第72話 装備を整えよ
改築され5年前より少し大きくなったガンテツ屋の前に到着する。
店内にも冒険者がチラホラ見られ、寂れた店から他店と同じぐらいの人入りに落ち着いたのだ。店の前に一人のドワーフ少女が立ち、人通りはさほど多くは無いが呼び込みをしていた。
「ただいま、アンジュちゃん!」
「ただいま」
俺達がドワーフ少女、もといアンジュに帰宅報告をするといつものへの字口に半月目でこちらを向く。
「アンタ達遅い! どれだけほっつき歩いてたのよ!」
「アンジュちゃんごめんって! お土産の肉串買ってきたよ」
笑顔で余分に買った肉串をアンジュの口元に差し出すコハル。
アンジュは串に刺さった肉を豪快に歯で噛み千切り咀嚼しながら怒る。
「アンタ達の旅立ち用装備を調えたんだから早く中に入りなさい! 特にコハル! アンタの装備が一番苦労したんだから感謝しなさいよ! こんな肉だけじゃすまない代物なんだからね!」
「ホントー!? ありがとうアンジュちゃん!」
店内ではガンテツに弟子入りした従業員達が働いている。
顔なじみの彼等に挨拶しつつ奥の鍛冶場へ入ると、更に数人の弟子達とガンテツが準備を整えていた。
「もう、五年か……早いもんじゃな」
ガンテツは気づき、落ち着いた口調で準備品を見せる。
「イットは
「すみません、こんなに用意してもらって」
「何てことはない。一部を除いて駆け出しが身につける初期装備じゃ。中には一式揃えられん奴もおるが、そこは譲歩しておこう」
相変わらず高性能武具は簡単に渡してくれない方針、変わらないガンテツさんに安心感を覚える。
他の冒険者と同じように慢心しない為だろう。装備はこれから稼いで強くしていけことだな。
「それじゃ、さっそくお披露目会といこう」
普段から堅い印象を受けるガンテツだが、声色がどことなく楽しそうに思えた。
コハルはアンジュと共に個室へ着替えにいく。俺はというと、特段脱ぐ必要はないのでチャチャっと装備した。
本革であるハードレザーよりも柔らかく、魔法使いなど繊細な動きを求められる職種に適した素材、合皮に近いソフトレザー主体の防具。
鉄板のバックラーを片手に装着すれば終わり、あとは防寒用のマントと着替えや食料、冒険用の小物を詰めたバックを持てば外にも出られる。
どの世界でも、男の着替えは早い。
「うむ、中々似合っているな。これで一端の冒険者じゃ」
「駆け出し感が滲み出てるけど、何はともあれありがとうございます。ここまでしてもらって」
「いいんじゃよ、数年越しの礼じゃ」
何だかんだでガンテツさんには、衣食住の面倒を見てもらいここまでしてもらうなんて……礼を言うのはこちらの方だ。
散々礼は言ってきたのだが逆に怒られ始めたいたのでこれ以上は言わない。
俺は訓練用から変えた新品のバックラーを見据えているとガンテツが更に何かを持ち出してきた。
「そうじゃイット、コイツを持って行くかどうかを聞きたかったんじゃ」
差し出されたのは、歪な木の棒に水晶が付属された武器を差し出される。
「スタッフか……」
まさに魔法使いの杖である。
これが無くても魔法事態は発動が出来る。
ゲームみたいに魔力が上がる等は無いほとんど無い。
一部そういった効果を示す物品もあるらしいが、渡されたこれはそういう類いの効果は持たない。
何故知っているかというと、店頭に並んでいた商品だから詳細を知っているのである。
「昨今の
ガンテツが言った通り、スタッフが必要かどうかは好みになる。
大きなメリットとしては運用幅……つまり戦略幅が増えると言うことだ。
俺は、おもむろにスタッフを離れた窓へと向けた。
すると、かざした窓から
スタッフを振ると、魔法元素も振る向きに連動して動き面を完成させていく。
「
呪文と同時に窓が開いた。
つまりコレがスタッフの力。
遠隔で魔法元素を生み出し魔法を発射できるのだ。
今まで高威力だが自分達も巻き込まれ兼ねない広範囲魔法や不意打ち、先程遠隔鍵開けみたいな隠密など、その汎用性はこの武器を使うに値する品物であるのは間違いない。
だが、目を反らせないデメリットもある。
遠隔で魔法を発動出来るが、その分扱いが難しく魔法の構築速度が遅くなる。
展開が遅くなるということはつまり、この世界の魔法の仕様上威力は下がる。
また、敵と対面での攻防では命取りになる恐れもある。
それと、見せに来る冒険者の使用感によると、荷物がかさばるとのことだった。
確かに道具を使わないで戦闘が出来る職業であると言うのはメリットで冒険する上で荷物が軽いに超したことはない。
悩む……
悩みに悩んだ末、俺は決めた。
「ありがとうガンテツさん。スタッフも持って行くよ」
「うむ、わかった」
冒険で何がわからない。
荷物がかさばるが、もらえるならもらいたい。必要になる場面に出くわすかもしれないしな。
冒険していく内に、これが俺に必要かどうかも分かるだろう。
それに、冒険者界隈ではスイッチ式という戦い方もあると聞いているし、その方向性でも……
「準備できたわよー!」
そうこうしていると、奥の方からアンジュの声が聞こえる。
皆が視線を向けるとそこに――
「お待たせイット!」
そこに服を着せられた、腰の高さほどの大きな狼……いや、毛色が茶色くクルンと曲がった尻尾を振る大きな柴犬が居た。
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