第8話「戦闘管理局」
「おい、待て」
俺が靴を脱いで新たな我が家へ入ろうとすると、後ろで呆れた顔をした師匠に呼び止められた。
「家の場所と開錠の仕方はわかっただろ? 内装は後回しだ。さっさとてめぇが戦えるようになるよう、教えなきゃならねぇことはまだある」
「……はい」
「しょうがねぇだろ。文句言うんじゃねぇぞ?」
「もちろん、わかってますよ」
俺は師匠と共に家を後にし、再びバスに乗って部隊管理エリアへと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
部隊管理エリアに辿り着き、俺はここでも驚いた。
建物の数自体はオフィスエリアとあまり変わりはない。しかし、高さがほとんど似たり寄ったりだったオフィスエリアに比べて、部隊管理エリアの建物は高さにかなりバラツキがあった。
そしてその建物1つひとつには、様々なエンブレムが描かれたフラッグが立てられていた。
「師匠。ここは何でこんなに建物のバラツキがあるんですか?」
「ここにある建物は、他のエリアにある建物とは違って、戦闘員同士で集まって結成されたギルドが管理してんだよ。あのフラッグはいわゆるギルドフラッグってやつで、建物が大きけりゃ大きいほど、手柄を立てている大きなギルドって証明になるな」
「ふむふむ。ですが、やたらと大きい建物もあるようですが……?」
建物の高さにはかなりバラツキがあるわけだが、それにしても他の隣接する建物に比べてかなり大きすぎる建物があることに気付き、俺はそれがかなり気になった。
「ああ、ありゃどっちかっつーと、ギルドってより支部って感じかもしれねぇな。……普通、ギルドってのは拠点内の仲間と組むものだが、中には他の拠点にいる戦闘員と組んでる大きなギルドもある。かなり異例な話だかな。そのうち顔を合わせることもあるだろうが、代表的なのは《武士団》《騎士団》《魔術院》の3つってとこだな」
「へー……。師匠は何処かに所属してるんですか?」
こんな質問をしていてなんだが、俺は師匠がどこかのギルドに入っているようには思えなかった。
こんな暴言のオンパレードなドSを仲間として見てる人がいるわけない。
すると師匠は鼻で笑った。
「ハッ! あんなもん、所詮は雑魚同士の馴れ合いだっつーの。俺くらいになりゃ、ギルドなんてシステムはいらねぇのよ」
「それって、仲間がいないってやつでは……?」
「うるせえ」
「すいません」
特に悪気があったわけではなく、あくまでも無意識に言ってしまっただけなのだが、師匠に睨まれた瞬間、俺はすぐに謝らなければならないと思った。
もしもここが未来なのであっても、身体や精神的な実年齢は師匠の方が上である。しかし、俺は実年齢を気にしてすぐに謝ったのではなく、本能的に「ヤバい」と感じたからだ。
「……さっさと行くぞ」
「あ、はい」
とはいえ、師匠は正直あまり気にしていなかったようにも見える。
変わらない若干低めのテンションを維持したまま、師匠と俺は1番大きな建物へと入っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その建物は、わざわざ師匠に聞かずとも、自動ドアから入ってすぐにあるホールの中央に置いてある1辺約1.5mほどの正方形をした岩盤に《アリオト戦闘管理局》と名前が彫られていた。
その岩盤を中心に囲むような形でカウンターがあり、利用者が対応待ちできるようにジェル状のソファがあった……!
