第62話 きょういの数値よ

「コハルちゃんに付加魔法エンチャントを使う気なのかい!?」

「大丈夫だ。コイツの身体の情報ステータスを覗く。もしロイスから見て、コハルの身体の情報ステータスも触れたら危なそうだったら何もせず閉じるつもりだ」

「いや、大丈夫じゃないって! 明らかに彼女に対する付加魔法エンチャントは難しいと思う。人間に対する付加魔法エンチャントはかなり高度なんだよ! ネズミの比では無い!」

「コハルはワーウルフだ。人間ではない身体で……」

「そ、そんなイット君、冷静になってくれ! それはおかしいよ!」


 ロイスは声を上げた。


「そんなの人体実験をするようなもんじゃないか! イット君にとってコハルちゃんは大切じゃ無いのか!」

「……」


 ……その通りだ。

 俺は何てことを言っていたんだ。

 ロイスの言う通りコハルを実験台にしようとしている。


「そう……だよな。すまんロイス……お前の言う通りだ。俺、どうかしてた」

「え……」

「ちょっと、焦りすぎていたのかもしれない……俺は何馬鹿なことを考えたんだ。コハルに酷いことを……」


 ガンテツ屋の件に、俺は責任を感じていたのかもしれない。

 自分の性かもしれないことに。

 今自分の手に、誰かの人生がかかっていることに。

 あと、一ヶ月しか猶予がないことに。

 俺は能力が低くても……ここで足踏みしている場合ではない。

 その気持ちが前に出すぎた。

 人道的に間違ったことを平気でしようとしてしまっている。

 申し訳ない気持ちで眠るコハルを見つめていると、ロイスが肩を叩く。


「……イット君、僕も出過ぎたことを言ってゴメン」

「良いんだ。俺、少し頭に血が上りすぎてたんだ」

「……あのさ、」


 ロイスがおずおずと話す。


「こんなに言っておいてなんだけど、実は僕もコハルちゃんの身体の情報ステータスが気になっているんだ」

「え?」


 先ほどとは対照的な発言に俺は驚く。


「物や動物、はたまた人間の身体の情報ステータスは授業で習ってきたんだ。でも、魔物の身体の情報ステータス事態は見たことがないんだ」

「おいおい……まさか……」

「僕も実は凄く興味がある。魔物の知り合いなんてコハルちゃんぐらいしかいないからその……研究の為に見てみたいというか……でも、女性の身体の情報ステータスを見るのは、騎士道的にはあまりよろしくなくて……」

「ロイス……お前……」


 口ごもり始めたロイスに、俺はポンと肩を叩く。


「良いんだロイス……お前も男なんだ」

「え?」

「大丈夫、コハルを起こさないようにコッソリ覗こうぜ」

「え!? い、いや、なんでコッソリ覗くのさ! そんなお風呂覗こうみたいなノリで言わないでよ! コハルちゃんにちゃんと許可取って見させてもらおうよ!」





 と冗談はさておき、ロイスも自分の好奇心に勝てず調べることを決意した。

 よだれを垂らして眠るコハルをお越し、事情を説明した。

 コハルの身体の情報ステータスを見たいことを告げるが、彼女自身何のことだか理解出来ていない様子で「いいよ!」と頷いてくれた。

 ロイスの話によると、身体解析魔法ステータス・オープンは生き物の心臓に近い所へ触れることでより詳細な数値が出せるそうだ。

 つまり、そこは……背中だな。

 コハルの背中に手を置き呪文を唱える。


身体解析魔法ステータス・オープン!」


 コハルの後ろにテキストが表示される。


<攻撃力:85>

<防御力:102>

<俊敏性:87>

<魔法適正:3>

<幸運:82>



「お……俺より高スペックじゃねぇか!」

「凄い……10代の女の子とは思えない身体能力だ。これが魔物の力……」


 感心するロイスだが、彼のヤバさがより明確になっただけのようにも感じる。

 じゃれついてくるコハルの筋力も相当な力だったが、素のロイスがコハル以上の筋力を持っていることになる。

 いくらなんでも、この差は不公平に感じてきた。


「あ!? イット君これを見てくれ! 身体の情報ステータスが二つあるんだ!」


 ロイスがコハルのテキストをスクロールさせていくと、確かにもう一つ身体の情報ステータスが浮き上がっていた。


<攻撃力:120>

<防御力:75>

<俊敏性:139>

<魔法適正:0>

<幸運:82>


「どういうこと何だ!? こんなの授業で習ってないよ!」


 興奮気味のロイス。

 俺も覗き込み、何となくこの数字の意味する物が浮かんだ。


「……たぶん、これはコハルが変身した姿の数字じゃないか?」

「変身した……あっ!」


 ロイスも気付く。

 これは、コハルが犬になった時の身体の情報ステータスだと想像できた。


「凄いよ! なるほど、姿形が似ていたとしても変身する魔物は身体の情報ステータスを複数表示されるのか! しかも身体の情報ステータスのバランスを見る限り、状況に応じて使い分けているんだろうね。こんなの授業で習わなかったよ! 凄い!」

「お、おう、それは良かった」


 俺は身体の情報ステータスを見ること自体初めてだからか、凄さがあまり実感できない。

 寧ろこうして自分の能力を数値化出来る世界の仕様に驚きを隠せない。

 ますますゲーム的になってきた。


「……ん?」


 コハルのテキストを眺めていると、不意に視界へ入った項目があった。




<寿命:




「うわっ!?」


 俺は思わずテキストを弾き、視界から項目を吹き飛ばした。

 明らかに見ちゃいけない物だった……寿命……そんなものまで見えてしまうのか。


「イット君、大丈夫かい?」

「イット?」


 ロイスとコハルは心配して俺を見る。

 ハハハ、と誤魔かすことにするがロイスが覗き込み驚く。


「こ、これは!?」

「え?」


 俺は再びテキストに目を向けた。

 まさか例の寿命を開いていたのかと、焦ったが内容は違った。

 でも、目が釘付けになる。



<胸囲の成長:120>



「す……凄い」

「おお……」


 男二人はこの数字に魅了される。


「なになに!? 面白いのイット!?」

「ああ……凄いぞ……100が人間を超越するレベルなら、相当ヤバいもんを俺達は見つけてしまった」

「い、いや、イット君! これは不味いよ! 紳士的ではない!」

「そうなの!? イット! 私も見たい!」


 コハルもテキストに興味を示し始めた。

 勿論この胸囲の数値は見せないが、観察させてもらっている側として、その要望を拒否する理由は無い。


「あ、ああ、良いけどどうやって見せれば良いんだ? ロイス、背中に出てきた身体の情報ステータスはどうやって、前に持って行けば良いんだ? 動かし方がわからないんだが」

「えーっと……一回魔法を解除しないとダメなんだ。魔法を展開した所にテキストが出る仕様だからさ」


 と言うことは……


「おい、コハル」

「なに?」

「見たいなら、お前の胸を触らなきゃいけないみたいだぞ?」

「イ、イット君……」


 

 冗談交じりに告げると、呆れた声色でロイスが溜め息を吐く。

 胸繋がりの話題だったが、コハルの恥ずかしがる表情を見る為、悪戯な笑みを浮かべてしまう。

 だが、彼女の反応は違う物だった。


「いいよ!」

「「!?」」

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