第76話 劣化チートよ

 硬直するルドだが、すぐに口を押さえながら笑い始める。


「冗談はよしてくださらない? 転生者はこの世に一人しか現れないのよ。そして、今回の転生者は目の前にいるロイスなのよ!」

「ああ、何か今までそうらしいな。でも、今回は二人転生したんだ。ロイスと俺だ」


 ポカンとするルドだが、すぐ我に返る。


「寝ぼけてるんじゃありませんわ! アナタみたいな一般庶民がこの世界を救う勇者な訳がありませんもの! 嘘を吐くのは……」

「いや、彼の言ってることは嘘じゃ無い」


 ロイスが間に入ってくれた。


「ルド、昔話したことがあっただろ? 大天使サナエル様の祝福を受けたのは、僕の他にもう一人いたって」

「ワ、ワタクシは! あれはロイスが謙遜していると思って!」

「はぁ……僕が嘘吐くわけないだろ? 本当に本当なんだ」


 ロイスの話すことにようやく理解したらしいルド。


「くぅ……!」


 だが、ルドは何故か悔しそうに俺のことを睨んでくる。

 先行きが不安になるが「続きを話して良いか?」と確認しつつ自己紹介を続けた。


「一応役所も伝えた方がいいか? 俺の適性は付加魔法使いエンチャンターってことになってる」

付加魔法使いエンチャンターですって?」


 またも突っかかるルド。


「あ、ああそうだが……」

「アナタご存じ? 付加魔法使いエンチャンターなんて冒険に向いてない役職の代表ってことを?」

「そうらしいな……研究者とか鍛冶や薬師に向いてるって話は聞いてるよ。いろんな冒険者の人達に」

「わかっているなら尚更ですわ。これから魔王を倒しに行くのにお荷物じゃありませんの?」


 言いたいことは分かるが、そこまでハッキリと言われるとは……

 俺自身の口元が引きつるのを感じたのを押さえて続ける。


「もちろん、ちゃんと戦闘は出来るように訓練した。攻撃魔法は人並み以上には使える」

「だとしても、本職の滅撃魔法使いウィザードには及ばないのでしょう? そんなものただの付け焼き刃ですわ」

「だから……俺は転生者で魔法適性がロイスに及ばないにしろ高いんだ。なんなら身体の情報ステータスを見せれば良いのか?」


 ああ言えばこう言う。

 まったく理解を示さないルドに、ロイスが等々注意する。


「ルド、それぐらいにするんだ」

「ロイス、貴方も仲が良いのか存じませんけど、友達だからや信頼できるからなんて理由でパーティーに誘ったのはどうかと思いますわ。何度も言うけれど、これは遊びじゃなくってよ!」


 納得できない様子のルド。

 確かにこれから生死をかける過酷な戦いが待っている。

 信頼なんて言葉でどうにかなる話ではない。ロイスとルドが 言い争っている内に俺は身体の情報ステータスを開示する。


身体解析魔法ステータス・オープン! ルドさん、とりあえずこれを見てくれ」


 俺は自身の数字をルドに見せつける。

 魔法適正:23046

 他は鍛えたお陰で平均より上の数値だが、この魔法適正の数値は人間の値でない。

 さすがのルドもこの数字を見て一瞬止まるが、やがて鼻で笑って見せた。


「確かに異世界転生者と言われれば納得する数値ね。でも、どれを取ってもロイスの劣化じゃない?」

「なッ!?」

「ルド! その言い方は無いんじゃないか! 失礼だろ!」


 ついにロイスが、ルドを叱るが何食わぬ表情できびすを返す。


「あらゴメンなさい。つい口がすべりましたわ。まあ、せいぜい私達に後れを取らないことね」


 ルドはそう言うと部屋から出て行ってしまった。ロイスは彼女を呼び戻そうとするが、無理だった様子で溜め息を吐く。


「ごめん……イット君。せっかく来てくれたのに不快な思いをさせてしまって」

「ああ……いいんだ。彼女の言ってることも理解できる」

「イット君……僕は君が友達だから誘ったんじゃないんだ。君の……いや、貴方の人柄を知っているからこそ、一緒に旅をしたいと思ったんだ」

「人柄?」

「うん! 詳しくは今度話よ。とにかく、ルドが言っていたような生半可な気持ちでは呼んでいない。それは理解してほしいんだ」


 ロイスに励まされる。

 そう言ってもらえて有り難い限りだ。

 しかし、ついに言われてしまったか……

 この世界に生まれる前、大天使サナエルの話を聞いた時から感じていた。

 成長し、戦いの知識を知っていき、コハルとの稽古の中でも知り、この世界の文化を知っていく上でその「感じ」とやらは確信に変わっていった。

 劣化。

 そうだ。




 俺は、ロイスの劣化能力値なのだ。

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