その姿はまるでSF系ゲームの中。ジェル状のソファに腰掛けている人は当たり前のような顔をしているが、俺から見れば待っている間の座っている苦しみがまったく感じさせられないように感じる。
個人的にはそのソファに座って見たい気持ちが山の如しだったのだが、師匠は止まることなく歩き続け、俺はひたすらそれについていく。
戦闘管理局には沢山の利用者が対応待ちをしていたが、好奇心で辺りを見回していると、周りの人からチラチラ見られている気がした。
「……チッ」
「!?」
斜め前を歩く師匠が急に舌打ちをしたので驚いた。
そして師匠はわざとなのか、周囲の人にも普通に聞こえるくらいの声量で俺にこう言ってきた。
「おい、シンヤ。てめぇ、間違ってもあんなゴミ共みてぇになるんじゃねぇぞ? ま、この俺が鍛えてやるんだから、そうはならねぇだろうが一応な」
「は……はい」
俺は師匠の言葉の意味があまりよくわかっていなかった。ただ、彼らが見ていたのは俺ではなく、師匠なのだということは何処だがわかっていた。
何故、彼らが師匠の方をチラチラと見たり、人によってはコソコソと話を始めているのか……。
それを知ったのは、かなり先の事となる。
不機嫌が顔に出ている師匠についていくと、やがて1つのカウンターの元へ辿り着いた。
そこの受付をしていると見られる、茶髪の優しそうなお姉さんは、師匠の顔を見て素直に驚いていた。
「あっ、山科さーん! こんなところに足を運ばれるなんて珍しいですね! 本日はどういったご用件で……?」
「ん? ああ。例の新兵器を連れてきた。こいつの端末、まだ登録が済んでねぇだろ?」
「うーん、それは見てみないとわからないですね」
受付のお姉さんは、視線を師匠から俺に移し、すごく優しそうな笑みで問いかけてきた。
「端末、見せていただいてもよろしいですか?」
「えっ、あっと……端末?」
俺は彼らの話している内容が全く理解できなかった。
最初に聞いたことだが、新兵器とは恐らく俺のことだろう。しかし、端末とは? 登録しないといけないとは、どういうことなのだろうか?
割と機嫌が戻りかけていると見える師匠は、俺に怪訝そうな顔を向けている。
「てめぇ、端末を受け取ってねぇのか? 携帯端末だ」
「ああ! それならここに……」
俺はズボンのポーチに入れていた携帯端末を受付のお姉さんに渡す。
「はい、確かに。すぐに調べますから、この場で少々お待ちください!」
「あ、はい」
受付のお姉さんは、携帯端末を近くにあったパソコンに繋ぎ、可愛らしく優しい外見からは全く想像できないほどの速いタイピングで、端末の中を見始めた。
30秒ほど経過したところで俺と師匠に向き直し「お待たせしました」と会釈した。
「んで、やっぱ未登録だろ?」
「はい、どうやらそのようですね……。本来なら卒業認定証が無ければ登録が出来ないようになっていますが、代わりに管理者権限による承認が中に入っていましたので、登録は可能のようです。今すぐいたしますか?」
お姉さんは俺の方を見て聞いてきたので、俺が答えるべきなのだろうが、俺には決定権がないようで師匠が勝手に答えた。
「ああ、もちろん。速攻だねぇ!」
といっても、登録すれば戦うことになる。それはつまり、命のやり取りが始まるわけだから、やはり本人の承諾が必要なのだろう。
お姉さんはかなり困った顔をしていた。
「お、俺は……」
かく言う俺も、正直なところ覚悟が出来ていない。
日本で戦争とは無縁の生活を送っていたこの俺が、急に命のやり取りが始まると言われても実感がないし、既についさっき、背中を刺される激痛を味わったばかりなので、とても「戦いたい」だなんて言えない。
結論はどうあれ、時間が欲しかった。
「あぁ!? てめぇに迷う権利なんかねぇんだよ! さっさと承諾しろ!!」
俺が黙り込んだのが気に入らなかったようで、せっかく戻りかけていた師匠の機嫌がまた悪くなった。
怒った師匠の勢いがとてつもなく恐く感じるが、俺はそれでも勇気を振り絞って本音を言ってみる。
「師匠。それってパワハラ(パワーハラスメント)に該当するのでは……?」
「何がパワハラだ! この、クソがっ!! いいかよく聞け! てめぇが今ここにいるのは、これからてめぇが戦う為だ。戦えねぇだの怖いだの、ごちゃごちゃ言った瞬間、てめぇの頭をぶち抜いてやるからな! わかったか!? わかったなら早く承諾しろ! クソがっ!」
「ひ、酷い言われようだなぁ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます