第63話 LOVEだよ
俺達男等は絶句する。
何言っているイットのバカ! エッチー!
って怒るのを予想していたのは古い考えだった。
寧ろ、揉ませにいくスタンスだった。
「いや、ダメでしょ! こんな所でそれはダメでしょ!」
顔を赤くして慌てふためくロイス。
しかし……
「私も見たいの! イット! はやくはやく!」
胸を俺に差し向けるコハル。
さすがに冗談だったことを言わなければならない。
「あ、あのなコハル。今のは冗談だからな。制度が下がるかもしれないがお腹の所で見ようか?」
「なんで!? 私もしっかり見たい!」
「でもな、無闇に年頃の娘が胸を触らせちゃいけないんだ。教育に悪い。そういうのは好きな人とやるんだ。わかったか?」
「好きな人?」
コハルは軽く宙を見た後、キョトンとした表情で俺を見つめた。
「私、イットのこと好きだよ?」
「……え?」
「私、イットのこと好き! だから胸触っていいよ! すてーたすだっけ? 見てみたい!」
ヤバいことになった。
変な汗が止まらないし頬が熱い気がする。
女の子に真っ正面からこんなことを言われたことがないからか俺の頭の中が混乱する。
横に居たロイスが、フォローしてくれた。
「コ、コハルちゃん、君の言う好きはLIKEの方だよ。イット君の言っている好きはLOVEの方なんだ」
「らいく? らぶ?」
「あーえっとね……うーん……そうだ! コハルちゃんの一番好きな食べ物って何?」
「うーんっとね……いろいろあるけど、お肉かな!」
「そう! その好きと同じだよ! お肉は好きだろうけど、食欲を満たしたり味が好みだったりあるだろ? それがLIKEっていう好きの意味さ。イット君が言いたいのは、結婚したい、愛してるっていう……何かこう……ゴメン、僕も経験が無いから上手く言えないけど、とにかく一番好きな人に対する好きって意味なんだ。それがLOVEだよ」
その話だと、俺=肉みたいな構図だがロイスがフォローしてくれて助かった。
「お肉とイットならイットの方が好きだよ! 愛してるよイット! 結婚する!」
ロイスの援護はコハルに利かなかった。
まるで幼少時の無垢な少女としている会話のようで、一瞬でもドキッとしてしまった自分が違う意味で恥ずかしくなってきた。
「イット! 早くすてーたすを見せて!」
「お、おい! 止めろって!」
半ば強引に攻撃力85の力で俺の腕を掴むコハル。そして、俺の手は彼女の年齢に相応しく無い120の成長力を誇るそれへと運ばれていく。
「ダ、ダメだ二人とも! せめて人前では止めるんだ!」
ロイスが止めに入った所で、後ろから突然――
「貴方達! 図書館ではお・し・ず・か・に! ですわ!」
と、図書館で大声を出す少女の声が聞こえた。後ろを振り向くと焦げ茶色で縦ロールが掛かった髪。あからさまにお嬢様ですといった具合の少女が一人立っていた。
「うるさいと思ったらロイス様! まさか貴方様でしたのね! 王に仕える貴族なのだから御下品な振る舞いはお止めなさいと申しておりますわよね?」
身なりの良いお嬢様は、ロイスを睨んで早々お説教を始めた。
彼の友人なのだろうか?
と、思っている矢先にコハルが俺の代わりに聞いてくれた。
「ロイスの友達?」
「そういう貴方達は誰ですの? 見たところ場所と立場をわきまえない貧民にしか見えないのですけれど?」
俺達二人を見下すような視線を送る感じの悪いお嬢様。
まあ、俺達が騒いでいたのもいけないので何も言えない。
やはりロイスも知人らしく、焦りながら割って入る。
「あ、ああ、彼等は僕の友人達だ。ここでたまたま出会って……」
「もう少し、付き合う友人は考えた方が良くってよ、ロイス様。失礼ながら貴方様は貧民達に親しくし過ぎですわ。彼奴等に優しさを見せた所で付け上がるだけですもの」
まあまあと、ロイスに宥められるお嬢様。
聞いている通り、身分をわきまえろと俺達にも聞こえるように説明してくれた。
確かに、俺とロイスは同じ勇者だったとしても生まれ持った地位が全く違う。
このお嬢様言っていることに腹は少し立つが世界なのだろう。
すると、やれやれといった顔でロイスがこちらに向き直る。
「ゴメンよイット君にコハルちゃん。今日はここまでにしよう」
「ああ、そうした方が良さそうだな」
「明日例の準備をするよ」
そう言ってロイスとお嬢様は離れていった。とりあえず俺は拳を握る。
よし、まさかの援軍を手に入れた。
何とかしてみせる!
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