第10話「戦闘準備〜適性〜」
仮想世界内における自室へ案内されたのはいいものの、俺は内装に目を向けることが出来なかった。
……というのも。
「おせぇぞゴミが! 次に俺を待たせることがあったら、その脳天ぶち抜いてやるからな!」
「す、すみません……」
部屋の前で師匠が待っており、俺と受付のお姉さんを見た瞬間、本当にパワハラで訴えてやりたいくらいの大声で怒鳴りつけてきたのだ。
「謝罪はいいから、さっさと入れ!」
「はい……」
プログラム上で設定できるだけあって、現実世界よりも技術が進んだこの仮想世界では、師匠が扉の前にいたときはずっと閉まっていたにも関わらず、部屋の主である俺が近付いただけで開いた。
その技術に俺は素直に感心した。
立ち止まって中をじっくりと見る暇も与えられず、師匠に無理矢理押し込まれる中、部屋に立てかけてある1本の剣に目が止まった。
全体的に黒く艶があり、片手で扱うには刃が広く、両手で扱うには全長が短い。ただ1本の剣……というよりかは、何かしらギミックがある『機械剣』のように感じる。
「これは……?」
俺の問いに答えたのは受付のお姉さんだった。
「その刀剣の名は《クロノツクヨミ》。それが我らの最新兵器……なのですが、製作方法がかなり複雑のようで、偶然に偶然が重なって成功したものらしく、複製は不可能。しかも、適性のある人にしか使えないというかなり気難しい一振りなんです!」
「最新兵器? ということは、これが俺の……」
「そうです! 一応、《アリオト》的には使用者も含めて最新兵器として見なされていますので、実質その刀剣はシンヤさん専用になります」
「おお……!」
取り敢えず、受付のお姉さんからこの武器の使用者が俺だと聞いたところで、柄を片手で握って持ち上げてみる。
なかなかの重量に「重っ!」と本音が出てしまったが、持ち上げることは出来た。しかし、これを「自在に振れ」と言われればかなり難しいだろう。
そんな様子を見て、師匠が腕を組みながら補足する。
「ちなみにだが、武器っつーのは各拠点が管理してればいいってもんじゃねぇ。新しい武器ができる度に《全拠点共通データベース》に登録しなきゃならねぇんだ。そいつはもう登録されてるって聞いてるが、全拠点を探してもそいつ1本しかねぇレア物だから、壊したりするんじゃねぇぞ?」
「りょ、了解です……」
俺はその話を聞いて、そっと《クロノツクヨミ》を元の位置に戻す。
「……こいつのアバターは携帯端末とリンク出来たのか?」
「あ、はい! これでもう、現実世界でアプリを起動すれば戦闘モードに切り替えることが出来ますよ」
受付のお姉さん的にも、やはり師匠が恐いのだろう。やや、ビビっている感じが俺にもわかる。
「おし。こっからが俺の仕事だな。いいか、シンヤ? 容赦無くしごいてやるから、ちゃんと付いて来いよ?」
「うっ……はい」
口調から既に荒々しさが出ている師匠の言葉に俺が項垂れていると、受付のお姉さんが「あ、そうだ!」と何かを思い出したかのように俺の肩に手を置いた。
「ん? なんです?」
「言い忘れてました……。サラリーマンから戦闘員への転職、おめでとうございます!」
「はあ……ありがとうございます」
おめでとうも何も、別に望んでこの世界に来たわけではないし、望んでサラリーマンから戦闘員になったわけでもないのだが……。
あまり嬉しくない勝手な転職に、俺は微妙な気分になったが、自分の仕事をきっちりこなしたことに満足したのか、受付のお姉さんは「では失礼します」と言ってこの部屋を後にし、俺は師匠と2人きりになった。
「んじゃまず、戦闘準備から始めるってとこだな。あそこを見ろ」
師匠が指差した先には、机の上にピタリと横に置かれた画面と、その奥側に細長い四角の棒のようなものが置いてあった。
師匠はそれに近付き、横に置かれた画面の電源ボタンを押すと、画面上にキーボードが現れ、奥においてある四角の細長い棒からは仮想モニターが現れた。
「うおっ、圧倒的技術力……」
「こいつで戦闘準備が出来る。端末からアクセス出来る情報はどんな端末を使っても自分のしか出来ねぇ。教えてやるから、てめぇやってみろ」
「あ、はい」
俺は言われるがまま椅子に座り、キーボードと仮想モニターを見た。モニターの方はよくわからなかったが、キーボードは幸いなことに俺の記憶にあるものと同じ配列だった。
キーボードに手を置いてみると、自動的に俺の情報へとアクセスした。現実世界では俺自身と共に携帯端末もケーブルで接続されているので、そこで情報のやりとりをしているのだろう。
「この世界には大きく分けて3つの攻撃がある。法撃・射撃・斬打撃だ」
師匠の説明に俺は違和感を覚えた。俺が元いた世界でやっていたオンラインゲームも同じく3種類の攻撃があったが、だいたい最初に紹介されるのは近接だった。
