第59話 図書館よ

 次の日。

 俺とコハルは図書館に訪れた。


「入館料、一人100Gです」

「ひ、一人100G……」


 噂に聞いていた国営図書館。

 入館料が約10000円……

 ガンテツさんからお金を貰っているので入れるのだが、何回も通える額では無い。

 時間も限られているし無駄には出来ない。


「コハル……もう一度聞くけど、本は読めるんだよな?」

「う~ん……うん! たぶん読める!」


 作業効率を上げる為にコハルを連れて来たが、この入館料を見て大丈夫かどうか不安になってきた。

 考えてもしょうがない。

 俺は200Gを払い中へと入っていった。




 内部は本棚と壁一面に本がズラリと立ち並んでいた。

 圧巻の光景に俺達は見とれてしまったが、とにかくここで情報を探していく。

 調べることは次の通りだ。


回復薬ヒーリング・ポーションの成分の知識。


付加魔法エンチャントに関しての知識。


 そして、出来れば個人的に調べたいのは……


③アサバスカという山について。


 もしかしたら、この山がコハルと関係しているかもしれないと思った。

 だが、悪いけどこれは後回ししないといけない。

 今はガンテツ屋の為セールスマンからもらった回復薬ヒーリング・ポーションが本当に効き目があるのか。

 そして、付加魔法エンチャントを用いて上手いことやれないかを考えないといけない。

 たぶん魔法に関しては覚えられる自身がある。本当にこの魔法適正というものは有り難い限りだ。

 俺達は手分けして本を探した。




「本が多すぎる……」


 それらしい本を集めてみたら、いつの間にやら山積みとなっていた。

 一冊一冊が分厚いのもあり読む時間に回さないと情報を見つける前に閉館してしまう。


「よし、読むぞ!」

「おー!」

「……館内ではお静かに」


 管理人の人に怒れ、静かに資料を探し始める。

 しばらく時間をかけると、ようやく薬草に関する資料が見つかった。

 持ってきたポーション達を並べ解析を続けると分かってきた。

 成分は確かに違うが、セールスマンが持ってきた回復薬ヒーリング・ポーションの主成分である薬草は同じ物みたいだ。

 だがもっと深く調べると生産地が違うようで俺達が受けた回復薬ヒーリング・ポーションの原料となる薬草は北国に生息する物だと思われる。

 雪の下でも枯れない為に、寒気を感じ取ると栄養素を凝縮し溜め込む性質があるそうだ。疲労を回復する効果も増幅するようで、現地の生物達も食している光景が見られるそうだ。


「これなら、この回復薬ヒーリング・ポーションとしての効果は見込めるかもしれない。仕入れ値を安くすると言っていたし、寧ろかなり良い条件の商品なんじゃないか?」


 品質の問題も素人目で調べる限りは、普通の回復薬ヒーリング・ポーションとして問題ない。

 この世界に薬事法があるか分からないから素人が利きますよと言って売るのまずい気もする、しかしこれは安い回復薬ヒーリング・ポーションとして売る価値はある商品だ。


「あ! イット! 見てみて!」


 唐突にコハルが本の見開きを見せてきた。

 そこにはワーウルフの絵が標本のように描かれていた。


「私と同じワーウルフだよ!」

「それは……アサバスカに住む生物の本か」


 読んでみると、アサバスカ山の生態系が書かれた本だった。

 原生生物が沢山描かれている中で、ワーウルフの項目をコハルは見つけたようだ。

 ワーウルフの項目を詳しく読んでみると、アサバスカ山に生息するワーウルフは完全変異型に分類される種類らしい。

 ワーウルフには上半身のみを動物の姿になる『半変異型』と姿形が全く異なる形へ変身する『完全変異型』の二種類に分類されるそうだ。

 アサバスカ山に住むワーウルフは、雪の中に身を潜めることや四足歩行の方が立地に適している為、完全変異型の割合が非常に多いと書かれていた。

 この説明を見る限り、確かにコハルも完全変異型に属するワーウルフだろう。

 更に極めつけはこれだった。


「……」

「コハル? そんなに本の絵を見てどうしたんだ?」

「……何か、やっぱりこの山、見たことある気がする」

「それって言うのは、昔ここに住んでた記憶があるってことか?」

「……かな?」


 本に描かれた山の様子を描かれた絵を眺めるコハル。

 遠くを見るような彼女の横顔に、何か胸が締め付けられる。

 人間達に拉致され遠くに連れていかれた彼女の心情は、想像が付かない。

 でも……やはり帰りたい気持ちはあるのかもしれない。




 時間を掛けて調べた結果。

 とりあえずセールスマンからもらった回復薬ヒーリング・ポーションの品質に関しては問題なさそうな気がする。

 関連してアサバスカ山に関することを少しわかった。

 問題は……


「魔法の本が多すぎる……」


 魔法に関する本が異常なほど多い。

 情報過多と言っても良い。

 付加魔法エンチャントに関しての資料を簡単に探しただけでも、分厚い本が何十冊と出てくる。

 魔法適正があったとしても、この量を読み切る前に店が潰れる。

 因みにコハルは本に飽きたのか突っ伏して寝た。

 人海戦術でここに来たが、魔法の分野に関してコハルは……

 寝かして置いても良いかもしれないが、100Gがもったいない気も……


「とにかく読むしかないのか……」


 俺は溜め息交じりに一番簡単そうな本を手始めに開いた時、突然声を掛けられた。


「あれ? イット君達じゃないか」


 俺は顔を向けると、そこには……


「ロイス!」


 学生服風の服を着た俺と同じ転生者のロイスの姿があった。

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