第14話「《ロールチェンジ》」

その後、なんだかんだでシンヤはミユの戦闘に付き合った。


《ファイターモンキー》の他にも、防御力に特化したカタツムリ系のエネミー《ディフェンスカルゴ》やスピードに特化した虎系のエネミー《ストリームパンサー》等といったエネミーと交戦し、ミユのレベルが2は上がったところで、目的地に辿り着いた。


規則正しく並べられた6本の針葉樹。中央の『なにか』を四角で囲むように植えられているその場所こそ、ミユが苦戦したという準ボス級エネミー《アレクルイトナカイ》が見張るかのように徘徊している場所だ。そのトナカイを倒すと、ボス級エネミー《ドシャクズレオオウシ》がいる別エリアに転送する機能を持つ《マナ結晶》が、大気中に漂っているマナから形成される。



「そういえば、ミユ。取り敢えずここまでは1人で来れていたんだよな?」


「うむ。だけど《ディフェンスカルゴ》は双短剣での討伐が難しいから、ある程度は逃げてきたんだけどね」


「それはいい。それで、あのトナカイに勝てない理由はなんだったんだ?」



シンヤとミユは茂みに隠れて話をしていた。シンヤの指差すその先にいるトナカイは準ボスであっても、発見次第すぐに襲い掛かってくるかなり好戦的な準ボス級エネミーだ。


ある意味では、そこが最も現実的な点であり、現実においてのエネミー討伐はどんなエネミーも見境なく人間を攻撃する。


姿はトナカイといっても、実在しているトナカイよりも桁違いで大きい。最大の武器は鋭利な枝のように先端が分岐して尖ったツノではあるが、突進の勢いだけでもミユの命力を4割は削ってくるだろう。


まさにミユはそこに苦戦していたようだ。



「あのトナカイ、半端ないくらいの勢いで突進してくるでしょ? 避けようにも大きすぎて避けきれないし、ガードしようにも双短剣じゃぁガードブレイクされちゃうだけだし……」


「成る程。それじゃあ、俺が《ディフェンスシフト》で囮になるか。あまり得意じゃないんだが、仕方ないな」



シンヤはそう言いながら携帯端末を取り出すと、操作を始めた。


シンヤがこの世界で目覚めたばかりの時にはなかった技術。最近になって新技術として導入された《ロールチェンジ》は、エネミーと戦闘になっていない状態であれば《アタックシフト》と《ディフェンスシフト》で切り替えられる、というものだ。


この技術は近接戦闘を選んでいる戦闘員にだけ使える技術ではあるが、どうしてもスキルの振り方でどちらかに特化してしまうという難点がある。


もちろん、両方とも平等にスキル構成を考えることもできるが、その代わりに「ここぞ」という時には役に立たないこともある。よって、この《ロールチェンジ》がありながらも、戦闘管理局は集団での戦闘を推奨している。


シンヤが携帯端末で《ロールチェンジ》を発動させると、戦闘服がマナの吸収を始め、耐衝撃のプレートを身体の至るところに形成した。《アタックシフト》の時ではコート調だった戦闘服に軽鎧が追加された格好だ。


《アタックシフト》時のメインウェポンとして使っている《エリアルブレード》はマナ粒子に変わり、そしてまたシンヤの左腰に集って形を変え、広い横幅が特徴な《ディフェンダー・プロ》という剣に変わった。



「え、いいの!? ありがとー!」



ミユは最初からこれを狙っていたわけではないのだろうが、防御役がいるのといないのとでは攻撃の勝手が違う。だから素直に礼を言った。



「その代わり、ちゃんと攻めろよ? わかってるとは思うけど手数が減るからな」


「もちろん! さあ、行こっ!」



2人は《アレクルイトナカイ》の方へ走っていき、戦闘を開始した。

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