第67話 薬の正体よ

「どうやら、上手く事を進めたようだね。お姉さんはうれしいよ」

「……」


 褒められているが、この人に言われると何だか複雑な気分だ。

 純粋に喜べない。

 俺の顔を覗き込むように彼女が続ける。


「とりあえず私が求めていた総売り上げに達していないけど、まあまあ上々なできだ。後でまた通達に来るけどこの店の取り壊しは見送りにするよ。見込み有りと言うことでね」

「それはどうも」

「なんだい? つれない返事だね。昔はもっと可愛げのあるボウヤだったのに」

「昔って……一ヶ月前でしょ」


 彼女が一笑いする。


「まあまあ、でも良くやったよ。もしかしたら、拳銃の販売に手を出すかと思ったが正攻法で切り抜けるとはね」

「話を聞いていたら銃なんて販売したらこの世界が崩壊するだろ」

「間違いない。だから良心で考えられる君に頼んだのさ。一応アタシの部下を送り込んでおいて見張らせたけど別に必要なかったみたいだね」

「部下?」

「薬のセールスに来ただろ?」


 セールスってあのセールスマンのことか。


「この薬の取り引きをしにきた……っていうことは、この回復薬はベノムの所の……スカウトギルドの商品ってことなのか!?」

「ああそうさ。ちょいと特殊なルートから手に入れた薬草を使っているのさ」

「その薬草は、もしかしてアサバスカ山の」「おお! よく分かったね。そうさ、あそこの調査がてら見つけた副産物だよ。雪に隠れている上に非常に凶暴な魔物や魔神が闊歩している未開拓の土地だったからさ、雑草のように腐るほど生えていたのを私達が発見し調合したのさ」

「つまりこれは、スカウトギルド監修の回復薬……」


 違法ドラッグみたいなニュアンスになってしまった。

 このことは絶対にお客さんに伝えないでおこう。


「何でこの回復薬を俺達に?」

「支援のつもりだよ。元々は我々スカウトギルドのみに支給する薬品のつもりだったけど、コイツを販売しないかって案もあったんだよ。そこで、君達の問題もあったから丁度良いと思ってね。倉庫を圧迫してる分の処分だよ」


 何とも上手い具合に使われたものだ。

 それはともかく、聞きたいことがある。


「アサバスカ山には何故?」

「何故って言うと?」

「どうして、スカウトギルドはアサバスカ山の調査をしたんだ?」

「ほほう、興味があるみたいだね?」


 ニンヤリと不敵な笑みを浮かべるベノムは続ける。


「もしかして、コハルっちの事が気になるのかい?」

「やっぱり、コハルの経歴調査の為か」

「一応ね。例の君達が捕らえられて牢獄のある館を改めて調査し直していたのさ」

「じゃあ、アサバスカ山はやっぱりコハルの……」

「ん、まあ故郷ってところだね」


 やはりそうだったのか。


「でも、君達には当分縁の無い所だよ」

「え?」

「君達はこれから魔王を討伐のルートへ進むだろう。アサバスカ山はそのルートを大きく外れた進路になるんだ」

「……」

「何かな? 不服そうな顔をして」

「別に……」

「ま、優先順位は魔王を倒すこと。それが終わってからでも連れて行ってあげればいいんじゃないのかな?」


 コハルを……故郷へ。

 俺は図書館で見た彼女のことを思い出していた。

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