第27話 最悪な結末よ
「た、食べられた……うそだろ……」
魔神は、魔物の子を丸呑みにした。
今まで一緒に頑張ってきた子を一瞬で……
「ぼーっとしてないで! 生半可な奴じゃないからね! ちょっとおっさん!
「よく知ってるねエルフのお嬢さん。そう、法律違反だが、これは私の護身用だ。知って居る者は限りある人物であり、もし口外する素振りがあれば口止めをするまでよ」
俺はベノムに訪ねた。
「あ、あぐりめんと? って何?」
「今それを説明してる暇はないから簡潔に言うよ。あのオヤジは生贄を使って悪魔と契約して、あの化け物を呼び出した馬鹿ってことさ。悪魔との契約はこの世界で犯罪なんだよ。よく聞け、これからの方針はあの魔神を先に倒すよ! 契約者を先に殺すと魔神の力が暴走して軍の力がないと止められなくなる。最悪近隣の国まで被害が出る」
「そういうことさ! 魔神の力は強大だ! アドバイスしてやると、私を人質にとっても魔神は私が死ぬことで、自由になることを望んでいるからな! ハッハハー!」
「笑ってるんじゃないよオッサン! 曲がりなりにも、商業ギルドでそれなり地位でいるんでしょ! こんなの汚職ってレベルじゃない、犯罪だよ犯罪! 国家反逆罪レベルの犯罪だってば!」
「勝手に我が別荘に乗り込んできた君に言われたくないね~。まあ、何分私はよく狙われる身でね~。私にたてつく奴等を始末するのにも彼は丁度良い。まあ、維持費は掛かるがここの魔物達が生産してくれる肉もあるから上手く成り立っているのさ。私の趣味と相性が良かったよ。君のようなイレギュラーが出てもこうして対処出来るからね」
維持費……魔物達が生産……
俺の中に嫌な想像が渦巻くが、今はそれどころでは無い。
ベノムは頭を押さえ首を横に振る。
「あっそ、良かったね! 行くよ魔物諸君! コイツを引きつけて!」
「ウラァアアアアア!! 言われなくても!!」
「仲間を返せ!! セヤアアアアアア!!」
ベノムは立ち上がり魔神へと駆けて行き、銃を乱射する。
魔神に着弾し、多少は怯んでいる様子だが致命打にはなっていない。
ミノタウロスやケンタウロス、戦える魔物達も向かっていく。剣を翻し魔神の足下へ刃を立てるが弾かれる。
俺も呆けている場合では無い。
「オレ達も魔法を!」
「そうね! 行くわよ!」
飛ばされた魔物達を庇いながら魔法を打ち込む。
「ブモオオオオオオオ!!」
魔神は雄叫びを上げて仰け反った。
その反応を見逃さずにベノムが叫んだ。
「魔法だ! コイツは魔法の耐性が低そうだ! 前衛で動きを封じて魔法で潰せ!」
前で戦う魔物達は注意を引きつけるよう大振りで攻撃を当てていく。
魔神も狙いが定めきれず、なりふり構わず大きな腕を振るうが当たらない。
そうしている間に俺達は魔法を浴びせ、更に魔神を牽制していく。
「……やはり、数が多いか。魔神よ、魔法を撃つアイツ等が先だ!」
城主が一声かけると、魔神は無機質な眼をこちらに向けた。
その刹那、その巨体に似付かわしくない速度で向かってきた。
「あ、足止めが!?」
「君達は皆のフォローを! 私がアイツを引きつける!」
前衛の魔物達がこちらへ向かい、ベノムは魔神へ銃を乱射して向かった。
だが、魔神真っ直ぐこちらへ向かい、すぐに俺達の前へ立ちはだかる。
「きゃあああ!?」
一瞬だった。
腕を数回振るうだけで、魔物達は壁に叩きつけられ血を吐き動かなくなった。
そして、魔神は俺とコハルに向かって腕を振るってきた。
「クソ!」
必死に逃げようとするが、またも矢で受けた痛みが走り上手く動き出せなかった。
黒い腕がこちらに向かってくる。
その時だった。
「え?」
身体が押された。
コハルが俺を蹴り、別々の方向へと飛んだのだ。
俺は難を逃れる距離へ飛んだ。
だが、コハルは魔神の腕をかすり、勢いそ横の壁に叩きつけられた。
「コ、コハル!?」
「逃げて……早く……」
まだ息はあったが、身体を動かすことが出来ない様子だった。
「コハル! おいコハル!」
俺は助けに行こうとするが、魔神はまだ俺を狙い続けた。
城主は魔神に命令する。
「魔神よ! あのガキは少し厄介だ。捕まえて食え!」
魔神の手が俺に伸びる。
今度こそかわせない。
「ぼーっとすんなって言っただろうが!」
駆けて来たベノムは、俺を更に蹴り押し壁に向かって吹き飛ばした。
「ベノム!」
「私の今の装備じゃ役に立たない! とにかく魔法を! 魔法を撃て! 今はもう君しか――」
ベノムは言葉の途中で魔神に取り押さえられた。城主はご機嫌に指示を出す。
「いいぞ魔神! 一番厄介そうなエルフを捕まえたか! 好きに料理して構わん!」
魔神はベノムの足を持って壁や床に叩きつけていく。
ベノムは呻きと血を吐きながら皮鎧を壊されていく。
動ける魔物達も助けようと向かうが、暴れる魔神に近寄ることが出来ない。
ベノムに被弾する恐れがある為、魔法を撃つことも……
「ベノム!」
しばらく振り回され、力尽きたように吊るされる彼女の姿があった。
「クソ! ベノムを離せ!
詠唱しようとしたその時、魔神は俺との間に力尽きたベノムを向けた。
まるで射線を理解しているかのように突き出す光景を見て俺は嫌な汗が出た。
この魔神にはちゃんと知性がある。
どうすれば攻撃されないかを理解し、相手の心情も理解しているみたいだ。
俺達の様子を見た魔神は、嫌な笑みを浮かべるように歯を剥き出した。
奴はベノムの身体を舌で絡め、口に入れたり出したりを繰り返し始める。
鎧や装備を剥がし、女の身体や血を楽しんでいるようにも見えた。
やがて魔神は口を大きく開け、ベノムを放り込んだ。
「あ……」
誰もが言葉を失った。
あれだけ強かったベノムが、糸の切れた人形のように無抵抗で投げ込まれ……
そして……
彼女は食べられてしまった。
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