第7話「弟子入り」
俺が戦う決意をした直後、話は終わったかと思ったら、まだ話は続いた。
というのも、いくら強大な力を秘めているとはいえ、いきなり実戦投入というわけにはいかないからだという。
「だから君にはまず、とある人物に弟子入りしてもらおうと思う」
「弟子入り!?」
俺がそう、裏返った声で驚くのと同時に、俺がついさっき一生懸命に開けた扉を、足で大きな音を立てて開けたと思うと、ポケットに手を突っ込んで、その男は《マスタールーム》に入ってきた。
少ない明かりに照らされて見るからに、その男は俺の1回りほど歳上に見える。
あまり友好的とは言えない態度での入室だったにも関わらず、《マスター》は気さくに挨拶と紹介を始めた。
「よく来てくれたね、ユウ。彼が君の弟子となる
「ど、どうも」
俺がそう軽くだが挨拶をすると、ユウと呼ばれたその男は、あからさまな舌打ちをした。
「ちっ。んで、こいつは使いもんになるのかよ? 色々教えた挙句、ゴミカスだったらこっちが気分わりぃだけなんだけど?」
「んなっ!」
舌打ちにも驚いたが、年下とは言えど初対面の相手に対してこの態度とは、いささか人としてどうなのだろうか。
俺の気持ちを察してか、《マスター》は苦笑いで彼を紹介した。
「この口が悪い彼は
「ふーん。ま、見るからに雑魚そうだから、てめぇがなんと言おうと、期待値はねぇがな」
「ざ、雑魚そう……?」
彼の口の悪さには《マスター》も呆れているようで、困った顔で左右に首を振った。
「やれやれ。君のそういうところは相変わらずだね。それじゃあ、誤解されるままだよ」
「余計なお世話だ。まあ、俺がどうにか鍛えて、ちったぁ使えるようにしといてやるよ」
「ああ、よろしく頼むよ。それじゃ、話は終わりだ。解散!」
俺は何が何だかよくわからないまま、この男……師匠にすることを考えると、かなり憂鬱だと感じながら、師匠と一緒に《マスタールーム》を後にした。
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狭く、趣味の悪い廊下を抜け、再びエレベーターに乗って上に上がった。
俺の知っている世界よりも、かなり科学技術が進歩している病院の受付場所を無言で通り過ぎ、自動ドアを潜って外に出ると、俺は目の前の光景に感動を覚えた。
入院患者を多く収容することを可能とした病院は庭も広く、そして入院中の患者に出来るだけストレスを与えないように考慮されているのか、果てしなく広がる海の地平線が左右の庭を越えた先に見えたのだ。
ここは本当に海上都市なのだと、俺は思い知らされた。
「おい、てめぇ。そんな景色はこの先いくらでも見られるんだから後にしろ!」
「…………はい」
そんな俺の感動を、我が師は無遠慮に踏みにじる。
果たして俺は、この人の元でやっていけるのだろうか……?
師匠に続いてひたすら歩くと、やがて高くそびえる建物が沢山並ぶ街中へと入っていった。
俺が前方左右に見える大きな建物をキョロキョロと見回していると、師匠は呆れたような声でまたも水を差す。
と、思いきや、普通に解説を始めた。
「あの野郎(《マスター》のこと)からある程度のことは聞いてると思うが、ここは第5の拠点である《アリオト》の中だ。地球に戻ってきてから拠点を広げていく際、建物の建て方……つーか、位置ってのをしっかり整理したんだ」
「へー……!」
「基本的に拠点内はエリアで分かれていて、このうざってぇビル群はオフィスエリアって呼ばれてる。他に、商業エリア・居住エリア・出撃エリア・部隊管理エリアと色々別れてんだ。今回はとりあえす、てめぇの家を教えねーといけねぇから、住宅エリアに向かうぞ」
「わかりました!」
俺と師匠は途中でタクシーを拾い、居住エリア行き専用の電車に乗り換え、大したストレス無く、目的地へと辿り着いた。
交通の面もなかなか試行錯誤されており、各エリアへ移動するときには専用の電車に乗っていくことで、渋滞に巻き込まれて帰りが遅くなることはない。
しかし、自動車が普通に走っている以上、やはり渋滞は避けられないようで道路は混んでいるが、タクシーやバスは専用の道路があり、行き先ごとにルートが指定されているようで、お金をかければその分だけ移動も楽になっているようだ。
居住エリアに着き、俺がこれから住むである家に向かいながら、俺は師匠に質問をぶつけた。
「師匠。質問があります」
「あぁ?」
「タクシーで移動中、歩行者用の信号がないようでしたが、徒歩ではどうやって移動するんです?」
「ん? あぁ。徒歩の場合、地下に作られた道を歩くんだ。地上で人間が交差点に入らないよう、地下に続く出入り口が作られているから、目的地に1番近い出入りまで地下道を通って移動するって感じだな。まあ、そう遠くねぇうちに、自分で見に行ってみろよ」
「はい、わかりました」
どうもこの師匠は、基本的に寄り道とかはしないようだ。
まあ、この人にいきなり「飯行こうぜ」と言われたとして、行けはしてもご飯が喉を通るとは思えないので、案外これがベストなのかもしれないと、俺は思った。
それはそれとして、居住エリアという名前が付いているだけあって、家だけが立ち並んでいた。
1つくらい、古い家があってもいいと思うが、これがまた驚くことにどの家も綺麗で未来的だった。
そんな家たちが立ち並ぶ中、先頭を歩く師匠が突然歩みを止めた。
「っと、ここか。ここがてめぇの家だ。中に入ってみろ」
「あ、はい」
病室の扉は自動だったが、住宅は普通に手動で開ける扉だった。
そんなに珍しくない、俺が元いた時代では割と綺麗で新しい家に付いている、引っ張れば開けられる扉だ。
俺は右手で取っ手を持ち、勢いよく引っ張った……!
「…………あれ?」
家の扉が開かない。
考えてみれば、ついさっきまで留守中だった家の扉が、鍵閉まっていないわけがない。
俺は無言で師匠に助けを求めようと顔を向けると……。
「ぎゃははははは!! いひ、いひひひひ!」
「…………」
腹を抱えて笑っていた。
「て、てめぇ馬鹿なんじゃねぇのか!? 扉はロックされているに決まってんだろ! ってか、解除の仕方も知らねぇのかよ! 馬鹿なのか!? いーひひひひひ!!」
「しょ、初見なんだから仕方ないじゃないですか! 笑ってないで開け方を教えてくださいよ師匠!!」
「あぁ? 一生そうやってりゃいいじゃねぇかよ、最高におもしれーぜ!?」
「面白くありません!」
結局、師匠はいつまで経っても教えてくれる様子を見せなかったので、俺は頭にきながら、周りを見回した。
すると、インターホンの横に黒いガラスが張られているのを見つけ、目を凝らして中をよく覗くと、それが何かの機械であることがわかった。
俺は無意識で壁についた黒いガラスの表面に、右手のひらを付けた。
すると、扉の方から「カチャリ」と開錠される音が聞こえたので、俺は市場に向かってドヤ顔をしてから今度こそ勢いよく我が家の扉を開けた。
「チッ……つまんねーの」
師匠は俺が扉の解除に成功したことが気に入らなかったようだが、俺の耳と心にはご不満を表した言葉は響かず、代わりに玄関をくぐった先に見えた内装に感動していた。
「おお……! 俺はこんな家に住んでいいのか……!」
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