第26話 命だけは助けてやるよ
口元から白い粘液を漏らし、虚ろな表情でマチルダは喉を詰まらせながら声を出す。
「イット……どうして……ここまで」
「マチルダを助けに来たんだ! 今ソイツを倒して――」
「ハーハッハ! 私を倒す? この魔物一匹の為に徒党を組んで兵達を倒しながら? 冗談がきついな。寧ろ倒されるのは君だ。私は君の心を砕く為に、わざわざここで暇を潰しながら待っていたんだよ! この目をやってくれた罪は重いぞ」
笑い飛ばす城主に怒りが込み上げてくる。
「良いからマチルダから離れろ! そうすれば命だけは助けてやる!」
「命だけは? そうかそうか君は私を倒せると思っているのか」
「当たり前だ。兵士達は全員倒した。そして俺はマジもんの勇者だ! 裸同然のお前に何が出来る?」
「ハハ! 裸で何が出来るか? こんなことが出来るぞ!」
城主は肩をマチルダに回すと、唐突に彼女の胸を鷲掴みにした。
「ッ……」
「な!?」
「ハーッハハハハ! 魔物でなければ上等な女だったろうに、全くこの世界の女神は何をもってこんな異形共をお作りになったのか……本当に妖艶で最高な悪趣味を持っていらっしゃる」
乱暴に、俺等に見せつけるように揉みしだく城主。苦痛な表情をするマチルダを顧みずコイツは続けた。
「どうだ? この魔物は君の母親みたいなものなんだろ?」
「……」
「憎い男がママを好き勝手されるのを見て殺したいか? 殺したいよな! さっきまでお前も聞いたことが無いような声でママは喘いでいたんだぞ! 想像してみろ、大好きなママがお前の名前を泣きながら叫び、めちゃくちゃにされる様をな! ハハハハハ!」
「お前……」
「イット! コイツに乗せられないで……私は……良いから逃げなさい……皆もイット連れて逃げて、お願い……コイツは、ま――」
「ハッハッハッハ! そうだ逃げた方が良いぞイット君! そうすれば、私の館をめちゃくちゃにしたことも、私の目の件も特別に許してやろう! 私の慈悲深さに涙しながら、ママを見殺しにして逃げたこと一生心に刻んで生き続けていろ! そうすればこの場で死ぬよりマシだ!」
高笑いする城主。
すると、俺の肩をベノムが叩く。
「冷静になれ……なんて言えないね。コイツを血祭りに上げないとお姉さんも腹の虫が治まらなくなってきたよ」
「……ベノム」
「ああ、迷うことは無い。大丈夫、たとえ罠でも私が全力でバックアップしてやるよ!」
「……ああ! アイツは、アイツは絶対に殺す! いくぞ皆!」
俺の掛け声と共に皆が構える。
その時だった――
「「きゃああああああ!?」」
廊下から複数の悲鳴が聞こえた。
「い、今のは!?」
「廊下からってことは待機組の奴らが!? 後ろの部屋に隠れて――」
ベノムの声をかき消し、部屋の壁が吹き飛んだ。まるで爆発したかのように大理石の壁が砕かれ、巨大な黒い塊が姿を現した。
「ブモオオオオオオオ!!」
牛のような豚のような雄叫びを上げる巨体の魔物が現れた。
「デ、デカい……」
大きさは5メートル程。
人間の様な二足歩行の黒い体表。
丸太のような手足に、馬の頭をした巨人だった。
「あれが、皆が言っていた巨体の魔物!?」
「――違う!? あれは魔物じゃ無い!」
「え?」
「アイツは魔神だ!」
ベノムが叫んだ時、巨体の魔物……いや、魔神? が両手に掴んでいた魔物の娘をこちらに投げつけてきた。
「いやああああああ!?」
無抵抗に投げつけられた彼女等を俺達は受け止めるが、勢いを殺せず一緒に吹き飛ばされていく。
「イットオオオオオオ!?」
「コハル!? お前も……ウッ!?」
コハルも一緒に飛ばされてきた。咄嗟に受け止めるが後ろに転がり倒れてしまった。
「いやああああああ!? 誰か助けてええええええ!?」
一人の魔物の子が魔神に摘まみ上げられ口を大きく開けていた。
「いやああああああ誰かああああああ……」
そのまま口の中へ運ばれ、丸呑みにされてしまった。唖然とする俺達を見た城主は、楽しそうな顔を見せた。
「イット君! 降伏するなら命だけは助けてやるよ!」
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