チュートリアルステージ:天国での講義
第2話 神の手を持つ少年よ
「……ん?」
気づくと白い世界に居た。
どうやら椅子に座らされていたらしく、服は轢かれた直前までのままだ。
「ここは……何処だ?」
俺はトラックに轢かれて死んだはずだ。
まさか、ここは……天国?
頬を抓ると痛い。
夢ではない。
いや、頬を抓ると痛いと感じる夢なのかもしれない……
「あ、貴方も気が付いたのですか?」
「うわ!?」
突然横から声を掛けられる。
すぐに振り向くと、そこには顔立ちの整った茶髪に青眼の少年が俺と同じように座っていた。見た感じ外国人だった。
「お、驚かせてすみません。貴方はアジア人の方ですか?」
「あ、あ、はい! え、えっと……は、はわゆー?」
「はわゆ? ああ、大丈夫! 言葉は通じてるみたいですよ」
……本当だ、通じている。
当然だが彼はちゃんと服を着てる。
半袖短パンの如何にも少年が着てそうな格好だ。
彼は色白だしパッと見では白人に見えるが、あまりに流暢な日本語を使っていた。
たぶんまだ若いけど、十代後半ぐらいだろうか?
ハーフなのかもしれない。
……いや、ちょっと待て。
この白人少年、何かで見た記憶が――
「もしかして、君はロイス・チェルス!?」
「僕のことを知っているんですか?」
「し、知ってるも何も、今年の夏の立体パズル世界大会で世界新記録を塗り替えた! あのロイス・チェルスを知らない訳ないでしょ!」
俺は思わず声を上げてしまう。
これが夢だとしても最高だ。
まさか、立体パズルの業界において、人間の限界と言われた4秒6の壁を超え、まさかの4秒ジャストで一個のキューブを完成させた神童。キューバー(立体六面パズルを嗜むユーザー)なら知らない人なんていない。神の手と言われた若き伝説。
超有名人が、何故か俺の前にいるのだ?
「貴方もキューブを嗜んでいるんだね? こんな所でキューバーに会えるなんて光栄です! 改めまして、知ってるとは思うけど僕の名前はロイス・チェルス。よろしくお願いします!」
礼儀正しい言葉使いであることもあるが、何か王者の風格のようなものを感じる。
そして、そんな彼が手を差し伸べてきてくれた。俺は年甲斐もなくはしゃいでしまう。
「世界大会は動画で見てたよ! こちらこそ会えて光栄だ!」
神の手を両手で強く握ってしまう。
凄い……まさかこんな雲の上の人物と握手してしまうとは。
「そう言えば、貴方の名前は?」
「あ、えっと――」
ロイス君が俺の名前を尋ね、答えようとした瞬間だった。
”はーい! お待たせでーす!”
どこからともなく声が響いた。
その刹那、俺達の目の前が光り輝く。
「うわ!?」
「まぶしい!?」
俺達は目を覆うと光が収束していく。
光は人の形を取り始め、光の中から羽の生えた女の子が現れた。
女の子の顔は世離れした美しく整い、白髪の長く綺麗な髪に金色の目。白い布をしなやかな身体に纏い、金色の輪っかを頭の上に浮かべていた。
まるで天使のような……いや、思いっきり天使の姿をした十代前半程の美少女が現れた。光が収まり、天使は得意げに話しかけてくる。
「えー、よくぞ来てくれたのです。若き勇者達よ!」
突然現れたと思ったら、いきなり突っ込みどころが多い台詞。
何処から手を出せば良いか分からないが、とにかく確認からしていこう。
「俺は別にこんな場所へ来たくて来た訳じゃないぞ! ここは何処なんだ? 俺はトラックに轢かれた瞬間、何故よくわからないがここに来たんだ!」
俺の言葉に天使ではなく、隣のロイス君が反応した。
「え!? 貴方もトラックに轢かれたんですか?」
「え? ロイス君もトラックに?」
「は、はいそうです!」
どうやら、ロイス君も俺と同じようにトラックに轢かれたようだ。
す天使は俺達の反応に笑顔を見せ頷く。
「そうですよー! 貴方達二人は不慮の事故で死んでしまったのです! ここはイデア! 人間さん達が言うところの天国です!」
俺達二人は言葉を失った。
マジかよ……本当に天国なんてあったのかよ……
天使は話を続ける。
「申し遅れました! 私はこの前、転生課に配属となりました大天使のサナエルです! 貴方達、二名は事故死してしまいました。このまま天国の裁判にて天国に移住するか、地獄に落ちるかを決めるのですが……」
一つ間を置くと、自称大天使は元気良く手を挙げる。
「この度! 別の世界に転生して、世界を征服する恐怖の魔王を倒してもらうこととなりました! ワーパチパチー!」
「「……」」
話に着いていけない。
それはロイス君も同じようで、二人してポカンと開いた口が閉じないでいる。
俺達の様子を窺うことなく大天使は頷く。
「よし! それじゃあさっそく、別世界へ、レッツー……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
もの凄く意気込んでいる大天使を慌てて俺は制止した。
「どうしたのですか?」
「いやいや! もっと詳しく説明してくれ! いきなり過ぎて訳が分からん!」
わかってます冗談ですよと笑う大天使。と言うわけで、若干の軽いノリにイラッとしたが、俺は根掘り葉掘り聞き出した。
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