第57話 役職診断機よ

 質問を終えて、冒険者ギルドから去る所だった。


「あ! せっかくだから役職診断機ジョブチェッカーをやっていかない?」

「ジョブチェッカー?」


 お姉さんが指さすその先に、机の上に置かれた水晶が組み込まれた箱が置かれていた。

 興味津々のコハルが近づく。


「お姉さん! これ何!?」

「これは冒険者としての適性を人の体内に宿った魔力を通して見極める物と言われているの。自分の方向性が定まっていない人、今の自分の役割が合っていないのではないかと悩んでいる人の方向性を指し示してあげる機械よ。もちろんその方向性に従わなくても良いの。あくまで目安だからね!」

「な、何だかお姉さん目が輝いてますよ?」

「そう、実は私これをやるの大好きなのよ! なんだか占いみたいで楽しくてね! とりあえずここに来た人にはやらせて、どんな職業が向いてるのか見るのが楽しくてこの仕事やってる所あるから!」

「は、はあ……」


 何か聞いていると、確かに俺の世界で流行っていた性格診断みたいな物か?

 俺もそういうのは嫌いではないので、コハルと一緒にやってみることにした。


「それじゃあ、これをあげるわね」


 お姉さんからテレフォンカードサイズの板をそれぞれ受け取った。

 表面がキラリと光りコハルは目を輝かす。


「何これ!?」

「それはギルドカードよ! 冒険者ギルドに登録する際に渡しているものだけど、お二人には特別にあげるわ!」

「え!? 良いんですか?」

「良いの良いの! 実はそれって少し傷が付いてる物でね、新規登録の冒険者さんが変えてくれって困ってた物なのよ。どうせボロボロになっちゃうのに、そういう縁起みたいな物は細かいのよね……」


 確かに、光の反射で斜めに線が入っていた。しかし、これを持っていると何だかワクワクしてくる。


「それじゃあ二人とも、渡したギルドカードを水晶にかざしてみて」


 お姉さんの言うとおり俺達は同時にカードをかざす、すると空中に青白い線が浮かび上がった。

 線は文字と紋章を浮かび上がらせた。


「おお!」

「すごい! なにこれ!」


 俺達は浮かび上がった紋章をマジマジと見つめていると、笑顔のお姉さんが説明する。


「ふむふむなるほど……あら! 凄いわね!」

「何が分かったわかったんですか?」


 訪ねると、お姉さんはコハルを見た。


「まず貴方! 凄いわよ! 適正職は格闘家グラップラーみたね!」

「ぐらっぷらあ?」

「あ、それは俺も知ってます。相手を自分の拳で倒す人ですよね?」


 元の世界でも総合格闘技の試合をテレビで見ていた。

 その際にグラップラーという単語が出てきているのを俺は思い出す。それは合っていたようで、お姉さんは頷いた。


「そう! 己の肉体で敵をなぎ倒していく前衛職。どの職業よりも状況対応能力の早さに優れた戦士。その反面、戦術の特性状武具の費用よりも衣服や治療費にお金が掛かると言われる生傷の多さから、致死率も高い。それでもそれに見合った攻撃力と回避性能、そして連携のしやすさパーティの頼れるポジションね! 冒険者界隈では人気職の一つよ!」


 確かにコハルは人間ではなくワーウルフ。

 身体能力は言わずとも人並み外れているのは明確だ。

 俺みたいに魔法は使えないが、コハルの年齢で大人一人を倒せる程だ。

 特に犬状態になった時の素早い身のこなしも使いこなせれば相当なものだろう。

 話が続く。


格闘家グラップラーの中でも打撃技に特化した打撃技主体ストライカーの兆候があるわね。相当な火力になるわ!」

「それって! 私は強くなるってこと!」

「ええ! しかも可愛いからいろんな所から引っ張りダコかもしれないわね!」


 格闘家グラップラーであることが嬉しいのかはしゃぐコハル。

 次にお姉さんは、俺の方を向いた。


「次に貴方の特性は魔法使いね。しかも凄い適正率を持っているわ」

「魔法使い……」

「そう、魔法使いの中でも特に誰かのサポートしたりする付加魔法使いエンチャンターへの適性を示しているみたね。直接魔物を倒す滅撃魔法使いウィザードの適性も高いわね。貴方は天性の魔法使いみたいだわ!」


 付加魔法使いエンチャンター……

 聞き慣れない職業にどう反応すれば良いのだろう。


「あの……付加魔法使いエンチャンターでしたっけ? それは凄いんですかね?」

「凄いかと言われると考えようよね。付加魔法使いエンチャンター事態、冒険者としては非常に少ない職業なのよ。国の研究者

や商業で活躍する人が多いわ。でも冒険者として活躍するごく少数はいるの。魔法元素キューブの展開リスクと恩恵の分かりづらさから、巷では実践向きではないとも言われているのだけれどね……」

「実践向きじゃないって……そんな散々な……」

「でも、凄く貴重な存在ね。そもそも魔法使いという職業事態がとてもピーキーで数も限られるの」

「ピーキー?」

「魔法適正があるかどうかって話から始まるわ。魔法元素キューブがそもそも出すことが出来るかどうか。そして魔法元素キューブの展開速度で魔法使いの価値も決まってくる。生死の遣り取りの中で魔法元素キューブを展開し完成させるのは並の精神力と技術力では到底無理。それこそ魔法元素キューブの仕組みを知り尽くし、早く完成させる才能が必要なの。けれど、もしそれが可能であるなら、魔法は唯一魔神に致命傷を与える人族最大火力の武器。魔物にも魔法を扱う者達がいるから、それを判別し対策出来る者は頼りになるの」

「そうなんですか」

「でも、そんな人が冒険者になることって中々ないのよ。魔法元素キューブの完成時間が遅くて仲間が犠牲になる。魔法に仲間を巻き込んでしまう。多くの事故も起こしやすくて、魔法使いを嫌っている人も居たりするわ。あ! 一時期流行った皮肉があったわね。ってやつ。アレのせいで冒険者になりたいっていう魔法を使える人が激減したわ……」


 これはいわゆるアレだ。

 ゲームで言う不遇職というやつだ。

 くそ……六面立体パズルしか取り柄がない俺にとって魔法使い以外の選択肢があるとは思えない。

 この世界の仕様に感謝していた所があるが、前言撤回したい。

 お姉さんがフォローする。


「ま、まあ、そんなに気を落とさないで! そんな中でも活躍を続ける優れた魔法使いはいるわ! 歴史上の勇者達のほとんども皆魔法使いか、魔法の適正者だったって話もあるのよ!」

「歴代の勇者……」

「そう! それに大概の魔法適正者は国に保護されることが多いわ。研究者として魔法の研究をしていたりするのよ。世間的に魔法使いかその適正者はこういう王国内では譲歩されたりするのよ!」

「は、はあ……」

「特に付加魔法使いエンチャンターは、人の生活に役立つ物を作り出したりしてくれるのよ。主に物や人物に魔法をかける凄い技術なのよ! 戦闘で仲間や武器に付加魔法エンチャントをかけて支援する。探索でも役に立つし、付加魔法使いエンチャンターは芽立ちはしないけど、どんなパーティーにいても貢献できるの! きっと貴方は凄い冒険者になるわ! 将来が楽しみね!」


 そこそこに散々言われたが、付加魔法使いエンチャンターか……

 職業は今後考えて行くとして、確かにちょくちょく名前が出てくる付加魔法エンチャントという魔法には興味がある。

 今度調べてみよう。


「因みだけど、この役職診断機ジョブチェッカーとギルドカードは付加魔法使いエンチャンターが作った物らしいわ」

「そ……そうなんですか?」

「ええ、私も詳しくないのだけどね。もしかしたら、将来貴方もこんな凄い物を作ったりするのかもね」


 俺は、もらったギルドカードと役職診断機ジョブチェッカーを見比べた。

 なんだろうか。

 何か……このシステムが何かに似ている気がした。

 そして、それを俺が作れるかもしれない。

 もし、使なら……


 ……



「ねぇねぇ! お姉さんは何の職業が適正なの?」


 おもむろにコハルがお姉さんに訪ねた。


「私?」

「うん! 気になる!」


 お姉さんは、ニッコリ笑みを浮かべる。


「前に私が診断した時は、狂戦士バーサーカーだったわ!」

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