第15話 裁きの鉄槌よ

「おいおい、ぶつぶつと独り言を言ってどうしたんだいイット君? 頭を蹴りすぎて、気でも狂ってしまったのか? あっはっはっはははは!」


 大人達の下品な笑い声が聞こえる。

 人を馬鹿にした笑い。

 自分より格下へ放つ笑いだ。


「もう……お前達に屈しない」

「ん? 聞こえないな~何か言ったか?」

「オレは……勇者だ」

「……は?」


 俺は男を睨み付ける。

 この理不尽な世界に対しても――


「オレはこの世界の魔王を……この世の悪を裁きに来た使者だ」


 場は静まり返るが、やがて男達は笑い転げ始める。


「ひぃーひひー! ダメだ笑える! 面白いことを言ってくれるじゃないかイット君! 本当に頭がおかしくなったんだな! 可愛そうにな! あっはー!」

「お前に……勇者のオレから裁きの鉄槌を食らわしてやるよ」

「面白い! やれるもんならやってみろよ勇者様! この可愛いお姫様が犯されないように足掻いて見せろ!」


 嘲笑うように大きな顔を俺へと近づける城主。その顔は、どうぞやってみろと無力な相手に見せる顔だ。

 生前、小売業をやっていた時に同じ顔を見たことがある。

 悪質なクレームを入れてきた客と同じ顔だ。俺等従業員の立場を利用し、調子に乗って好き放題言って土下座させようとしてくる時の顔だ。

 あの時は奥歯を食いしばって耐えていたが、よく見るとこんなにもアホ面をしていたんだなと、生まれ変わってから実感した。

 慢心に溺れた奴を誘導出来たことに、内心ほくそ笑んでしまう。


「それじゃ……ちゃんと見てろよ」


 俺は両手を城主の眼前へ向ける。

 魔法元素キューブを展開した。


「……え?」


 一同が驚いたのであろう。

 でも、俺は気にせず一面だけを数秒で完成させる。


「君は目を閉じて!」


 女の子に叫び掛ける。

 驚いていた彼女だったが、言われた通り目を閉じたのを確認する。


小さな火花リトル・スパーク!!」


 俺も目を閉じて思いっきりの言葉と共に魔法は発動した。

 マチルダに見せた時よりも明らかに大きな火花が部屋中に広がった。

 近くに居ただけの看守や兵達が腕で目を隠し、火花が収まった後でも足下をふらつかせながら壁に手を突いていた。


「目が! 目がああああああ!」


 そして、最も光の根源に近かった城主は目を押さえ叫び上がる。

 抑える目共から煙が上がっているのが見え焦げた匂いが漂っていた。


「行こう!」


 俺は、城主が手を離した女の子の腕を握る。それに気付いた女の子は、一生懸命頷き一緒に引っ張られてくれた。

 裸だが今は気にしている場合ではない。

 彼女を連れて檻の外へと抜け出した。


「に、逃がすな! 追え! 追ええええ!」


 俺達の逃亡に気付いた看守のおっさんは、兵達に指示を仰いでいるのが後ろから聞こえてくる。

 もう後には引けない。

 俺は、女の子の手を強く握った。

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