第37話 商品知識よ
「それじゃあ仕事するわよ! とりあえず二人とも店の掃除ね!」
「はい!」
「うん、わかった!」
箒とはたきを渡され清掃を始める。
俺達は改めて店の中を見てまわる。
「改めて見ると、やっぱり凄いな……」
はたきながら商品を眺める。箱の中に全長40cm程の無数の剣に自分の顔が映った。
箱のラベルには「ショートソード」と書かれ、タグに「85G」と記載されていた。
教会の中で本物を見る機会がなかったが、どうやら金のような物質を加工して作られた良くあるコインのような形をしている。
85Gという記載に安いのか分からないが、他の大きい斧や槍を見ると「2400G」や「8000G」など、二桁ほど違う商品なども存在する。
「何見てるのイット!」
さっそく掃除に飽きたのかコハルが近づいてくる。
「ああ、商品の配置とか覚えてたんだ。コハルもサボってないで覚えなきゃダメだぞ」
「うん、わかった!」
コハルは覚えているの怪しいが、俺の周りをウロウロと見渡す。
すると徐に棚にあった全長60cmほどの斧を手に持った。
「ほらイット! これカッコいいよ!」
「おい! 商品なんだから触るなって!」
慌ててコハルが持っていた斧を奪うと、
「お、重い!?」
コハルが軽々と持ち上げており、勢いで奪ってしまったが、思いのほか重量感があった。倒れないよう身体を支えるのでようやくだった。
「何遊んでるのよアンタ達!」
俺達が騒いでいるところにアンジュが来る。俺が支えている斧を片手で奪い、軽々と棚へ戻した。
「ありがとうアンジュ。助かったよ」
「まったく、商品は触っても良いけど刃こぼれさせないでよ」
「ごめんなさい……」
先ほどの斧のタグを見ると「80G」と安い商品だった。だが、あの重量に鋭利な刃が付いている造形を見ると、当たったら一溜まりもないのだろうなと容易に想像できる。
しかし、これより高い斧も沢山あり、違う武器もある。
俺が商品を見つめている後ろで、女の子達が話し始めていた。
「それにしても、男のくせに貧弱ね。こんな軽いの物も持てないなんて。枝みたいな腕して、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫! だってイットは凄いんだよ! えっと……そうだ! 魔法が使えるんだよ!」
「へー魔法ね。それじゃあ
「え? えんちゃん?」
「
「うーん……うん! 出来る! よく分からないけど、イットならきっと出来るよ!」
何か変な方向に話が進んでいるが、その話を割って入らせてもらう。
「あのさアンジュ……」
「イット! アンタ
「いや、出来ないけど」
「話が違うじゃない!」
アンジュの満開の笑顔が一気に怒り狂った。コハルを追い掛け始めるが、何を勘違いしたのコハルは楽しそうに逃げ始める。
また店内が荒れるのと話が進まないのでコハルを止め、いつの間にか息が上がったアンジュにもう一度訪ねる。
「あのさアンジュ、聞きたいことあるんだけど」
「はぁ……はぁ……なによ?」
「この商品の値段の違いって何なんだ? 値段が高ければ高いほど、安直な考えだけど強い武器ってこと何だよな?」
「あー、そんなこと」
息を整えたアンジュは話し始める。
「簡単に言っちゃうとイットの言ったとおりよ。少し細かく言うと素材による耐久性。後は武器毎に適した素材を使っているかよ」
「やっぱり素材費の問題か」
「変なところを気にするのね。そうよ。わかりやすく例えるなら、片手剣が冒険者市場で一番人気なんだけど、凡庸性が売りなの。盾を持つことも、もう一本持って二刀流なんてことも出来る。主戦武器を無くした時のサブとして持っとく人もいるわ。比較的小ぶりな武器だし」
「へー、なるほど」
「そう考えると、より軽くて鋭利な方が良いって需要が多くなってくるわ。実際そうなんだけどね。重い片手剣が欲しいって話になったら斧やメイスみたいな鈍器を選べば良いって話になるから」
俺は真剣に彼女の話を聞く。
「逆に似てるけど、全く性質が違う物が両手剣よ」
「両手剣?」
「グレートソードやバスターソードとかが有名ね。ほら、そこの棚にあるやつ」
アンジュが示す先には、150cmや2m程の太い長剣が置かれていた。
こんなの人間が振れるのかよ……
「こういう長剣は、アンタ達みたいな背の高い種族で力自慢の奴が使う武器よ。軽さより振り下ろして叩き切る物だから、片手剣とは真逆で重い素材が好まれるの」
するとアンジュは、自信満々に無い胸を張った。
「でもね、重過ぎると誰も扱えない武器になってしまうわ! その重さを調整し、威力を下げないように加工するのが私達鍛冶士の仕事なのよ!」
なるほどな。
アンジュのお陰で貴重な話が聞けた。
この世界にも当然だが需要と供給の流れがしっかり出来ているみたいだ。
俺達が相手するのは冒険者という短絡的に言うと魔物を倒すことを生業にする人達だ。
たぶん、この武具という商品はその買い手の体格や種族によって武器や防具を選んで行くのだろう。
その知識にも詳しい
「アンタ武器に興味あるの?」
アンジュから質問してくる。
分かりやすく目を活き活きとさせ鼻息も少し荒い。
「あ、う、うん。やっぱりこういう武器とか防具って男心がくすぐられるからさ」
実際そうだった。
ゲームや小説の文章体でしか見て来なかった架空の武器防具が目の前にあるったら楽しくなってしまう。正直言うと、少し振ってみたかったりもする。
「もうしょうがないわね! いいわ! お客さんもいないし、商品知識をつける為にもいろいろ教えてあげる!」
こうして、上機嫌なアンジュ先輩にじっくりがっつり教えてもらった。
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