第22話 責任の天秤よ

『それじゃあ、これで全員揃ったってことかな? それにしても、こんなにも魔物が集まっている光景は不気味なものだね』


 心ない感想を述べるベノムは置いて、20人程の魔物達に俺から提案を持ち出した。


「これから皆で逃げようと思うんだ。その為にこのベノムって人と俺は契約した。この人は本当に強いから、今度こそ皆をこの屋敷から逃がすことが出来ると思う」


 その言葉にざわつき、希望の光が目に灯る者が多く見えた。

 だが、中にはそうでない者がいた。

 ケンタウロスの娘が訪ねてくる。


「なあイット。その者と契約したというのが気になるのだが……」


 話す必要はないと思っていたが、隠すこともないので伝えておこう。


「二つあるんだ。一つはここの皆を逃がすルートを確保してもらう分の報酬。ちょっと待ってて」


 俺は地面に手を突き魔法元素キューブを浮かべる。片手でブロックを弾いていき数十秒で六面を完成させた。


解析魔法アナライズ!」


 呪文を唱えると青い光の線が走り、立体的な建物の設計図が浮かび上がった。

 魔物達は驚き皆一歩後ろに下がった所で、俺は話を始めた。


「ここは……俺達が捕まっていた建物だ。どうやら元々マチルダの物だったみたいなんだけど」


 それを聞いた魔物達から戸惑いが漏れる。

 当然だろう、俺も知らなかった。

 本当に誰にも言っていなかったのかと思っていたが、中には落ち着いた面持ちの者もいて、もしかしたらそのことを知っていた者もいたのかもしれない。

 話を続けよう。


「皆、この部分を見て欲しい」


 俺が浮かび上がった設計図の一部を指さす。そこは場所的に建物の三階一角の部屋だった。その部屋には多くの黄色い光の球が光り輝いていた。

 ベノム曰く、この黄色い光は凝縮された魔力の痕跡であり、罠であったり魔道具マジックアイテムと言われる高値で取り引きされる物、この世界では金にも魔力が宿っている為、それらの反応だそうだ。

 彼女の経験上これは宝の山で間違いないだろうと予想していた。


「ここに、マチルダの……いや、今はもしかしたらあの城主の所有物かもしれない金品とかかがある。それをこの人への依頼対価にしようと思う」


 その為に、俺は必然的にベノムへ協力する必要がある。

 ベノムは魔物達の逃亡を優先してくれると約束してくれた。その峰を伝えると、皆はまばらに納得の意思を示してくれた。先ほど質問してきた子が更に問いかけてくる。


「それで、もう一つの契約とはなんだ? まだ何かこの人に依頼を?」

「うん……マチルダも救ってほしいって依頼したんだ……」


 その言葉に、魔物達静まる。


「な、なあ……そう言えばマチルダはどうしたんだよ? 話だとイットとその子を追って行ったて……」


 いつも勝ち気な魔物の一人が言葉に出す。

 それに答える為、浮かんだ設計図を俺は指さした。


「さっきまで動く魔力の反応があったんだ。魔法が使える兵士がいなければ、これはマチルダの反応だと思うだけど……」

「い、いや……動いてる反応なんてアタシには見当たらねぇけど……」

「三階で魔力の反応がなくなったんだ……捕まったんだと思う」


 いや、思いたいと言うのが本音だ。

 生きているか死んでいるかは、この魔法では判断できない。

 他の魔物から質問が飛んでくる


「そもそも、何でマチルダは貴方達とはぐれたの? 彼女はそんなヘマをしそうじゃないし、皆で逃げるなら分断する必要なかったんじゃない? もしかして私達の為に囮を買って出たのかしら?」

「……半分あってるよ。彼女はここの城主を殺しに行ったんだ。自分達が逃げても、また魔物の女の子達が捕らえられて新しい犠牲者を増やしていく。だから食い止めたいって……」


 それを伝えると魔物達はまた静まる。

 心境は様々だろう。

 自分達だけのことで精一杯。

 マチルダに賛同したい。

 その為に命を掛けるなんてありえない。

 全部間違ってはいない。だからこそこれは皆に聞かないとダメだった。


『これに関しては、私から話すよ』


 突然ベノムが横から入ってくる。

 そして、ガスマスク越しにとんでもないことを言ってきた。


『私はイットを配下へおくことに決めた。その上で貴方達に判断してもらうことに』


 沈黙が広がる。

 俺がベノムの配下に着くという時点で困惑の表情を見せる者もいるが、更に話が続く。


『盗みの話なら私の十八番。場所さえ分かれば勝手にやっとくよ。しかし捕らわれた奴の救助はとても骨が折れる。しかもしかも、君達のお守りをしながらなんて、ここの兵士達の数からして不可能だ。報酬量を倍もらっても本来なら受けたくない仕事だね』


 溜め息交じりにベノムは首を横に振る。


『ただ状況は特殊だ。君達は魔物。戦えなくても人間より優れた能力を持っている。あのラミアを救う為には、君達の力が必要になってくるわけ。そこでイット、彼関連の条件をここの皆さんに提示しよう』


 俺を指さすベノム。

 そして、軽口で彼女は続けた。


「皆の力で救い出すと君達が選ぶのなら、彼をちゃんと人族側に招き入れよう。今後の教育や隣国へ入国し、市民権やら諸々の手続きを私が引き受けてやっても良い。彼は今後人としての人生をちゃんと歩むんだ」


 魔物の中の一人が訪ねる。


「確かにイットがちゃんと生きてくれるのは嬉しい……しかし、それは私達にとってリスクが大きい……」

『そうだね。君達も死ぬリスクが付いてくる。というか、その可能性が高いだろう。失敗して運良く生かされるとしても、今度は人間達に手足をもぎ取られ、本当の性玩具にされるかもしれないかもね』

「……もし、マチルダの救出を断ったらどうする気だ?」

『君達を逃がした後に、イットを殺す』

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