第61話 ステータスオープンよ

 ロイスの目の前に浮かび上がったグラフや数字。これがロイスの能力を指し示す数字。


身体の情報ステータスを見るのは初めて?」

「あ、ああ、そうだ……こんなものが見れたんだな」

「うん、魔法学の授業で習ったんだ。完成速度が速いほど詳細な数字やグラフが出てくるんだよ。ほら、コレがサナエル様にもらった力の影響だよ」


 ロイスがテキストを指さす。

 そこには<攻撃力:173>と書かれ宙に浮いていた。


「攻撃力って……完全にゲームだな……」

「そう! ゲームみたいだよねこの世界!」


 楽しそうに喜ぶロイスを横目に、そのロイスの身体の情報ステータスとやらを見せて貰う。


<攻撃力:173>

<防御力:256>

<俊敏性:195>

<魔法適正:65535>

<幸運:158>


 他にも多数の項目が見えるが、大きく目に入るのがこの五つだった。


「何か、魔法適性がやたら高いな。ここだけ二桁違うぞ……」

「うん、どうやら魔法元素キューブの完成速度にも比例してるみたいだよ。因みにこの身体の情報ステータスの基準は、15歳成人を元にした平均数30前後と言われているんだ。100を超えると僕達の世界で例えるとトップアスリートレベル……超人らしいよ」

「平均値30……はぁ!?」


 ロイスの数字を見直す。


「化け物みたいな数字じゃねぇか!」

「アハハ……サナエル様の御加護だよね。人間の能力を最初から超えちゃっているんだ。元々病弱な身体だったけど、今は防御力も異常な数字のお陰で病気にもならないよ。免疫力とかも上がってるみたいだ」


 ロイスの例えをそのまま流用するなら、俊敏性が足の速さだと仮定した時、ウサイ○・ボルトの二倍速いことになる。

 間違いなく人間の数字では無い。

 と言うか、魔法適正なんてもはや何を基準に考えれば良いか分からない程桁越えしているじゃないか。

 俺が唖然としていると、ロイスがテキストを指で弾きパソコンのウィンドウのようにスクロールさせていく。


「魔法適正高い人だと身体の情報ステータスの項目の制限解除の項目が出ているんだ。それを指で擦るように弾くと制限解除。凄く簡単だよ。これでやれることの幅が増えるしね」


 ロイスのテキストには、制限解除を赤く塗りつぶしたような跡が描かれていた。


「なるほど、こんなことが出来たのか」

「イット君も自分の身体の情報ステータスを見てみなよ!」

「……は?」


 俺は思わず固まってしまった。

 そうか……そうだよな。

 俺にも身体の情報ステータスってあるもんな。


「な、なあロイス。ちょっとそれは一人で確認して良いか?」

「え? 何でだい?」

「いや、なんというか……」


 恥ずかしい。

 ロイスの身体の情報ステータスが高いのはわかったが、それを知ったうえで自分の身体の情報ステータスを晒したくなかった。

 どうせ間違いなく低い。

 わかっていて見せて何が楽しいのか?

 正直、自分の能力の数字を他人に見せられるのは、相当自信がある奴かナルシスト以外考えられない。

 怖じ気づく俺にロイスは更に言い寄る。


「でも制限解除しなきゃいけないだよね? すぐに解除して付加魔法エンチャントについて学ばないと」

「それはそうだが……」


 俺の反応に、ロイスは「……ああ」と気付いたように声を出す。


「もしかしてイット、君は恥ずかしがっているのかい?」

「……」

「アハハ大丈夫だよ! 僕は別にそういうのを気にしたりしないからさ!」


 俺が気になるんだよ。

 何だこれは?

 何か頑なに体重を答えない女子の気持ちが分かった気分というのだろうか。

 いや、自分の姿を鏡で見たくない感覚に近い。しかし、ロイスの言う通りこのままでは進まない。

 ……仕方ないか。 


「わかったやるよ……」


 俺は自分の胸に手を当てて、魔法元素キューブを構築する。

 そしていつもの魔法を使う。


解析魔法アナライズ


 ロイスが行った通り、青い光の線が走りテキストが表示される。

 咄嗟に俺はそのテキストを手で隠した。


「……え?」


 驚くロイスは無視する。

 俺だけがテキストを見えるよう隙間から覗き込む。



<攻撃力:19>

<防御力:18>

<俊敏性:23>

<魔法適正:11523>

<幸運:1>



 うわ……

 見なければ良かった。

 好奇心に負けて覗いたが案の定後悔する。

 唯一高い魔法適性もロイスにボロ負け。

 ロイス所か平均以下の身体の情報ステータス

 それに幸運が1ってなんだよ……

 だから産まれた直後から地下牢に入れられていたのだろうな。

 俺はそのままテキストをスクロールさせ、制限解除の項目を指でなぞった。


「イ、イット君……そんなに見られたくないんだね」

「ああ、絶対嫌だね」

「わ、わかった。とりあえず、これでイット君も付加魔法エンチャントが使えるようになったよ。おめでとう……」


 顔が引きつるロイス。

 気にせず俺は気合いを入れる。


「よし、それじゃあロイス、さっそく教えてほしい。付加魔法エンチャント使い方を」

「うん、わかった。でも生憎、実験用のネズミが居なくてね」

「実験用のネズミ?」

「そう、付加魔法エンチャントの訓練にはネズミを使用するのが一番分かりやすくて初心者向けと言われているんだ。確かに僕も授業でならった時は、ネズミが一番分かりやすかった」

「へー……でも別にネズミじゃなくても、そこら辺のペンや石に付加魔法エンチャントして実験すれば良いんじゃないのか?」


 ネズミなんて小動物に魔法をかけるよりも、無機物の方がやりやすいイメージがあった。だが、ロイスは首を横に振る。


「いや、実際無機物の付加魔法エンチャントの制御は難しいんだ。それこそ人気のない野外で行うものだよ。いくら僕等に魔法適性があったとしても、本も沢山あるこの空間では僕もやりたくない」

「そんなに難しいのかよ?」

「う、うん……いや、最初だけ難しいと思う。付加魔法エンチャントをかけること自体は簡単なんだけど、かけたのを元に戻すのが難しいんだ。たぶん……そういった制御の概念は魔法適正と微妙に違う能力みたいなんだ」


 うーん……いまいちピンと来ないな。

 まあ、そこまでロイスが言うなら相当難しいのだろう。

 ロイスは続ける。


「明日だったら、僕が用意するよ。明日に備えて付加魔法エンチャントに関する本を読んでおこう。僕も少し曖昧なところがあるからさ」


 急いではいるが仕方ないか……


「……」


 俺はふと、寝ているコハルが目に入った。


「……なあ、ロイス」

「なんだい?」

「ネズミはいないが……?」

「……え?」


 俺の中にいた悪魔の囁きが木霊した。

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