第60話 調べよ

「やあ、図書館の中で会うなんて奇遇だね」

「まったくだな。今日はどうしたんだ?」


 偶然であったロイスに訪ねると、どうやら勉強の為にここへ訪れたようだ。

 何でも、騎士育成教育機関の生徒並びに関係者はこの図書館を無料で利用できるそうだ。もちろんロイスは騎士育成教育機関の生徒であり、無料で入ってきた。

 こんな所で貧困の差を感じてしまう。


「それで、イット君達はどうしたの? コハルちゃんは……寝てるみたいだけど」

「ああ、実はだな……」


 隠すこともないので、今お世話にガンテツ屋が潰れそうであることを伝える。

 そして、今考えていることを伝えると、ロイスは少し驚いた表情を見せた。


付加魔法エンチャントを使って、ギルドカードと役職診断機ジョブチェッカーみたいな物を作りたい?」

「ああ……いろいろお店を廻ったんだが、何処もやっていない販売施策システムがあるんだ。時間がないんだが、もしそれが出来るなら長期的にみても売れる見込みが必ず産まれる……はずなんだ」


 だが、そもそもそれを作る為の知識を一から学ばなければならない上に、機材も揃えなければならない。

 一番の理想は、ギルドカードと役職診断機ジョブチェッカーのような現存の物を改造できるのが理想なのだがはたして上手くいくのか……


「なら、僕も手伝おうか?」


 話ながら頭を抱える俺に、ロイスは頼もしい一声をくれた。


「い、良いのか?」

「もちろんだ! 同じ世界を救う転生者として、協力するのは当然さ! 何でも言ってほしい」

「じゃ、じゃあ……とりあえず、付加魔法エンチャントの知識について教えて欲しい。どこから手を付けたら良いかわからないんだ」

「それでだけで良いのかい?」

「え? ああ、それさえ覚えればギルドカードとかは適当な物を見繕えば……」

「もし良かったらだけど、そのギルドカードや役職診断機ジョブチェッカーなんかの魔道具マジックアイテムも取り寄せようか?」

「……は!?」


 ロイスの思わぬ発言に、思考が追いつかなかった。

 取り寄せる?

 出来るのか?

 そもそもあれは売っているのか?

 マジで言っているのか?


