第1章「戦う理由」
第11話「待ち合わせ」
藤堂シンヤが病院で目覚め、山科ユウの弟子となって戦闘員になる為の修行を始めてから1年半の月日がが過ぎた。
最初こそ敵から逃げ回ってはユウに笑われた続けたシンヤだったが、1年も過ぎた頃には戦闘に慣れて
それから半年の間は自主訓練。時折、ユウから出される課題に挑戦している。
そんな日常が続いたある日のこと。訓練を終えて自宅で入浴を済ませたシンヤは、携帯端末に1件のメールが入っていることに気付く。
「ん……? また課題か?」
そう思ってメールを開いてみると、やはり差出人はユウだった。しかし、その内容はいつもと少し違っていた。
「…………」
その内容とは「卒業試験を半年後に行う」というものだった。試験内容はその日になって決められるようだが、今の状態に満足せず、更なる高み、強さを目指せとも記されていた。
本来なら、その内容を確認したことをユウに返信するべきなのだろうが、山科ユウという人間は基本的に既読されていることを前提に行動するので、返そうが返さまいが何も変わらない。
シンヤは壁に取り付けられたデジタルカレンダーのスケジューラー機能を起動させ、半年後の指定された日に『卒業試験』と打ち込んだ。
続いて夕食の準備を始めた。準備といっても、自分で調理するわけではない。アレルギーや苦手なものを予め入力したデータに基づいて『フードメイカー』という全自動調理マシンが、カロリーコントロールをした食事を出してくれる。
もちろん、異物などが入ってしまうと人体に影響を及ぼしてしまうので、定期的に業者によるメンテナンスが必要となるが、料理をしなくて良いというのは、忙しい人間や独身にとってはありがたいものである。
テレビを見ながら、出された和食を食べ終わって歯を磨き、明日に予定されている防衛任務に備えて、シンヤは早めに寝ることにした。
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翌日の早朝。午前6時にアラームが鳴って目覚めたシンヤは、トースターを使って焼いた食パンで朝食を済ませてゲームにログインした。
普通に見ればかなり自堕落な生活に見えるが、戦闘準備も仕事のうち。仮想世界内にある受付で、ゲーム内でもそこそこの難易度を誇る任務を受注すると、テレポーターに乗って任務地へテレポートした。
任務地へのテレポートは、何故か地上ではなく空中に放り出される。ゲーム内なので上手く着地をすればダメージはゼロだが、下手な着地をすれば、死にはしないが痛みとダメージを受けることになる。
何度も何度も罵倒されながら練習した着地に今更、シンヤが失敗するわけもなかった。
「……よし」
黒いコート調の戦闘服の所々にあるラインに青い流体が流れているのを確認し、左の腰に下げられた、柄と鞘が灰色で染まった片手剣……《エリアルブレード》にそっと左手で触れて存在を確かめると、生い茂った草を踏んで森林の中を歩き始めた。
今回の目的は「この任務をクリアすること」ではない。数日前から、この任務に挑戦している人の手助けをすることだ。
森林エリアには案外、特徴的な目印となるものがある。例えば「絶対に存在しないだろ」と思えるくらい無駄にでかいドングリの木。シンヤはそこである人と待ち合わせをしていた。
遠くから見ると、そこにまだ人はいない。「またか……」と思いつつも、その大きなドングリの木に近付く。
「………?」
木陰に腰を降ろそうとした瞬間、明確な殺気を感じた。
「せやぁぁっ!!」
殺気が溢れ出ている方向を見ると、猛スピードで襲ってくる影が1つ。相手は女で、短剣二刀流の武装であることが確認できた。
特に焦ることもなく、すぐに対応したシンヤは《エリアルブレード》を抜き放って防御の姿勢を取りつつも、中に挿入されている《攻撃力上昇》のチップを起動。武器から発する目に見えない命令にマナが従って、戦闘服のラインを流れる青い流体が活性化し、筋力が上昇する。
短剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
しかし、筋力の上昇を利用した跳ね返しに、襲撃者はバランスを崩した。
その隙を逃さずに仕留めようとするシンヤのなぎ払いにどうにか身を屈んで躱し、アクロバティックな動きで距離を取った。
「…………」
「まだまだ! これなら、どうだ!」
相手の出方を伺うこともなく、襲撃者は二刀流の小剣を生かして、双小剣技6連撃……《バタフライ・ダンス》を発動。
蜜の香りに誘われ、花畑の上を舞い飛ぶ蝶々の舞を彷彿させる多方向からの華麗な連撃に、シンヤはことごとく切り払って攻撃を躱した。
6連撃を全て払ったところで、襲撃者がまだ空中にいる隙を逃さず、今度は弓矢を放つような姿勢を取って、すぐに片手剣技基本の1つ、1撃技……《ソードライン》を発動。
高速で突進してくる剣先を襲撃者はどうにか防ぐが、その代償として着地に失敗。更にその隙を突いて折り返してきた剣先の突進に反応できず、目をぎゅっと瞑った。
「……むぅ?」
いつまでも刺される気配が感じられなかった襲撃者は目を恐る恐る開けると、シンヤが持つ《エリアルブレード》の白い剣先が喉元で止まっている。
「ふぅ。今回も俺の勝ちだな」
「あー、完璧に私の負けだわ。認める!」
シンヤは1歩後ろに下がり、柄から剣先にかけて灰色から白色へと色が薄くなっていくようなデザインとなっている《エリアルブレード》を少し眺めてから、鞘にしまい込んだ。
「ったく、私より剣が大事!?」
「ん、ああ。悪い悪い……!」
襲撃者の女性は、すぐに手を差し伸べてくれると期待したのだろう。そんな期待を裏切ったシンヤにそれを指摘すると、シンヤは慌てて彼女に手を差し伸べた。
「ん、ありがとっと!」
そう言いつつも、身軽である彼女はほとんどシンヤの力を借りずに立ち上がると、ホットパンツと露出した腿についた土や葉を軽く払って、シンヤに向き直した。
「……というわけで、来てくれてありがとう!」
「何が『というわけで』だ。何回やったら気が済むんだよこれ。大体、お前はいつもこうして待ち合わせをすると、遅刻するか早めに来ていて襲撃するかだよな。もっとまともな待ち合わせは出来ないのか!?」
「いっひひー! 初めて会った時のこと、思い出すでしょ?」
「……まあな」
呆れた顔をしたシンヤに対し、得意げに笑った彼女の名前は、
そんなミユとシンヤが出会ったのは、今から1年程前になる。待ち合わせは無かったものの、同じような襲撃を受けた当時をシンヤは思い出していた。
「さーて、恒例行事もやったことだし、目的地に向かいますか!」
「へいへい」
記憶の回想から戻ってきたシンヤのやる気がない返事にムッと来たのか、彼の背中に回って力強くその背中を叩いた。
すると、備える暇もなく受けた痛みに我慢できなかったシンヤは「いってっ!」と大きな声で叫ぶと、木に止まっていた鳥が何羽か驚いて羽ばたいていったような音が聞こえた。
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