「師匠。何故、法撃からなのですか?」
「あぁ? モニター見りゃわかるだろうが、基本的に項目は斬打撃からになってる。けど俺の自論だが、斬打撃よりも法撃から説明した方がわかりやすい。まあ、黙って聞いてろ」
「あ、はい」
それからすぐに法撃の説明が始まった。
法撃というのは、空気中に漂っていると言われている《マナ》を火・水・氷・風・雷・土・聖・闇の8属性……通称、
これは誰にでも扱えるというわけではなく、マナとの親和性が高い者でしか要素を生成することが出来ない為、選ばれた人間にしか使えないようだ。
ただ、どんなにマナとの親和性が高くともチップに書き込まれたプログラムがないと要素生成だけで止まってしまうので、本当の意味で魔法とは呼べない。よって、この世界ではこの技術を『擬似魔法』と呼んでいる。
「ちなみにだが、てめぇはマナとの親和性が低いから擬似魔法は使えねぇ。ただまあ、風の要素生成だけは出来るようだが、その程度で法撃メインにするのはやめた方がいいな」
「……俺は元々親和性が低く、法撃には向いていないから《クロノツクヨミ》の使用者として立候補したってとこですか」
「まあ、そんなとこだな」
「でしたら、わざわざ敵の近くにいって危険を冒すよりも、射撃にした方が安全な気がするんですが……」
「てめぇは射撃にも向いてねぇよ。一応、説明しておいてやる」
射撃はその名の通りに、銃火器を用いた攻撃法のことを指している。
アサルトライフルやハンドガン。スナイパーライフルやショットガン等を駆使して戦うのだが、ネックな点は「他の攻撃法に比べて高コスト」だというところだ。
また、1つの武器に対して2つチップを入れられるが、その内容は《照準補助》や《特殊弾》が基本で、他にバリエーションが無く、武器を使い分けられる能力や周りの状況を把握する能力。そして、敵に弾を当てるだけの技能が必要なので、個々の性格や能力に左右されやすい攻撃法であるようだ。
「まあ、射撃は近いうちに体験させてやろうと思うが、てめぇの技量がどうあれ、まずは金がねぇと弾も買えねぇ。こいつをメインにするのもやめた方がいいな。ちなみに俺は、射撃がメインだ」
「やはり師匠は、結構お金持ちなので?」
「はっ! 俺くらいになりゃあ、討伐数がどえれぇことになるからな。それだけ報酬もどえれぇことになるわけだ」
「……俺もそうなれますかね?」
「そいつぁ、てめぇ次第だが、今のままじゃ無理だろうな。んじゃ、最後に斬打撃を説明するぜ」
斬打撃は、近接戦闘を全部含めた攻撃法を指している。
基本的には、片手剣・両手剣・刀・短剣・斧・棍・鋼拳が用いられる。
その最大の特徴は、仮想世界内でレベルを上げていくと手に入る《スキルポイント》で各武器種に合った
それに加え、斬打撃においても武器1つにつきチップを2枚まで入れることができ、その内容で一部ステータスを一時的に上昇させ、戦いを有利に持っていくことができる。
ただし、敵に近付かなければならないという危険があるし、スキルポイントには限りがあって、
「以上がこの世界における攻撃法だ。てめぇは病院で目覚める前に、戦闘員になる為の適性試験を受けているが、結果は斬打撃。おまけに《クロノツクヨミ》にも適性しちまってるもんだから、てめぇはこの道を生きてくしかねぇな」
「ということは俺、片手剣マスターを目指さなければならないということかー……。ゲームなのに適性で戦闘スタイルが決まってしまうとは……」
「ゲームっても、所詮は現実で戦う為の準備ツールでしかねぇ。それに、てめぇは片手剣に拘る必要はねぇよ?」
「え? ですが《クロノツクヨミ》を扱うには片手剣スキルを取らないといけませんよね?」
「まあな。でも、わざわざ《クロノツクヨミ》だけに絞る必要はねぇ。嫌なら別の近接武器を使えばいいだけだからな。その辺はてめぇに任せる」
「…………」
「つーか、むしろ修行期間中は《クロノツクヨミ》の使用は禁止する。この武器はチート級だからな。てめぇ自身の武器に対する扱いを鍛えていかねぇと、どうしようもなんねぇからな」
「えぇ!? じゃあ《クロノツクヨミ》は後に実戦でってことですか!?」
「そいつはそいつでちゃんと訓練させるから安心しろ。防具を装備したら、早速修行を始めるからな」
「いぃぃ……。はい」
俺はその後、仮想端末を利用して装備を整えた。
どうやら防具は外見に左右されるわけではなく、服の所々にあるラインを流れる流体……マナの液体が防御力を向上させてくれるらしい。
愛剣……《クロノツクヨミ》に合わせたデザインの黒いコート調の未来感ある戦闘服に着替えると、俺は腹を括って師匠による修行に臨んだ。
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