World 0→? date.12.24 伊勢崎 心

 目が覚めると、俺は三宅坂駅のホームにいた。座っているのは備え付けのベンチ。さっきと何も変わりはない。一つだけ違っていることがある。それは


「クリスマスケーキが売っている、ということは……」


 目の前を行き交う人たちの熱気が違う。持っている袋もクリスマス仕様のものが多い。俺は慌ててスマホを確認した。


「12月24日。ということは……」


 あの日だ、あの娘が自ら命を絶ったあの日。俺は戻ってこれたんだ、絶対に過去を変えてみせる、たとえこの命と引き換えになろうとも。

 俺はあの娘がいそうな場所を片っ端から探し続けた。

 運命の時は6:10。それまでに見つけなければならない。

 しかし、いくら探しても見つからない。夕方のホームは人でごった返しており、制服を着ている女子高校生も数多くいる。このままではせっかく戻れたのにあの娘を助けることができない。


「あと10分しかない……」


 そのとき


「あ」


 肩までストンと落ちた黒髪を見つけた俺は、人混みをかき分けてその後ろ姿を追いかけた。周りの人をどかしながら、ずんずんと俺は距離を縮める。そして、力一杯その人の手を握り、引っ張る。


「痛いっ」


 振り返った女子高校生を見て、俺は思わず目を丸くした。


「あ、すんません」


 鋭い目をした女子高校生は不審な表情を浮かべて、俺から離れていった。人違いだった。

 

 俺は思わずベンチに腰掛けた。

 おかしい、確かにこの時間だったはずなのに、なんでいないんだ? 俺はそのとき初めて、得体のしれない存在に自分の命を預けてしまったことを後悔していた。


——やられた、あいつは最初から俺を騙すつもりだったんだ——


 俺は思わずベンチでうなだれた。その横から突如予想もしなかった声が聞こえてきた。


「あーあ、つまんねえな」


 あいつだ。俺を騙して俺の心を弄んだやつだ。


「お前、俺を騙したな」

「騙した? 人聞きの悪い。俺はお前の望みを叶えてやったよ」

「あの娘はどこにもいないじゃないか」

「さあな、やっぱやめたんじゃねーの? そんなの知るか」


 その後も男はぶつぶつと呟きながら、お前が落ちれば命が……とかなんとか言っていたが、そんなことはもう俺には関係なかった。

 俺はふつふつと込み上げた怒りを抑えきれず、俺は黙って男に背を向けると、改札口へ向かって歩き出した。

 だが、これでは終われない。一つだけ聞きたいことがあった俺は立ち止まり、振り返った。


「一つだけ聞きたいことがある」


 言いかけて俺は止まった。

 そこには男はいなかった。

 代わりに立っていた人を見て思わず言葉を失った。 


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