから式典や貴族の人達と顔を合わせる際は注意した方が良いかもしれない」
「うーん……やっぱりそっか……」
珍しく溜め息を漏らすコハル。
普段そんなこと思わないのだが、そんな彼女をなんだか少し不憫に見えてしまった。
「気にするなよコハル。知識の無い奴らはだいたいそんなもんだっただろ? 魔物だって理由で怖がるし、罵倒する奴もいた」
「うん、それは分かってるけどさ……やっぱり初対面でいきなり怖がられるのは、ちょっとショックというかさ……」
俺の前ではそんなこと気にしていなかったのに、コハルはこんな人目を気にするのか。
まあ、そりゃあ自分が嫌われるのは俺だって嫌なわけだから気持ちは凄くわかる。
ロイスの補足とフォローが入る。
「ごめんショックだよね。大丈夫、そういう目で見てくる人もいるかもってだけだから基本そんなことで差別する人は居ないよ。もし気になるようだったら、昔みたいに耳を隠したりすれば良いだけだし」
元々多種多様の亜人がこの国にはいる。
冒険者業なんて人間も多いが亜人も負けない程多い。
コハルは見た目が人間に近いが、ワーウルフ事態人族に敵対する魔物とされている。人族社会にいること自体が珍しいのだそうだ。
そうなると、確かにワーウルフという存在を詳しく知らない人ならそういう目で見るのかもしれないな。
そんなことを考えていると、バンと後ろの扉が勢いよく開いた。
「来ましたわロイス! さあ、さっさと魔王を倒しに行きますわよ!」
そこには焦げ茶色で縦ロールが掛かった髪の少女が現れる。
俺達が威勢良く現れた彼女を見て呆然としていると、縦ロールのその子は俺とコハルを見て怪訝そうな表情を浮かべる。
「まさかロイス、この幸薄い男と何の種族かも分からない耳女が私達と一緒に旅立つ冒険者とおっしゃらないでしょうね」
「ルド! 初対面の人達にそんな言い方は……」
「騎士生でも見覚えのない顔、どう見ても一般人の子供ではなくて? ちゃんと教育は受けてますの? 身なりも市販で売っていそうな装備。これから魔王を倒しに行くのに新米冒険者はいらないわ! 遊びではありませんのよ!」
何だこの娘……
ルドと言われた縦ロールの少女は、会って間もなくダメだしが止まらない。ただ、彼女の口ぶりからしてもしかすると……
「な、なあロイス。まさかと思うが、この高飛車はもしかして……」
「あ、う、うん……この子はルドラー。フリュート家と同じ王国直属の――」
「ちょっとロイス! 何故貴方がワタクシのことを紹介しているのかしら? 貧民風情に貴方の手を煩わせる訳にはいけませんわ! 名前ぐらいワタクシが申し上げて差しあげますことよ! それにしても何アナタ!? 今ワタクシのことを高飛車とおっしゃらなかった? 初対面で、しかも女性に対して失礼じゃなくて!? まったくどういう教育を受けているのやら」
これは……めんどくさそうだ。
「良いかしら? よくお聞きなさい! ワタクシの名前はルドラー・グ・フランチェスカ。シバ・ネバカア国王に仕える由緒正しき『盾の一族』フランチェスカ家長女、そして王国騎士育成教育機関を歴代二位の成績で卒業した超エリート! 転生者であり、この世界を救う勇者であるロイスと肩を並べられるのはこの高貴なるワタクシ! ルドラー・グ・フランチェスカなのよ! よく覚えておきなさい!」
何を言っているかわからなかったが、盾の一族っていうのは聞いたことある。
よくは知らないが、端的に剣の一族と同じぐらい偉い貴族って話だ。
そんな偉大さも、このジャジャウマ娘なのだと知ると吹っ飛んで行きそうだ。頬を引きつらせる俺を見たロイスが「あー……」と間を伸ばしながら取り持ってくれる。
「ま、まあまあ! 二人とも僕が信用できる人間だと思ったから今回パーティに誘ったんだ! まずルドにコハルちゃんを紹介するよ!」
そう言って、ロイスはコハルを指した。
普段は明るく接客出来るコハルだが、どことなく緊張した面持ちで前に出る。
「こ、こんにちは! 私コハルって言います! 前に一回会ったことあるよね?」
コハルの一言に、ルドと俺は驚く。その中でロイスは笑みを浮かべながら頷いた。
「よく覚えてるねコハルちゃん! そう、僕達が図書館で初めて会った日だよ!」
俺も過去の記憶を掘り起こす。確かにこの縦ロールの髪、どこかで見覚えが……
・貴方達! 図書館ではお・し・ず・か・に! ですわ!
ああ……思い出した。
騒いでいた俺達を注意しに来たあの子だ。
ルドも想い出しようで溜め息を漏らした。
「はあ……まさかあの時の貧民達だとは……」
「思い出してくれたんだ! ありがとう! これから宜しくね! ルドちゃん!」
温度差の激しい会話が続く。
「ルドちゃんですって!? アナタ馴れ馴れしいんじゃなくって? ルドラー・グ・フランチェスカよ! あと、その獣の耳のよう装飾はなんなのかしら? 私は犬ですと媚びでも売ってるのかしら?」
「えー、名前長くて覚えられないからルドちゃんで良いと思うよ? それに可愛いし! あと、この耳は本物だよ! 驚かないでね。私ワーウルフなんだ!」
「わ、ワーウルフですってええええええ!?」
ルドは絶叫しながら後退し、腰に納めていたレイピアを引き抜く。
「どどど、どうして魔物がいますのロイス!」
「大丈夫だよルド。コハルちゃんは昔から隣のイット君と一緒に人族として暮らしているんだ。もちろん襲ってこないし、戦闘力も並の冒険者じゃ敵わない程の実力はある。たぶん身体能力の
ロイスの説明を聞き疑いの目でコハルを見るルド。
コハルもルドの絶叫に驚いてはいたが、気を取り直して明るく自己紹介を続けた。
「驚かせてゴメンね! 大丈夫、悪い人にしか噛まないから! 私の役職は
「ワーウルフの
ルドは下から上までコハルを見回し、どう隠しても強調される胸を最後に睨む。
「ま、いいわ。いざという時はワタクシが引導を渡してやりますわ。せいぜいロイスに色目を使わないよう注意することね」
「……? あ、なるほど!」
急に何かを納得したように、ニッコニコの満面の笑みでコハルが頷く。
何だか良く分からないが、次に俺を紹介するロイス。
もちろん自分からも自己紹介を行おうとするが、ルドはまた軽い溜め息を吐く。
「あら? そう言えば影が薄くて忘れてましたわ」
「どうも……俺の名前はイット。こう見えてロイスと同じ転生者なんだ」
「……なんですって」
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