「い、いや、その……マジか」

「ああ! 僕のお父さんに言えばそれくらいならすぐ手に入るよ!」

「あ、ありがたいんだが……金はあまり持ってないんだ……」

「何言っているんだイット君。お金なんていらないよ」

「マ、マジで言ってるのか!?」

「うん! マジさ! あ、勿論だけど付加魔法エンチャントの知識もお金なんてもらわないよ!」


 それなら凄くありがたい。

 まさかこんなトントン拍子で、機材が揃いそうなんて夢にも思っていなかった。俺と同じかそれ以上の魔法適正を持つロイスに手伝ってもらえるなら百人力だ。


「その代わりなんだけど、イット君にお願いがあるんだ」


 ここで、ロイスは交換条件を求めてきた。


「まあ、そりゃ全てタダではないだろうな。俺の出来る範囲なら良いけど」

「あはは、ありがとう! でも、それほど対した内容でもないんだけどね」

「それでなんだ? その条件とやらは?」


 ロイスは一つ咳払いをすると、改めて真っ直ぐ俺を見た。


「今後……予定では15歳のこの世界で成人になった頃になると思う。僕と、魔王を倒すパーティーを組んでほしいんだ」

「……パーティー?」

「一緒に冒険者として旅立ちたいんだ」


 一瞬理解に及ばなかったがアレだ。

 RPGロールプレイングゲームなんかでよく見るキャラクタ達の行列のことだろう。

 前衛とか後衛に別れて戦うアレだ。

 そう考えると、更にこの世界がゲームっぽく感じてきた。

 無言の俺にロイスは困った表情を見せる。


「あの……もしかして嫌かい? 僕とパーティーを組むの?」

「い、いや……嫌じゃない! 嫌ではないが何で俺なんだ?」

「何でって?」


 キョトンとするロイスは続ける。


「だって君は、僕と同じ大天使サナエル様に選ばれたこの世界を救う使命を持った勇者だから……って理由じゃダメかい?」


 それ以上の理由がないと言わんばかりに、困った表情のロイス。

 裏表があるとは思えないし、彼に対して思いたくはない。


「……わかった」

「それじゃあ!」

「だが、約束は出来ない」

「え? どうして……」


 ロイスには理由を言っても良い気がするが、誰かに聞かれている可能性がある。

 俺がベノム……スカウトギルドと契約し、自由の身ではないこと――


「今は深く言えないが……一緒に冒険へ行けるかはわからないんだ……」

「どうして?」

「いろいろあってな……でも、ロイスとパーティーを組めるのは、俺としても光栄な話だ。そうなれるように努力する」

「まさか、誰かに脅されているの?」

「いや……そういう訳じゃ……」

「……スカウトギルドとかではないよね?」


 今の言葉は確信を持って言ったのか、たまたまなのか……


「とにかく、今は決められないんだ。ごめん……でも君と組みたい気持ちはある。それだけはわかってくれないか?」


 しばらく、ロイスは考えた後に一つ頷く。


「……わかった。こちらこそ急なお願いをしてごめん、イット君」

「すまないなロイス。必ずそうなれるように努力するよ。ありがとうな」

「いえいえ!」

「それにしても大天使サナエル様って……」

「ん? なんだいイット君?」

「いや……良い心がけだけど、あの幼女天使に心酔してるとはな」

「そんなの当然さ!」


 ロイスは胸に手を当て誇らしげに語る。


「僕達をこの世界に連れてきてくれた天使様に感謝してるよ。もちろんこの楽しくて勇者としてやりがいのある素晴らしい世界にも」

「……」


 彼の言葉に少し疑問を抱く。

 楽しい……やりがい……

 産まれた環境が違うだけなのかもしれなが、言うほどこの世界は素晴らしい世界でないと思う。

 確かに楽しいと思える時はあったが、本当に死にかけたこともあった。辛い出来事が、まだ10年間だけれど多かった。


「……」


 俺はいびきを搔くコハルを見る。

 そうだ……気付いた。

 確かに今の俺は、死にたいとは思っていない。前世の社畜だった時よりも、ずっと生きたいとは思っている。

 少なくとも自分を認めてくれる人がいる。

 今はその人達の為に頑張りたいと思える。

 にはなかった物がここにある。

 必死に何とか生きていてわからなかったが、命を失うかもしれないこの危険な世界の方が……俺達が居た世界よりも、ずっと居心地が良いのかもしれない。

 死んだように生きていることより、ずっとマシだ。


「……そうかもな。ここは悪くない世界だ」


 俺も納得した所で本題に入ることにした。


「それじゃあ、ギルドカードとかに関してはまかせて。時間が無さそうだからまず付加魔法エンチャントについて教えていくよ」

「ああ! 宜しく頼む!」


 するとロイスは自分人身に手を当て、自身から魔法元素キューブを浮かび上がらせた。


「……え」


 俺が驚いているのも束の間、ロイスは浮かび上がった魔法元素キューブをいつの間にか完成させる。


「イット君、解析魔法アナライズの仕様は分かるよね?」

「ああ……物質の解析を行う魔法だろ?」

「そう、だけどこの魔法には最初、制限が掛かっているんだ」

「制限?」


 初めて聞いた。

 そんな仕様があるのかよ。


「それじゃあ、そのの項目を見せるよ。自分の身体の情報ステータス内部にあるんだ。ただ、これは魔法適性が高いか相当な修行を積んだ者にしか現れないものらしいんだよ」


 そう言い終えるとロイスは呪文を唱える。


解析魔法アナライズ!」


 すると宙に青白い光線が走り、大きなタブレットのような長方形の枠が浮かび上がる。その中には言葉や数字、そしてグラフのような図形等が描かれていた。


「これは俗に言う解析魔法アナライズの応用魔法、僕達の世界のゲームにあった――身体解析魔法ステータス・オープンってやつさ!」

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