第49話 魔法剣士よ
その刹那――
コハルと男達の間に、何者かの陰が割って入ってきた。
「え……」
俺達全員目を丸くする。
マントを翻したその陰の正体を見ると、白い仮面を被った銀髪の少年だった。
彼は一本の銀色に光る剣で二人の男の攻撃を受け止め、コハルを庇ってくれた。
「な、何だテメェ!? どこから現れた!?」
「俺等二人の攻撃を受け止めただと!?」
動揺する男二人に、俺等と変わらない程の少年は剣を一振りする。するといとも容易く振り下ろされた武器は弾かれ、仮面の少年は握った剣の腹を相手に見せ構えた。
「……」
少年が剣の腹に手を当てた瞬間、剣から
「ま、魔法!?」
俺以外の人間が魔法を使うのを久しぶりに見た。
少年が
驚く事に――
「嘘だろ……片手であの早さって……」
俺の完成時間と同じかそれ以上の速度で
そして……
「
仮面の少年が呪文を唱えると、空間に青白い閃光が走り、剣からテキストの様に空中へいくつかの文字列が浮かび上がってくる。
「ヤバい気がする! おい、お前等アイツを止めろ!」
俺の近くに居た男が叫ぶが遅かった。
少年はテキスト文字の一部を指でなぞり、更に別の呪文を唱える。
「
持っていた剣は瞬く間に、チリチリと空気が焼かれる音が響き、青い稲妻を帯び路地裏を照らした。
仮面の少年は言葉を放った。
「力で支配しようとする蛮族共……貴様等を粛正する!」
「い、いきがってるんじゃねぇぞゴラぁ!」
男の一人が少年に斬りかかる。
少年は稲妻を纏った剣で振り払うと同時に閃光が弾ける。
「うわっ!?」
交わった男の武器は電気の圧力で弾け飛ぶ。少年は円を描くように身体を回転させ、剣の腹を男に叩き込む。
「うぎゃああああああ!!」
稲妻と共に男の身体が痙攣し、そして白目をむいて倒れ込む。
「お、おい……アイツヤベぇぞ」
「ここは退く――」
会話を断ち切るように少年は飛び出し、近くの男を一瞬で叩き伏せる。
「ひ、ひぃ!?」
いつの間にか一人になった俺の腕を掴んでいた男は手を離し、背を向けて全力で逃げる。無機質な仮面越し少年はそれを見つめていたが、すぐさま構え剣を宙に振るう。
風を切る音と共に、稲妻が逃げる男の元へと伸びていく。
「あ、ああああああ!?」
振り返る男を稲妻が襲い、そして飲み込んでいった。
「コハル!」
男達が全員倒れ、俺はコハルの元へと駆け寄る。犬の姿の彼女は、ヨロヨロと近づいてくるが、怪我はないようだった。
「イット……大丈夫?」
「ああ、すまなかったコハル。危険な目に遭わせてしまって……」
「ううん! イットが無事で良かったよおおおおおお!」
俺の顔を舐めつつ腰をガクガク震わせていた。これは、媚薬の性だし仕方ない。
「イヤ……怖い……助けて……」
ホッとした所で奴隷少女から、か細い声が聞こえた。
壁に背を押し当てしゃがみ込む少女は、目から涙を溢しながら汚れた身体を震わせていた。いたたまれない彼女に、俺よりも先に仮面の少年がゆっくりと近づいていた。
「お、おい! ちょっと待て! その子はただの奴隷だ!」
危機を感じる俺は、少年を制止しようと声を出した。しかし、少年から出たのは優しい声色だった。
「うん、知ってるよ。大丈夫、僕は彼女を傷つける気は無い」
少年は仮面を外す。
すると銀色の髪の下には優しげで、まだ幼い少年の横顔が見えた。
彼は奴隷少女の前で立ち止まり、纏っていたマントを肩にかけた。
「もう大丈夫。怖かったね」
少年はしゃがみ込み少女の頭を撫でる。
少女はその優しい対応に驚いた様子で、涙濡らした顔を上げた。
その様子をみた少年は、優しい声色で彼女に話しかけた。
「僕の名前はロイス・リド・フリュートル。長いからロイスって呼んでほしい」
「ロイ……ス?」
「そう。安心して、君はもう奴隷じゃ無い。これから君を家まで送る手配をするよ」
彼の言葉に、彼女は更に大泣きしてしまう。それを戸惑った様子のロイスと名乗った少年。
そんな彼等に俺は近づいていく。
「なあ……ロイス君……なんだよな?」
「え……」
俺の呼びかけに、ロイスは振り向いた。
キョトンとした整った顔と向き合い、更に続けた。
「俺だ、覚えているか……って、そう言えば生前の名前は言ってなかったから、言っても分からないか……」
「生……前?」
「ああ、俺達はお互いトラックで死んだよな? あの世でサナエルって天使だか女神だったかに、転生させられて――」
「え……その……まさか……」
「そう! 君の元々の名前はロイス・チェルス。六面立体パズルの世界記録保持者だった! そうだよな!」
その少年……いや、ロイスは驚きの表情を浮かべていた。
その時だった。
「イット!! その人、誰! お友達なの!?」
俺達の間を割って入ってきたのは人間姿のコハルだった。
そう……裸だ。
「「……」」
俺達はコハルの全裸を見て硬直する。
コハルは俺達の表情に気付いていないようだった。
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