第19話 SOS信号よ
「その反応は知っているってこと? 話してくれるかな?」
少し気持ちが落ちつき、俺は着色せず話した。ロイスとは天国みたいな所で出会い、そして例の大天使(自称)のサナエルによって一緒にこの世界へ送られた少年だということ。
俺はこの暗殺者みたいな姿のエルフの姉ちゃんに訪ねる。
「何でロイスのことを知っているんだ? 面識があるのか?」
「……それは、今の君に答える必要が無い」
黙秘と言うことか。
彼女はしばらく顎に手を当て考える素振りを見せていた。特にもう質問がないなら俺から質問しよう。
「貴方は何者なんだ? 何故オレみたいな転生してきた奴らを知ってる?」
「……」
「答える必要が無いってことか? ならもう一つ質問するぞ。何故今の話を聞いて、アンタはオレを殺そうという決断に至ったかどうかだ。どうだ?」
「そうだね……脅しのつもりだったけど確かに現状を考えると厄介な状況かもしれない」
そう言うとエルフは懐からナイフを取り出し逆手で構えた。
「今のうちに消しておくのも、有りかもね」
軽く言って見せるが、エルフは更に姿勢を低くする。
素人でも隙が全くない切れの良い動きに、俺達は下手に動けなかった。
女の子は怯えながらも俺を庇おうとしているのか、俺の身体を押し後ろに下がらせてくる。有り難いけれど、すでに覚悟は決まっている……
「オレは殺されても構わないよ。元々オレに存在価値なんてないし……でも条件がある」
通じるか分からないが、ただで何か死にたくなかった。言わないという選択しはない。
「ここに捕らわれている魔物達を助けてからにして欲しいんだ」
「……はぁ?」
間抜けな声を上げるエルフだったが、聞き返してくる。
「魔物って、あの地下牢に閉じ込められた性奴隷達のことかい?」
「そう。兵士達を一瞬で倒した貴方の力なら、他の子達も逃がせる気がするんだ。だから――」
「はは!」
エルフは笑った。
「まず君さ、それ条件になってないよ。それは君が私と対等な立場にいる時に言えることさ。たとえ転生した勇者で、魔法適正を持っていたとしても、私に敵う訳が……」
「なら、これはお願いだ!」
俺は勢いよくしゃがみ込む。
「死ぬ前の最後のお願いだ!」
足を揃え、手を揃え、そして額を地面にこすりつけた。
「な、なっ!?」
「イット!?」
二人の女の子は同時に驚く。
異世界にこの文化が通じるのか分からなかったが、もう勢いと度胸で何とかゴリ押すしかなかった。
俺は渾身の土下座を繰り出した。
「オレにとって、あの人達は大切な! とても大切な! 家族みたいな人達なんだ! だからお願いだ! オレの命だったらいくらでも渡す! 頼む、皆をここから逃がすのを手伝って欲しいんだ!」
一度エルフを見ると口を開けたまま困惑した様子で固まっていた。
俺は最後にもう一度地面へ頭をぶつけた。
「お願いします!!」
無様であろう。
本当に自分の無力さを呪いたくなる。
でも、この幼い身体出来る精一杯は、全力で懇願すること以外の最善策なんて考えられなかった。
「……君」
しばらくの間を置いてエルフは驚いた様子で――
「今まで歴代の転生者の中で……君、一番ダサいね。可愛そうなぐらいクソダサだよ……こんなの初めてだから、お姉さん驚いちゃった。何か哀れすぎて悲しくなってきっちゃったよ」
違う意味で泣けてきた。
何か本当に死にたくなってきた。
いっそスッパリ殺して欲しい。
「でも……今までの奴等よりかは、マシな気がする。他の奴らは鼻につくというか、こんなに必死じゃなくて、どこか斜に構えたタイプしかいなかったからね。ふむやれやれ、みたいなことを言ってくる生意気なガキばっかりでさ」
「そ、それじゃあ!」
「元々、私がここに来た目的は違うからね。君を殺すのは最後にしてあげるよ」
結局俺は殺されるんだな。
「私がここに潜入した理由は、コイツを発見したからさ」
エルフは、懐から一匹のネズミを取り出した。ネズミは大人しく首根っこを掴み上げられ、こちらに向けられた。
「うわ!?」
「コイツは
エルフがそう言うと、ネズミの背中を一回撫でた。
すると、いきなり青い光線がペンで描かれるように空中へ浮かび上がる。
凄い……まるでファンタジーみたいだ。
いや、ここはファンタジーか。
その青い光線は紙に書かれた何らかの文字のような記号列を映し出す。
「君は……この文字が読めないか」
「は、はい」
「ここには、こう書かれている」
右から左へ指で記号をたどる。
エルフの話によると、どうやら俺達のいるこの屋敷の地下に宝がある。それを開ける鍵もそこにある。
と、胡散臭いほど単純な文章が書かれているそうだ。
「で、この如何にも怪しい文章を拾った私の組織は、一応調査しにこの屋敷へ来たのさ。ここの城主の汚職でもあるのかと思ったら、悪趣味な性奴隷達ってわけ。興醒めだよね……」
「で、でも……何でそんなネズミが? ここのことを誰が……」
「たぶん、さっき出て行ったラミアの仕業だと思うね」
俺の質問にエルフは、ネズミを見ながら溜め息を吐く。
「どうやら、あのラミアに一杯食わされたみたいだね。
「……」
いつの間にマチルダは、そんなことをやっていたんだ。
疑っていた訳ではないが、彼女も自分の出来ることをやっていたみたいだ。
それと気になることも出来た。
「あ、あの……ならず者って、やはり貴方はいったい……」
「そうだね。ここらで自己紹介といこうか」
エルフはネズミをしまい話し始めた。
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